第二十話 新しいママ

3.{『ママ』の抱擁


 「やー!いゃー!!」

 『ボク』は足に絡みついた煙を引きはがそうと、反対側の足で何度も蹴った。 でも、煙は蛇の様に這い上りパジャマのズボンの裾からするすると昇ってくる。

 「だめー!」

 『ボク』はパジャマのズボンに手を入れ、中の煙を捕まえようとした。 でもやっぱり煙を捕まえることはできず、するすると手を掻い潜り、おへそから胸へと

上がってくる。

 「いやー! 来ないでー!」

 パジャマをはだけ、胸を叩いて煙を追い散らそうとする。 そうしているうちに、とうとう煙が口元へと上がってきた。

 「んー!」

 『ボク』はとっさに口をつぐみ、息を止める。 なぜかわからないけど、これを吸い込んじゃダメだと思い込み、息を止めて我慢する。

 ……パタッ バタバタバタッ!

 煙が口の周りに張り付いて離れない。 息が苦しくなってくる。 『ボク』は我慢に我慢を重ね……我慢できなくなって息を吸った。

 スゥーッ……

 「!……」

 煙は甘い香りがした。 そう思ったのを最後に『ボク』は気が遠くなった。


 ”『ボク』……ねぇ『ボク』?”

 「……?」

 『ボク』は『新しいママ』の声で目を開けた。 気を失っていたみたいだけど、時計を見ると5分も経っていない。

 ”ねぇ……開けて……『ママ』が怖いわけじゃないでしょう……”

 『新しいママ』が言っている。 そう、怖いことなんかあるものかと『ボク』は思い、胸に手を当てる。

 ト……ト……ト……

 あれ? 心臓の音は少し早いけど、さっきまで見たいにドキドキしていない。

 ”ねぇ……開けて……『ママ』とお話して……”

 うーん。 どうしようかと『ボク』は思った。 さっき『新しいママ』の背中に羽が生えたのを見たときは、すごく怖かった……でも今は怖くない。 よく考えれば

さっきのは見間違いかもしれない。

 「判ったよ、『ママ』戸を開けるからね」

 『ボク』はベッドから降りて扉の前まで行き、鍵を外して扉を開けた。

 「よかった。 『ボク』に嫌われたかと『ママ』思っちゃった」

 薄暗い廊下に『新しいママ』が立っている。

 「……」

 間違えないように、今度はしっかりと見てみる。 『ママ』の背中には羽が……生えている。 尻尾は……やっぱり生えている。 それだけじゃない。 なん

と『新しいママ』の頭には角が二本生えている。

 「……あ」

 そこで『ボク』は大事なことを見落としていたことに気が付いた。 『新しいママ』は……裸だった。


 「……」

 「ねぇ『ボク』……」

 「『ママ』、中に入って」

 『ボク』は、『新しいママ』を部屋の中に入れて、扉を急いで閉めた。

 「どうしたの?」

 「『ママ』、裸で廊下にでちゃだめだよ」

 「あら、そうたったの?」

 『新しいママ』はあっけらかんととした顔で笑っている。

 「そうだよ、『ママ』の国ではいいのかもしれないけど、日本ではあんまりそういうことをしちゃいけないんだ」

 「そうなの。 『ママ』あんまりそういうこと判らなくて……それより『ボク』さっきは怖がらせちゃったみたいね、ごめんなさい」

 『新しいママ』はそう言って、僕に笑って見せた。 

 「怖がったりなんかしていないよ! ちょっとびっくりしただけで……」

 『ボク』は強がって見せた。

 「そうなの? ああ、よかった。 『ママ』のこんな姿を見られちゃったから、てっきり『ボク』に嫌われたと思って」

 そう言って『新しいママ』は胸をなでおろそうとした。 でも『新しいママ』の胸はすごく立派だったので、うまく胸をなでおろせない様子だった。 その様子が

なんだかおかしくて、『ボク』は笑ってしまった。

 「あら、『ボク』が初めて笑ってくれたわね」

 『新しいママ』そう言って、ボクのベッドに腰を下ろした。 『新しいママ』の頭が目の前に来たので、角が生えているところかよく見えた。 角は耳の上

あたりからの生えていて、5cmほどの長さがある。 どうして食事の時は気が付かなかったんだろうと『ボク』は思った。

 「ねえ、『ママ』……その角や羽や尻尾……」

 「ああ、これ?」

 「うん……夕食の時には気が付かなかったけど……」

 「ああ、夕食の時には隠していたのよ」

 何でもない事の様に『新しいママ』は言った。

 「この角や羽、尻尾は隠せるの。 便利でしょう」

 「へー……」

 『ボク』は素直に驚いた。 どんな風に隠すのか、見てみたい気もしたけど、裸の『ママ』にそれを聞くのは、なんだか悪いような気がした。

 ブルッ

 長々と話をしていたら、体が冷えてきたもたいだ。 『ボク』はパジャマと下着だけで、『新しいママ』は裸だ。 風邪をひいてしまう。

 「寒いの? そうね、お話は明日にして、今夜は寝ましょう」

 「うん、そうだね」

 『ボク』は頷くと、『新しいママ』の座っているベッドに上がった。 すると『新しいママ』毛布をめくり……『ボク』の隣に横たわる。

 「『ママ』?」

 「今夜は一緒に寝ましょう」

 『ボク』は慌てた。 本音を言えば『新しいママ』といっしょに寝るのはうれしい気がする。 でも、恥ずかしい気もするし、子ども扱いされているような気もする。

『ボク』のプライドがそれを許さない。

 「『ボク』?」

 「『ママ』! 『ママ』は『パパ』と一緒に寝ないと。 だって、結婚したんでしょ!」

 ことさら強い口調になったのは『ボク』の本音を隠すためだったけど、『ママ』はお見通しといった顔で笑っている。

 「『パパ』はお疲れなの。 それにこれからいくらでも一緒に寝れるわ。 今夜は『ボク』と初めて会った日の夜だし、一緒に寝ましょう?」

 「えー……う、うん。 しょうがないなぁ」

 『ボク』はそう言うと、『新しいママ』の体に毛布をかけようとした。 すると、『新しいママ』が笑って『ボク』の手を制し、逆に『ボク』の毛布をめくりあげる。

 「『ママ』?」

 「こうするのよ」

 横たわった『新しいママ』は羽が大きく広げ、『ボク』の体を抱き寄せる。 そしてて『ボク』の体に毛布の様に羽を覆いかぶせた。 『新しいママ』の羽の下で

裸の『新しいママ』が『ボク』を抱きしめる。

 「ほら、これなら暖かいでしょう」

 「う、うん……」

 『新しいママ』の羽は『ママ』の体と同じ匂いがして、『新しいママ』に包み込まれたみたいだった。 『ボク』は安心できるような、それでいて落ち着かない

様な変な気分になった。

 「ねぇ、『ママ』?」

 「なに?」

 「『ボク』は暖かいけど、『ママ』は背中が出ているから寒いんじゃないの? 上から毛布をかけなよ」

 「んーそうねぇ……じゃあこうしましょう」

 『新しいママ』は笑って言うと、『ボク』のパジャマに手をかけた。

 「『ママ』?」

 「大丈夫よ。 脱ぎ脱ぎしちゃぉ」

 『新しいママ』はそう言って、『ボク』をすっぽんぽんにしてしまい、自分はベッドに仰向けに寝そべった。

 「さ。 私の上に腹ばいになって」

 「えー……うん」

 『ボク』はすっぽんぽんにされ、その上裸の『新しいママ』に抱き着くのはすっごく恥ずかしかった。 でも、柔らかくていい匂いがする『新しいママ』の体に

抱き着くと、ふんわりとしていい気持になってきた。

 「『ママ』……」

 「ま、甘えた声を出して……いい子ね……」

 『新しいママ』はそう言うと、羽をゆっくりと閉じてきた。 裸の背中に、ビロードの様な感触の羽が心地よい。

 「あ……『ママ』に包まれちゃた」

 「そうね……これで『ボク』は『ママ』にくるまれて……フフ……すっかり『ママ』のものね……」

 「うん……」

 『新しいママ』の声には、嬉しそうな響きがあった。 そう思いながら『ボク』は『新しいママ』のおっぱいに顔を埋めた。

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