第十九話 ランプのせい

5.変心


 「……」

 男の頭の中にジーニーの言葉があふれる。 すべてが現実感を失い、目を開けたまま寝ているような感じがする。 

 (ああ……そうだ)

 頭の片隅で一つの言葉が浮かんだ。

 (徹夜続きで寝不足の時とそっくりだ……)

 起きているのに頭が働かない。 頭の中で理性が、感情が、混沌の渦に流されてバラバラになっていく。

 ”クフッ……フフフフフッ……”

 その奇妙な感覚の中で、ジーニーの言葉だけがくっきりと響いてきた。

 ”……ご主人様ぁぁぁぁ……一緒に楽しい事をしましょうぅぅぅぅ……”

 奇妙なほどかわいらしいく聞こえる言葉に、思わず頷いてしまいたくなる。 が、頭のどこかで『疑問』が異議を唱える。

 (……ジーニー……お前はなんなんだ……なぜこんなことをする……)

 ”……あれぇぇぇぇ……楽しい事はぁぁぁぁ……お嫌いですかぁぁぁぁ……”

 (……なぜ……ことをする……)

 『疑問』の言葉に『理性』が反応した。 ジーニーは突然現れ、怒涛の様に彼を押し倒し、快楽の嵐へと引きずり込んだ、彼に考える暇を与えないかのように。

 (……お前に……なんの得がある……)

 (……お前の……目的は何だ……)

 『理性』『疑問』『損得勘定』が異議を唱え、ばらばらになっていた男の心がまとまろうとしている。

 ”……知りたいですかぁぁぁ……フフッ……フフフフフッッ……”

 ジーニーの顔がグチャリと崩れ、一瞬で見慣れた形に変わる。

 「おっ?」

 瞬間『好奇心』が主導権を握り、それを見定めようと目の焦点があう。 

 「お、おま〇こ……69?……」

 ジーニーのゼリー状の体は、男との体位を一瞬で69に変えていた。 もっとも、長く伸びた舌は男の耳に入ったままだったが。

 ”……ゆっくり……教えて差し上げますから……今度はこっちで……フフフフフッッ……”

 赤い秘所がプルンと揺れて男の顔に迫る。 同時に生々しい女の甘い香りが顔に吹き付けられた。

 「うっ……」 

 妖しい香りに『欲望』が『理性』を押しのけて前に出て『好奇心』と結びつく。 

 ”……さぁ……舐めて……私も……舐めて彩あげますからぁ……”

 ジーニーの舌が、男自身に絡みつく。 皮膚の下にかくれた神経。 それを直接刺激できるというジーニーの舌の感触に、息子がたちまちいきり立つ。

 「うおっ……」

 反射的に、男の体はジーニー秘所に顔を埋める、深々と舌を差し入れていた。

 ”あ……ぁぁぁぁぁぁ……”

 頭の中に、ねっとりとしたジーニーの嬌声が響きわたった。 その声に誘われるように、男の体は夢中でジーニーの奥をかき回し続ける。


 (ああ……甘い……)

 (ああ……蕩けそう……)

 男の『味覚』と『触覚』はジーニーに支配されつつあった。 そのなかで、『疑問』が答えを求めて儚い抵抗を続ける。

 (なぜ……なぜで……)

 ”ご主人様が……貴方が……欲しいからですぅ……”

 ジーニーの言葉に、『自尊心』が一瞬くすぐられた。 しかし、続く言葉に『疑問』が膨れあがった。

 ”ご主人様と……ひとつになりたいですぅ……”

 (……どういう意味だ……それは……お前は願いを叶える……『ランプの精』じゃないのか……) 

 ”違いますぅぅ……あれはジーニーの『入れ物』ですぅぅぅ……”

 男が瞬きする。 ジーニーの答を受けて、『理性』が『分析』へ仕事を投げた。 しかし、『分析』は「データ不足で意味不明」と仕事を投げ返す。

 (……ランプの精じゃない……では……なぜこんな事を……)

 ”ご主人様と一緒になるため……”

 ”ご主人様と気持ちよくなるため……”

 ジーニーの回答は要領を得ず、答えが出ない。 その中で『ひらめき』が答を出した。

 (……ランプは入れ物……俺と一つに……俺を……入れ物に!?……)

 ”ああんご主人様ぁ……すごいですぅ……言わない先に正解をですなんてぇ……”

 ジーニーの答えを『恐怖』がひったくる。

 「なんだとぉぉぉぉぉ!?」

 男は叫んで跳ね起きようとしたが、叫びはジーニーの胎内へと吸い込まれ、跳ね起きようとした体はジーニーの柔らかな粘りに受けとめられてしまった。 

間髪を入れず、ジーニーの口が男のモノを陰嚢までを咥えこみ、ぐちゃぐちゃとかき回す。

 「うぐぅ!?……うぅぅぅ」

 深い、とても深く甘い疼きが股間のモノを支配し、ジーニーの声が頭の中へと響き渡る。

 ”ほーら……とっーても気持ちいいしょう?……もっと……楽しみましょう……”

 「そ、そして……俺を中からを……喰う気かぁ……」

 男の声に怯えと恐怖の色が濃い。 

 ”ご主人様ぁ……そんなご主人様がいなくなるような……ことは……しませんよぉ……”

 ジーニーの言葉に、男が首を振る。

 「う、嘘つけ……い、入れ物にするんだろうがぁぁぁ……ぅぅぅぅ」

 ジーニーから逃げ出そうともがくが、体が思うように動かない。 それは、ジーニーの粘り気だけが原因ではなかった。 頭の中に響くジーニーの声に、

心がかき乱され、うまく思考することが出来ないのだ。 いま抵抗しているのは、『恐怖』が男の主導権を握っているからだった。

 ”はーい……ジーニーは……ご主人様を入れ物にします……でも……ご主人様が生きたままですぅ……”

 「な……に……?」

 ”こうやって……ご主人様を気持ちよくして……溶けあっちゃいます……”

 「だ!」

 ”そして……お高いに気持ちよくなりますぅ……とーっても……素敵ですぅ……”

 「じょ、冗談じゃないぞぉぉぉ……」

 恐怖が高まり、男はなおも抵抗する。 しかしさんざんジーニーに弄ばれた体は力を失い、徐々に抵抗力が弱まっていく。

 (だめだ……力が……)

 ”暴れないでください……一つになると……気持ちいいですよぉぉぉ……”

 (ああ……そうかもしれない……)

 (いっそ……されるがままに?……)

 「ば、何を考えてる、俺はぁ! わっぷ!」

 自分の考えに戦慄し、男は大声を上げた、ジーニーの秘所に顔を突っ込んだままで。 その時、男はさっきほど恐怖を感じなくなっているのに気が付いた。 

赤いゼリーの様な女体に慣れてきたせいだろうか。

 「我ながらなんて情けない……女に見えりゃ、何でもいいのか」

 ”フフ……違いますよぉ……”

 「なに?」

 ”ジーニーが……ご主人様が゜ジーニーを嫌いになる……そんな嫌な心を舐めて溶かしているですう……”

 「……なんだと?」

 ”『恐怖』とか『疑問』とか……ジーニーを拒絶する心を……舐めとっているんですうぅ……”

 男は愕然と……しなかった。 いや、できなかった。 恐ろしいことのはずなのに、そう思うことが出来ない。 それどころか、一生懸命尽くしてくれるジー

ニーを愛しく思う心が、だんだん大きくなってくる。

 ”フフ……ご主人様は、だんだんジーニーが好きになりますうぅぅ……そして最後は……喜んで……一つになってくれますぅぅぅぅ……”

 「そいつは……ふふっ……ふふふふっ」

 男は笑った。 なぜかわからないが嬉しくなってきたのだ。 男は笑う、心の底から。

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