第十九話 ランプのせい

4.交わり


 (キスだけであれ……)

 男の不安をよそに、ジーニーは彼のモノに手を伸ばす。

 ヒヤリ……

 冷たい手の感触に続き、ジーンと沁みるような奇妙な感覚があった。 

 「お!? 待てよ」

 男は上体を起こし、ジーニーを制止した。

 ”あら……ご不快でしたか?……”

 言葉遣いこそ丁寧だが、ジーニーの口調にはどこか男を下に見ているような響きがあった。

 「そ、そうじゃないが……なんだ、お前の……サービスはなんか普通と違うよな」

 ”あら……お褒め頂き、有難うございます”

 「別にほめた訳じゃ……その、どうすりゃそんなことが出来るのか、説明してくんねぇかな」

 ちょっと強がって見せた男に、ジーニーは嫣然と微笑んで見せる。

 ”そうですね……では……”

 ジーニーは男のモノから手を放し、彼の胸に顔を埋めた。

 ”説明しましょう……” そう言いながら、彼女は赤い舌を男の胸に這わした。 ”お楽しみいただきながら……”


 男の胸の上で、赤い舌が大きなナメクジの様に這いまわる。 ヌメヌメした感触はあるがそれだけだ、特にどうという事はない。

 「普通だな?……」

 ”ええ、今は……ですがこうすると……”

 舌の動きが止まる。 と、舌の触っている辺りに何か沁みてくるような感じが伝わってきた。

 「お!……」

 声を上げかけた男を、ジーニーは緑色の目で制し、舌をゆっくりと動かしていく。

 ゾワゾワゾワ……サラサラサラ……

 滑ったものがゆっくりと肌の上を這いずり、続いて肌の奥底を絹の様なものが撫でていくような不思議な感覚があった。

 「……なんだ……これは……」

 未体験の感覚に声が上ずる。 ジーニーは男の胸を舐めながら、器用に顔を上げて見せた。

 ”いかがです?……悪くないでしょう?……”

 「あ?……あぁ……」

 頷きながら、男はジーニーの舌の動きを観察する。 べったりと張り付いた赤いゼラチンのような舌は、ナメクジの様なゆっくりとした動きで彼の肌の上を

動いている。

 「やたらに……感じるんだが……」

 ”でしょう?……フフフ……”

 ジーニーはのどの奥で笑って見せた。

 ”では、種明かしを……私の体はこのとおり、ドロドロです……”

 そう言いながら、ジーニーは男の手を自分の手に導く。 反射的に握った手は、弾力のある果実に潜り込み、ねっとりとしたゼリーの中を泳いでいた。

 ”ですから……ご主人様のお肌の下へと染み込んで……神経を直に触ることが出来るのですよ……”

 ジーンと染みるような感じが手を包み、男は慌てて手を抜こうとするが、ジーニーの乳房に深く入り込んでいてなかなか抜けない。

 「は、肌の下ぁ!?……お前、そんなことしたら赤向けになって、めちゃくちゃ痛くなるんじゃぁないのか!?」

 ”いえいえ……ほーら……”

 そう言いながら、ジーニーは胸をゆすって見せた。 その動きに意味があるとは思えなかったが、彼がそれら気を取られているうちに、絹で包まれるような

感触が手を覆っていく。

 「おぉ?……」

 ”どんな感触も自由自在……ほら……”

 「いっ!?」

 突然、手が滑った何かを感じた……いや、そういうものの中に突っ込んでいるのだが、ゼラチンではなく滑り蠢く幕に包まれているかのよう……まるで。

 「……女の子の中みたいだ……」

 呆然と呟く男、そのモノに冷たいものが触れる。 ハッとしてみると、ジーニーが彼のモノに自分の秘所をあてがっている。

 ”さぁご主人様……感じてください……”

 ズブリと男のモノが赤い女体の中に沈む。 半透明の女の下半身の奥で、それはクラゲに捕まった魚か何かのように見えた。 次の瞬間、その『魚』が

ビクビクッと蠢き、一拍遅れて。

 ゾクゾクゾクッ……

 「うおっ!?」

 彼のモノを何かが弄る感触があった。 執拗に、それでいて優しく、彼自身を無数の肉襞が愛撫している。

 「ジ、ジーニー?」

 ”感じるでしょう?……”

 言われるまでもない。 記憶にない鮮烈な感覚に、股間のモノが狂喜しているのが判る。 あまりの快感に、男は恐怖すら覚えいていた、だが。

 ”クフフフ……怖がらないでくださいまし……ほら……ほら………ほらほらほら……”

 ジーニーの中に捕まっている男自身は、完全にジーニーの言いなりだった。 彼女が与える快感をどん欲に吸収して、狂喜してのたうっている。 あまりの

快感に達することも忘れて。 そして、その快感は、本来の持ち主に余すことなく伝わっている。

 「うあ、うぁ、うぁぁぁぁぁ!?」

 股間から伝わってくる快感の荒波に、男は思考することすらままならず、ただ悶えていた。 男のモノはぎゅっと縮み上がり、暴発寸前らしいのだが、

ジーニーの『愛撫』がそれを許してくれないらしい。

 「ジ、ジーニー……い……いかせて……」

 ”あら……これはとんだことを……”

 ジーニーの『愛撫』が緩む。 同時に男のモノが、熱い情熱を弾けさせる。 

 ”ああ……熱い……ご主人様の熱い愛を感じます……”

 男の精を受け止めたジーニーは、男の上で胸を揉みながら背筋を反らして喜ぶ。 そのジーニーの下で、男は嵐のような快感から解放され、ぐったりと横た

わり、ただ男のモノだけがヒクヒクとジーニーを喜ばせていた。


 ”ああ……ご主人様ぁ……”

 男のモノが力を失うと、ジーニーは腰で彼とつながったまま、その胸に体を預けて来た。 ヒヤリとした女体が、熱い体に心地よい。

 ”フフ……ご主人様?……”

 男は薄目を開け、ノロノロと横を見る。 相変わらずの笑みを浮かべた赤い顔の中で、緑色に光る眼が彼を見ている。

 「……」

 男は口を開きかけてやめた。 口を開くのももうっとうしいほどの倦怠感が全身を覆っている。 ジーニーはそれをどう見たのか、甘える様に耳をはんでいる。

 「……」

 鬱陶しそうに首を振ろうとした時、ジーニーの舌が耳の中に入り込んできた。 と、ザリザリっという音が耳に響く。

 「!?」

 驚いて飛び起きようとした瞬間、彼の時間が止まった。 目を見開いたまま硬直した男に、ジーニーは囁く。

 ”一緒に楽しい夢を見ましょう……ご主人様ぁ……フフ……フフフフフフ……”

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