第十九話 ランプのせい

3.キス


 ジーニーは男の太腿の上に跨り、妖しい笑みを崩さない。 赤い半透明の右手で男の息子を弄り、左手で自分の乳房をゆっくりと揉んでいた。 赤い肢体

が薄暗い灯りで滑る様に光り、非現実的な妖しさで男を誘っている。

 (なんか変だぞ……)

 男は自分の息子とジーニーの顔と、彼女の手の中の息子を交互に見ながら、強い不安を覚えた。 さっきジーニーに一度いかされた直後なのに、息子は

やたらと張り切っている。 ジーニーの『奉仕』は巧みだが、それにしても異常だ。

 「あー、少し休まない? ジーニーばっかり動いているし」

 わざと明るい口調で話しかけながら、男は肘をついて状態を起こし、ジーニーの右手を掴んだ。

 ジュブリ……

 「いっ?」
 かすかな抵抗を感じただけで、男の手はジーニーの手首を握りつぶした……と見えたが、ジーニーは動ずる様子を見せない。 あっけにとられていると、

ジーニーの手首をつかんだまま拳の指の隙間から、赤いドロリとした液体がニュルニュルとにじみ出て、男の手を包み込もうとするではないか。

 「わっ!?」

 男は慌てて手を放した。 自分が掴んでいたジーニーの手首に視線をやると、自分の指の跡が残っていて、それが元に戻るのが見えた。

 「わ、悪いそんなつもりじゃ……いやそうじゃなくて、どうなってんだお前の体は……」

 声が震える。 男は、目の前にいる赤い女が、得体のしれない存在であることに、いまさらながら気が付いた。

 ”まぁ、私の体を心配してくださるのですか? ご主人様ぁ……”

 ジーニーは、言葉使いは丁寧だが、どことなく馬鹿にしたような口調でそう言うと、男にしなだれかかってきた。 赤い肢体が、男の体に覆いかぶさってきた。

 ペタ……リ

 冷たく滑る肌が、下半身に吸い付いて来た。 上半身はまだシャツを着たままだが、薄い生地の向こうにジーニーの冷たい肌があるのがわかる。

 「ひいっ!」

 ベッドの上で後ずさろうとする男。 しかし下半身がジーニーの肌に吸い付き、思うように動けない。

 ”ウブなのですね……うふふ……フフフフフフ……”

 含み笑いをしながら、ジーニーが顔を近づけてくる。

 「よ、寄るなぁ!!」

 両手で、ジーニーの肩を掴……んだつもりが、手首の時同様に指がジーニーの中に潜り込んだ。 そのまま拳を握ってみるが、ジーニーは意に介さない

様子で、顔を近づけてくる。

 ”では……キスから……”

 「くぅっ!」

 顔を右に向け、ジーニーの唇を避けた。 ジーニーは目標を外され、男の耳に口づけする形になった。

 ”怖がらないで……”

 甘いささやきが聞こえた……と思ったら耳の中にジュルリと何かが滑りこんで来た。

 「あっ!……?」

 世界が止まった。


 ’……なんだ?’

 目の前にジーニーがいる。 さっきまでと変わらない光景。 ただ現実感が乏しく、夢を見ているようだ。

 「ご主人様ぁ……」

 ジーニーの声がした。 なぜかはっきりと聞こえている。

 「ジーニーを怖がらないでくださいぃぃ……」

 甘えるようえなジーニーの声に、心がどこかで揺れる。 しかし、ジーニーはに対する認識は変わらない、赤くて、ドロドロして、得体が知れない……

 「ああ、そこですね……ウフ」

 唐突に舌を出し、ジーニーが彼を舐める。 真っ赤な舌がべたりと彼のどこかに吸い付き、何かをぬぐい取る様に丹念に舐める。

 ’おぉ?’

 何処を舐められているのか判らないが、ひどく気色いい。 フワフワした心地よさが湧き上がってくる。

 ’あぁ……いい気持だ……’

 「でしょう……フフ、だからジーニーを怖がらないで……」

 ’んー……でもなぁ……お前はなんだか……なんだか……なんだっけ?’

 「思い出せないなら……きっとたいしたことじゃないんですよ……フフフ」

 ’……そうかな……ああそうだな……’

 「では……続けましょう」


 世界が動き出した。

 男は夢から覚めたように、何度か瞬きした。

 ”どうしましたか……フフフフ……”

 目の前でジーニーが含み笑いをする。

 「あ、いや……変だな……」

 ”変ですか? ではまたにしますか? こちらは、その気の様ですが”

 ジーニーが左手で彼の息子を撫でた。 暴発するかと思えるほど、張り詰めている。

 「う……い、いや」

 首を横に振った男は、ジーニーの顔を見た。 さっきまで感じていた恐れは、拭い去られたよううに消えていた。

 「もう少し……ン」

 ジーニーが男の口を塞いだ。 唇にヒヤリとしたジーニーの唇がかさなり、ナメクジの様な舌が彼の口の中に這い込んでくる。

 ンムムム……

 グチャリ、グチャリ、グチャリ…… 

 口の中で巨大な軟体動物が蠢いているかのような音が響く。 ジーニーの唾液は蜜のように甘く、それを彼女の舌が男の口の中へと導いて来る。

 (なんて甘い……)

 ”もっとおあがりください……気持ちよくなれますよ……”

 (そうか?)

 ジーニーの勧めに従い、彼女の口へと舌を差し入れた。

 (ああ……)

 彼女の口は、甘い蜜をたたえた泉の様だった。 差し入れた舌で中をかき回すと、ネットリとジーニーの中が絡みつき、甘い蜜を醸し出す。

 ”ああ……感じます……”

 男の舌の感触にジーニーも喜んでいるのだろう。 顔だけでなく、彼女の体が男の体を求めて来た。 彼女の手が男の体を弄り、器用に服を脱がせる。 

露になった素肌に、赤く透き通った肌が、しっとりとした感触を伝えてくる。

 ”さあ……味わってくださいまし……”

 ジーニーの口からトロトロと蜜が溢れ出した。 男は、一滴も逃すまいとジーニーの蜜を口で受け止め、喉へと流し込む。

 (あ……ぁぁ……)

 蜜の甘さが喉に染み込み、甘い感覚となって体に溢れていく。 うっとりとするような不思議な快感に男は酔いしれる。

 (あ……あ……あぁーっ……)

 甘い感覚が体に溢れ、それが頭に流れ込んできた。 すべての感覚が消え去り、快感の中を漂うような絶頂に溺れる。

 (なんて……いい……)

 ”よろしいでしょう?……ほら……こうされると……もっと……”

 (ああ……)

 体をジーニーの冷たさが覆う。 彼の全身を、彼女が包み込んだらしい。 ジーニーに覆われ、彼女が世界のすべてになったかのような錯覚。 その中で

男はジーニーの蜜に酔いしれる……


 「く……ふぅ」

 気が付けば、ジーニーは人の形に戻り、彼の上に横たわっていた。

 ”いかがでした?……”

 「ああ……あんなのは初めてだ……」

 ”では……交わりましょう……”

 「え?」

 言われて気が付いた。 今のはキスだけだったのだと。

 「……大丈夫……なのか?」

 あの言い知れぬ不安が蘇ってきた。

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