第十八話 おんねん

4.ゆるす


 「なぁ川上氏」

 「なんですか、山之辺殿」

 「殿もお楽しみの様だし……野暮はやめて、一杯やらんか」

 「そうですな……」

 侍と言えども人でありますからな。 さすがに聞いていられなくなったようで、二人してその場を離れてしましました。 芝居や歌舞伎ですと、この後何に

かが起こりますな。 今風に言うならは『フラグが立った』と言うことになりますか。


 「ひぃぃぃ……」

 「ふにぃぃぃ……」

 中の二人はやることをやり、ひときわ高く声を上げると布団に崩れ落ちました。

 「ひぃ……いや、死ぬかと思った」

 「ふにぃぃ……」

 化け猫娘、殿様の腕の中でゴロゴロとのどを鳴らして殿様に甘えております。 殿様、目を細めて娘を撫でてやりながら煙草盆を引き寄せて……え? 

煙草盆をご存じない? 今風に言うなら灰皿のようなものですな、これは。 で、殿様、銀のキセルに煙草を詰めます。

 「……あ、そのキセル……」

 「うむ、お主が持ってきたものであったな。 余はこれを太鼓持ちに預け、余の伽に良さげな女子を見つけたら、これを持たせて余の処に魔知らせることに

しておるのじゃ。 なかなか風雅な遊びであろう」 得意げに語った殿様の話で、化け猫娘もようやっと事の事態を悟り、ついでに自分がなにしにここまで

来たかを思い出します。

 「……それでぇぇぇ……」

 「む? それでとは?」

 「伽が済んだ、その後はぁぁぁ?」

 「ふむ? まぁ、気に入った娘後であれば、そのまま雇い入れて身の回りの世話などさせることもあるが……まぁ、中には舞い上がって奥方になどと言う

ものもおったが、たかが町娘の分際でそのようなことがあろうはずも……おおおっ!?」

 化け猫娘、がばと布団を跳ね上げ、その勢いで宙を一回転し、黒髪振り乱した化け猫の本性を現します。

 フゥゥゥゥゥゥ……ナァァァァーゴォォォォォ……

 「な、なんじゃお主は」

 「おおおお、恨めしやは鍋敷の殿ぉぉぉ……むなしく捨てられ、悔しさの中に息絶えた、わが主の怨念の深さを思い知るが良いぞぉぉぉぉぉ!!」

 殿様、思わず後ずさり、床の間に飾ってある刀をばひっ掴んで、すらりと抜きました……が。

 「ありゃ竹光……そうであった、小遣い稼ぎに売っぱらたのであったか」

 ナァァァァァァーゴォォォォォ

 「こ、これはいかん。 だれかある。 出会え、曲者じゃ!!」

 ……

 「だれかおらんのか! おわぁ!?」

 取り乱す殿様めがけ、化け猫娘がとびかかります。 殿様ころがって化け猫娘の鋭い爪を避けましたが、代わりに布団めが真っ二つになりました。

 『む、無念。 これまでかぁぁぁぁ。 死ぬ前に辞世の句をば……』なんてことは布団ですから申しませぬ。 しかし、真っ二つになった布団を見た殿様、

真っ青になりました。

 「あっぱれなり布団! おぬしの忠義は代々語り継いでくれよう……ではなかった、誰かおらんかぁ!」

 呼べど叫べど誰も来ません。 なにしろやることがアレですから、警護のモノ以外は声の届かぬところにおります。

 「恨み晴らさでくべきかにゃぁぁぁぁぁ!!」

 再びとびかかってきた化け猫娘の両腕を、殿様がっちりと捕まえました。 立派な胸がプルンと震えて殿様の胸にぶつかります。

 「ニャン♪」

 不意の刺激に化け猫娘、思わず喘いでしましました。 小さな声でしたが、さすがは殿様、女の変化は見逃しません。

 「むむ、見切ったぞ!!」

 威勢よく叫ぶと、化け猫娘の胸に顔を埋め、乳首を咥えてペロリ。

 「ひえっ!?」

 ペロペロペロ

 「ひ、ひっひえっえっ!?」

 ペロペロペロ……ペロペロペロ

 フニャーーーン♪

 甘い声を上げ、膝をつく化け猫娘。 振りかざしていた手からも力が抜けます。

 「ふぅ、やれやれ。 肝を冷やしたわい。 どれ誰か呼びに……でっ!?」

 部屋を出ようとした殿様、ばったりと倒れました。 振り返ると化け猫娘ががっちりと足を掴んで、光る眼でこちらを睨んでおります。

 「うーーん……続き……するにゃぁ♪」

 「わーーーー」

 必死に這いずって廊下に出た殿様。 その体が部屋の中にずりずりずりっと引き戻され。

 ぴしゃっ!

 音を立てて襖が閉じられます。


 「と・の・さ・まぁぁぁぁ♪」

 「こらこらこら、余は主の仇ではなかったのか!?」

 「そっちは、後でゆっくりと……うふふふふふにゃぁぁ」

 目を爛々と光らせた化け猫娘、ゆっくりと殿様にのしかかり、化け猫娘の冷たい肌が殿様の胸板をくすぐり、そして、長い爪の生えた恐ろしい手が……

縮こまった殿様の息子を捕まえます。

 「殿様、意気地なしだにゃぁぁぁ」

 にたぁぁぁぁと耳まで避けた口で笑う化け猫娘に殿様、生きた心地がしません。

 「すーぐ……その気にさせてやるにゃぁぁぁ」

 べろーりと長い舌を出し、殿様の唇を奪う化け猫娘。 その体から獣の如き不思議な香りが漂ってきます。

 「うぅぅ!?」

 先に化け猫娘の秘所の香りをかいだ時と同様、殿様の体が熱く、そして力がみなぎってきます。

 「むふぅぅ!?」

 化け猫娘の手の中で殿様の息子が暴れ出し、その手を振りほどきます。

 「ぬっふっふっ、死んだ男すらさかりがついて墓から飛び出してくる『猫又香』たんと嗅ぐがいいにゃぁ」

 化け猫娘がしゃべっている間に、殿様の目が血走ってがくがくと震え始めました。 そして、化け猫娘を跳ね飛ばす勢いで飛び起きると、化け猫娘をがっき

と抱えこみ、寝床へと押し倒します。

 「参る!」

 「来るにゃぁ!」

 ばったん、うっふんの二幕めが始まりました。 

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