第十七話 わらし様

4.成就


 壮年となった五兵衛、その上で美しい娘となったわらし様が身をくねらせる。 艶やかな黒い髪が、風の様に宙を舞い、五兵衛の胸板をくすぐり、顔を撫でる。

 「……くぅ!!」

 若々しい女の証が、五兵衛自身を締め上げる。 そこはたちまちのうちに高みに昇りつめ、精を放つた。

 「……ああっ!! あぁぁぁ……」

 ドクドクと脈打つソコが、『わらし』様の中で歓喜に悶え、ぶるぶると震えるのが判る。

 ”おおう熱い……よいぞ……よいぞ……”

 のけ反った『わらし』様は、はじかれた様に状態を戻し、五兵衛の頭を豊満な双丘の間に抱え込む。 得も言われぬ香が五兵衛の鼻孔を満たし、彼を夢幻の

中へと誘った。

 「……ああ……よい心地ですだぁ……」

 うっとりと呟く五兵衛の体に、若々しくも神々しい女体が絡みついた。 上気した顔を、五兵衛の肩に預けた『わらし』様は、彼の耳を唇ではみながら、艶やか

な声で呟いた。

 ”……よいぞ……主もよいぞ……”

 「……あ……ぁ……」

 『わらし』様の呟きは、甘酸っぱい響きとなって五兵衛の頭の中で何度も繰り返される。 その声を聴くだけで、なんとも幸せな気分に包まれてしまう。

 ”……たっぷりと供物をもらったからのぅ……もっと楽にしてやろうぞよ……”

 『わらし』様が腰をゆすった。 むっちりとした尻が太腿のうえで滑ると、五兵衛自身はもう次の準備ができていた。

 ”……さぁ……もっと楽になるがよい……”

 『わらし』様が腰を振り、五兵衛をめくるめく快楽の中へと誘う……


 二人が交ぐわい始めてからどれほどの時が立ったのか。 五兵衛の髪はすっかり白く薄くなり、その体は老いさばらえて枯れ木の様になっていた。 比して

『わらし』様は、神々しさと母性を備えた天女の様な姿へと育ち、幼子を慈しむかのように老いた五兵衛を抱きしめていた。

 ”……ああっ……よい……”

 『わらし』様が五兵衛の顔を抱きしめた。 豊かな母性を示すそれが、五兵衛の頭を谷間へと咥えこむ。

 「ああっ……ああっ……」

 うわ言のような喘ぎを漏らし、五兵衛は白く柔らかい宝玉へ、節くれだち皺の目立つ様になった指を食い込ませる。

 ”……ふふふ……乳が欲しいか……赤子のようじゃのう……”

 『わらし』様は、ぐいと五兵衛を引き寄、己が乳首へと導いた。 口の端から涎をこぼしつつ、五兵衛は神々しい乳首へむしゃぶりつく。

 ”……ほうれ……ほれ……”

 乾いた口の中へ、蜜のごとき甘露が流れ込んだ。 それは五兵衛の体の隅々まで染み渡り、快楽の波となって彼の魂を揺さぶる。

 「ひぃ、ひいっ、ひぃぃぃ……」

 枯れ木がこすれるような喘ぎ声をあげて、五兵衛は達した。

 トロ……トロトロトロトロ……

 干ばつの泉のごとき情けない勢いで、五兵衛自身が精を漏らした。

 ”ほう……まだ出おるか……”

 『わらし』様は感心したように言うと、五兵衛の体を優しく抱きしめる。 

 「わ、わらし様ぁ。 わっしは……もう……いんでしまいます……」

 ”む……もう極楽へまいるか?……”

 『わらし』様はふっくらとした唇に笑みを浮かべた。 それは菩薩の如き慈愛に満ちた笑みだったが、五兵衛はそこに妖しげな気配を感じた。

 ”……のう……”

 『わらし』様がゆっくりと腰を動かし、五兵衛を咥えこんだ柔らかな秘所が枯れ木の様に固まった五兵衛自身をくすぐった。

 ”……ここはどんな具合じゃった?……”

 なまめかしい肉が、こぶのごとく固まった五兵衛の亀頭を撫でた。 生暖かい女の肉の感触に、五兵衛が身震いする。

 「い、いいですじゃあ。 ご、極楽でしたじゃあ……」

 ”……ふふ……では……ここに参るが良い……”

 五兵衛の目が大きく開き、ごぼごぼとのどが鳴る。

 「な、なんですとぉ……」

 ”……ここはよいぞを……極楽よ……肉の極楽……さ……果てるがよい……果てて参るがよい……”

 五兵衛が『わらし』様の言葉を理解する暇があったかどうか、定かではなかった、なぜならば。

 ヌルリ……

 「う……ごほぉ……」

 ヌメヌメとした肉が彼の股間にねばりつくと同時に、蕩けるがごとき快感が襲い掛かり、かれの魂を奪い取ってしまったからだ。

 ヌルリ……ニュップニュップニユップ……

 「かっ……かかっ……」

 『わらし』様の神々しい女体は、重さを感じさせぬ動きで五兵衛の上で上下する。

 ニュップ…… 一打ちごとに

 ニュップ…… 五兵衛のモノが奥へと誘われ

 ニュップ…… ついに『わらし』様の奥底へとたどり着く

 「かっ……!」

 そこは文字通りの極楽だった。 肉の衣をまとった天女たちが、固く屹立した五兵衛自身にまとわりつき、その衣で柱を撫でる、ゆるゆると、ゆるゆると…… 

五兵衛のすべてが、魂すらも、快楽の証となって彼自身へと集まっていく。

 ”さぁ……参るがよい……”

 返事の代わりに、五兵衛のモノが『わらし』様中で激しく震えた。

 ビクン! ビクビクビクビクビクン!!

 ”おぅ……よいぞ……”

 そして五兵衛の息が止まり、枯れ木のような体力を失って『わらし』様の体に抱きとめられた……


 カサリ…… 

 カサリ…… 

 崩れていく。

 老いさばらえて、骨と皮ばかりになった五兵衛の体が膳の上で崩れ、白い灰へと崩れていく。 その灰は、崩れると同時に吹き散らされ、風名乗って消えて

いく。

 カサ…… 

 さしたる時を待たずして、五兵衛の体は一つまみの灰となり、それすらも風に吹き去らせれて消えてしまった。

 パン

 膳を前に座っていた『わらし』様が柏手を打った。 五兵衛と交わっていた天女の如き姿ではない。 五兵衛の小屋を訪れた時の、幼子の姿の『わらし』様が

そこにいた。

 ”……供物、確かに受け取った……”

 『わらし』様はついと立ち上がり、膳を捧げ持つとそのまま小屋の外に出ると。 すたすたと来た道を戻って行く。


 田の間のあぜ道を進んでいくと、来た時と同じ様に二人の百姓が田植えをしていた。 二人は『わらし』様に気が付くと、大慌てで頭を下げる。

 「『わらし』様、どこから来ただ」

 ”おら、五兵衛のところさいただ。 そっか来ただ”

 「なしてだ」

 ”五兵衛のところさ、もうだめだかんな”

 そう言うと、『わらし』様はすたすたと歩きだしたが、突然ぴたりと足を止め、二人の百姓をじっと見た。

 ”望みさ、ねぇだか。 供物さ、ねぇだか?”

 百姓たちは、顔を伏せたまま答える。

 「十分足りてるだ。 供物もねぇだから、帰りなんしょ」

 ”そうか”

 そう言うと、『わらし』様は再びすたすたと歩きだした。 そしてぽつりと一言。

 ”つまらんのぅ……”

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 「……終わりですだ」

 滝は息を吐いて男性を見た。 人のよさそうな顔が、ロウソクの明かりの向こうで笑っているように見えた。

 「怪談ぽくないですが、神様は敬って、楽を望まずきちんと働け……という説話ですか」

 「だろうでなぁ……」

 男性は膳をじっと見ている。

 「試してみるかね?」

 「なにを?」

 男性は顔を上げて滝を見る。

 「『わらし』様に願い事さぁ、してみるかね?」

 言われて滝は膳へと視線を移す。 漆塗りの膳を見ていると、不思議と何かを願いたくなってきた。 願いを口にしかけた滝は、逡巡した後で言った。

 「やめとこう」

 「そうかね」

 男性は呟くと、膳補手にして立ち上がった。

 ”つまらんのぅ……”

 小さな声とともに一陣の風が舞い。ロウソクの炎が消えた。

<第十七話 わらし様 終>

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