第十七話 わらし様

2.詠唱


 膳を捧げ持った『わらし』様は、すたすたと迷いのない足取りであぜ道を歩み、程なく一軒の百姓家に行き着いた。 ここが五兵衛の住まいだった。  

『わらし』様は、戸口に立って中に声をかける。

 ”きただよ”

 小屋の奥、薄暗い板の間で人の起き上がる気配がした。

 「んー? 誰じゃあ……」

 髭面の五兵衛がむくりと起き上がり、戸口の方を見て目を細める。

 「おまさ、どこんわらしじゃ?」

 ”おまんが呼ばったで、きただよ”

 そう応え、『わらし』様ずかずかと中に入り、土間の踏み石で草鞋を脱いで板の間に上がり込む。

 「はぁ?……その膳は……ま、まっさか!」

 ”おまんが呼ばったで、きただよ。 が、その前に、前の願いの供物、返すだよ”

 五兵衛は目の前の女の子をまじまじと見返す。 村の子供にしては、きれいな着物を着ており、膳を持った手に傷も土汚れもない。

 「……いや、んなはずはねぇ……んなはずは」

 ”前の願いの供物、返すだよ”

 『わらし』様はそう繰り返すと、膳を五兵衛の前に置いた。 まごうことなき『わらし』様の膳に五兵衛は目を丸くし、つい本当のことを口にする。

 「んなこと言うても……食うて呑んでしもうたで……もはや我の血肉となり精となったで……」

 ”んだか。 では、ぬしが供物であるな”

 「へ?」

 『わらし』様は膳の手で軽く叩き ”供物をこれへ” と唱えた。 すると……

 「おおっ!?」

 不思議なことに五兵衛の足が勝手に動きだした。 彼はひょこっと立ち上がると、よろめきながら『わらし』様の前まで行き、そこでぺたんと尻もちをついた。

 「こ、これは?」

 五兵衛が尻もちをついたのは、恐れ多くも膳の上。 慌てて手をついて立ち上がろうとするが。

 「……た、立てねえ?」

 いくら力を入れようとも、尻が膳から離れない。 そして膳は石のように重く持ち上げることができない。

 「……ほんに『わらし』様?」

 ここに至り、五兵衛は目の前の女の子が『わらし』様で有ることを認めざるを得ず、己のしでかしたことを思って青くなった。

 「まて! まってくんろ……供物はきっと返す、明日に、いんや今日中に……」

 ”供物はおめぇの精になっただ、それを返してもらうだ……”

 『わらし』様そう言って五兵衛から五歩ほどの距離で、体を屈めて膝をつく。 そして膝立ちの姿勢でするりと帯を緩めた。

 「な、なにすんだ」

 目を丸くする五兵衛にかまわず、『わらし』様は着物の前をはだけた。 着物の間、のど元からへその下まで一直線に白く神々しい幼子の肌が露になる。

 「……」

 五兵衛の目が、『わらし』様の肌にくぎ付けになった。 と、今度は視線をそらそうにも頭も顔も。目すら動かせない。

 ”では……”

 『わらし』様は軽く目を閉じ、むにゃむにゃと何か唱え始めた。 すると……

 「おおっ!?」

 五兵衛のモノが、突如として猛り始めた。 褌の下で鎌首をもたげ、張り詰めていく。

 めりめりめり

 「ぬぐおおっ!」

 きつく締めた褌で男のモノが締め上げられる。 褌を緩めようとするが、ひもの結び目が尻と膳の間にあり、指が届かない。 その間も容赦なく褌が股間に

食い込み、その激痛に五兵衛は苦悶する。

 「わ、『わらし』様ぁ、ご勘弁を!」

 むにゃむにゃむにゃ

 五兵衛の懇願に『わらし』様は耳を貸さず、何事かを唱え続ける。

 ぎりぎりぎり、ぶつん

 不吉な音がして、ついに五兵衛のモノが……ではなく褌の紐がちぎれて飛んだ。 解放された五兵衛のモノは、褌から解放された勢いではねあがり、その

まま下履きの合わせから飛び出す。

 「ひぃ、もう駄目かと……お、ぉぉぉ」

 『わらし』様はむにゃむにゃと呟きながら、右手を突き出して何かを撫でるような仕草を始めた。 それを見た五兵衛は、怒張の先端が撫でられるような

感触を覚えた。

 「こ、こんどは……うお、ぉぉぉ」

 怒張を撫でる手の感触は、幼子のように小さい。 細い指が絡みつき怒張の形をなぞる様に動いている。

 「た、たまらん……」

 その不思議な手は、絶妙な動きで五兵衛のモノを撫で、妖しく魅了する。 女と交わった時とは比べものにならぬその感触に、彼の股間がじんわりと心地

よくなって……

 ズ……クン……

 「おおっ!?」

 ズ……クン…… ズ……クン……

 「うう……」

 背筋を得も言われぬ快感が走った。 快感の衝撃が、二の矢、三の矢となって背筋を走り抜け、脳天を打つ。 心地よい気だるさに、体がじわじわと蕩け

意識がもうろうとしてくる。

 「ええ気持ちだ……ぁぁ……」

 ”では……返せ……”

 『わらし』様の言葉を聞いた途端、五兵衛の頭が真っ白になった。 いつもならモノで感じるのに、今は五兵衛全部が感じていた。 こみ上げてくる熱い精を、

五兵衛は口から迸らせる。

 「ぼはぁー……」

 間の抜けた声とともに、五兵衛の口から白く濃い煙草の煙のようなものが噴出した。 煙は止めどもなく五兵衛の口から流れ出し、床へと流れ落ちると、

蛇のようにのたうちながら膝立ちしている『わらし』様のもとへ流れて行く。

 ”……”

 むにゃむにゃと何か唱え続けていた『わらし』様は、詠唱をやめて口をすぼめた。 すると煙は『わらし』様の足を伝い、外に覗いている白い肌を上へ上へと

伝っていき、口元へ流れていった。

 すぅ

 何かを吸うような音がし、煙が『わらし』様の口へ吸い込まれていく。

 「お、おぅぅ……」

 煙が吸われるのと同時に五兵衛が震えた。 目を見開き、口を開けてがたがたと震えている。

 「す、吸われる……すわれ……」

 五兵衛の顔に愉悦が浮かぶ。 白い煙……彼が飲み食いした供物の精だろうか……それを吸われるのがたまらなく心地よいようだ。 五兵衛はがくがくと

身を震わせ、望外の悦楽に身を震わせ続けた。


 すぅ……

 半刻ほどの後、『わらし』様の口に煙の端が消えた。 膳に座ったままの五兵衛は、精を吸い尽くされたのか、ぐったりとして息も絶え絶えの様子だ。

 ”では……”

 『わらし』様はすっと立ち上がると、着物の前を閉じた。 そして五兵衛を見据えて言った。

 ”福を授けてやるで、供物を捧げるべ”

 「ひぇ……」

 五兵衛は白目をむいて悶絶した。

【<<】【>>】


【第十七話 わらし様:目次】

【小説の部屋:トップ】