第十五話 病

18.そは何者


 「か、かたり者が!」

 神父は胸にかけているシンボルを、半透明の赤い天使に向けて突き出した。 神父の手とシンボルは、確かにスティッキーの

胸元にふれたと見えたが、彼女は動じる様子もなく、一歩神父に近寄る。

 「むむっ?」

 こめかみに疼痛を覚え神父よろめき、左手を机について体を支える。 その隙を見越したかのように、スティッキーは彼の腰に

手を伸ばす。

 フワリ……

 「ぬっ?」
 微かな、本当に微かな温もりを彼自身に感じた。 しかしそれだけのことで、屹立していた彼自身に痛いほどの刺激が走った。

 「ぐっ?」

 「フフフ……我慢してたんだ」

 はっと気が付くと、赤い羽根の天使は彼のすぐそばまで来ていた。 呆然とする神父の前に膝をついたスティツキーは、神父の

腰のあたりに向けて、ふうっと息を吐きかけた。

 「うっ」

 再び激しく脈打つ彼自身。 神父はそこの熱い疼きを感じると同時に、激しいめまいに襲われた……


 ”くふっ”

 すぐ近くでスティッキーの声がする。 気が付くと、かれは天井を見上げていた。 先ほどのめまいの後、失神して仰向けに

なって床に倒れたらしい。

 「こ、こんなこと……!」

 視線を下げたとき、あまりのことに神父は絶句してしまった。 かれの胸の上に恐ろしいものが見えた。 あろうことか、赤い

羽根の天使は彼にまたがり、背を向けて彼に…… では、彼自身に感じるこの温もりは……

 「か……神よ……」

 恐れを知らないこの行為に、祈りの言葉を唱えることすらできない。 そしてなお恐ろしいことに……

 ズクッ、ズクッ……

 「ぐっ」

 彼自身が熱く疼いている。 彼を裏切って。

 「くふふっ……こっちは素直なのに、そっちはだめだね。 自分に正直にならないと」

 「だ、黙れっ!」

 神父はスティッキーを罵倒する。 なんと言われようと、彼の魂は堕ちてはならないのだ。

 「お、お前がジャックを、クロティルドを堕落させたのだな!」

 「誘っただけだよ」

 楽しそうに応えるスティッキー。 もっとも彼女の顔は見えず、口にするのもおぞましいそれが彼の胸の上で左右に揺れるのが

見えるだけだが。

 「年端もいかぬ子供たちを、堕落させたのだ。 お前は悪魔だ!」

 怒鳴りつける神父。 面白いことに、彼自身はスティッキーの手の中でビクビクと震えているのに、彼の意識ははっきりして

スティッキーを寄せ付けない。 

 「お前の思い通りにはならんぞ、悪魔め!」

 「ふーん……そう?」

 スティッキーが体を起こし、状態をねじってこちらを見た。 手に赤い羽根をもっており、それで彼のモノを弄んでいたらしい。

 「そうとも、悪魔なんぞに屈するものか!」

 「悪魔?……ふーん……天使だったり……病気だったり……今度は悪魔か」

 スティッキーは首をひねって、何か考えるような表情を見せた。

 「いろいろ言うけど……僕ってなんなんだろう?」

 人を小ばかにした様な態度に、神父の怒りが頂点に達する。

 「き、貴様は……いったい……」

 怒りのあまり神父は言葉が出なくなり、ただぱくぱくと口を閉じたり開いたりしている。 ステイッキーは振り返った格好のまま

それを見ていたが、突然けたたましく笑いだした。

 「あは、あはっ、あはははははははははははは……」

 癇に障る笑い声に、怒りに震える神父は真っ赤になった。 その神父の上で、スティッキーは顔を伏せて笑い続ける。

 「あはははははははははははは……」

 「!?」

 笑いを収めたスティッキーが顔を上げる。 しかしその顔はスティッキーではなかった。

 「り、リンダ?」

 それは、教会で養っている女の子の一人だった。 リンダという名の年長のその子は、神より祝福を受け子供を授かることが

できる年になったばかりだったはずだ……

 「神父様ぁ……」

 トロンとした目つきは、少女から女に変わりゆく娘が、男を求める眼差しのそれ……

 「ねぇ……」

 悩まし気なまなざしのリンダの手が、彼自身に触れた。

 ヒクン……

 またも彼自身が反応した。 先ほどまでの様な暴力的な反応とは違う、くすぐったさに彼自身がちょっと反応した、その程度の

ものだ、しかし……

 「ねぇ……ねぇ……」

 「や、やめなさいリンダ、こ、これは?」

 甘えるようなリンダの眼差しと囁き、戯れるように彼自身を撫でるリンダの手の動きにも彼自身が反応する。 いや、そこだけ

ではない。 心臓が早鐘の様に打ち出し、背筋をゾクゾクしたものがせり上がってくる。

 「リ……リンダ……」

 神父の視線は少女の媚態に、そして幼い……に徐々に引き寄せられていった。

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