第十五話 病

14.悪しき行い


 病に倒れたクロティルドはシスターに北端の部屋に寝かされ、他の子供たちから遠ざけられた。

 熱にうなされたクロティルドは、ベッドの上で荒い息を繰り返している。

 「やぁ」

 声に目を開けると、赤い羽根を広げたスティッキーが彼女を見ていた。

 「天使様……」

 熱っぽい目で彼女スティツキーを見返す。 スティッキーは彼女の額に自分の額をくっつけた。

 「熱いね」

 当然の事をさらりと言うと、手に持った赤い羽根でクロティルドの耳を撫でる。

 「ひゃう」

 熱で敏感になった肌を、スティッキーの羽の刺激し、クロティルドは思わず声を漏した。

 「あはっ」

 スティッキーは楽しそうな声を上げる。 そこに足音が近づいてきて、扉を開けた。

 「クロティルド? 誰かいたのですか?」

 入ってきたのは若いシスター、シスター・テレジアだった。 ステイッキーは、ドアが開く直前に床に溶け込むように

消えていた。

 「シスター……天使様が……」

 クロティルドがか細い声で答える。 シスター・テレジアは顔を曇らせると、クロティルドに毛布を掛ける。

 「そうですか、きっと天使様が貴方を励ましに来てくれたのですよ……」

 「いーや、遊びに来てたんだよ」

 背後の声に、シスター・テレジアは驚いて振り返る。 目の前に赤い羽根を広げたスティッキーの顔があった。 

避ける暇もなく、唇を奪われる。

 ヒッ……

 テレジアの声は、スティッキーの唇の中に吸い込まれて消え、力を失った身体が床に崩れ落ちる。


 「ああ……」

 テレジアは神に救いを求めようとしたが、スティッキーの羽にくすぐられて息も絶え絶えの状態で、言葉が口から

出てこない。

 「ここ?ここ?ここかな?」

 スティッキーは楽しそうにテレジアの服をはだけ、胸やお腹、わき腹を羽で責める。

 「ひっ……ひいっ……」

 スティッキーの羽でくすぐられるたびに、疼くような刺激が身体を走る。 テレジアが床の上で身もだえしている

うち、黒っぽい尼僧服ははだけ、あられもない姿になってしまった。

 「あ、あなたは何者です……天使の姿を騙るなど……」

 ステッィキーは、片方の目を釣り上げた。

 「別に天使でなんて言ってないよ。 僕はただ、みんなと遊びたいだけ」

 そう言ってニマッと微笑むと、乱れたテレジアの裾から羽を差し入れた。

 「!」

 羽先がテレジアの秘所に触れたとたん、閉ざされていたはずの神秘の門が開いた。 奥底に秘められていた女の

欲望が、煌めく蜜となって溢れだす。

 「はぁぁぁぁっ!」

 半ば絶望、半ば歓喜の声を上げたテレジアの体が大きくはねて床がきしむ。

 「かっ、かあっ!」

 呼吸困難に陥って、テレジアは激しくせき込んだ。 乱れた息に意識が遠のく。

 「こふっ……」

 最後に小さな息を残し、テレジアは失神する。

 フフッ……


 「ふふっ……」

 テレジアは耳元の声で目を開けた。 衣服は着ているが乱れたままで、視界の中に二本の足が見える。

 「あ、貴方はっ」

 顔を回して足の主を見て、テレジアはほっと息を漏らす。

 「クロティルド」

 さっきまでベッドに寝ていた少女が、薄い着物一枚で立っていた。

 「貴方は大丈夫ですか? あの悪魔の様な子はどこに……」

 言いながら体を起こそうとするが、思うように動かない。 あせって手足を動かしていると、クロティルドがしゃがみ

こんで来て顔を覗き込む。

 「ふふっ、動けないんですか?」

 「ええ、お願いだから手を……クロティルド?」

 テレジアは、クロティルドが手に赤いモノを持っているのに気が付いた。 地の様に赤い羽根を。

 「クロティルド!?」

 悲鳴の様な声を出すシスターの唇を、クロティルドは赤い羽根ですーっと撫でた。

 「!?」

 羽が触った筈なのに、何か柔らかいモノが密着した様な感覚があった。 しかも、それが後を引く。

 「ク……クロト?」

 「ふふっ……スティッキーこうするの?……そうクロト、上手だよ……」

 クロティルドはぶつぶつと独り言を言っている、自分自身と会話するかのように。

 「く、クロティルド、やめなさ……あうっ」

 青白い顔のクロティルドは、隠微な笑みを浮かべてテレジアのむき出しの足を赤い羽根で触る。 軽やかな羽の

感触が、濃厚な愛撫のそれの様に感じられる。 テレジアは体の芯に鈍く重苦しい熱がこもって来るのを感じていた。

 「やめなさい……クロティルド……やめて……あなたは病気なのよ……」

 「病気……」

 クロティルドは放心した様な顔で呟いた。

 「そうよ……クロティルド……あなたは病気なの……だから……」

 「病気……クロティルドは病気……病気。 プッ」

 突然クロティルドは笑い出した。 何がおかしいのか、天井を見上げて哄笑する。

 「アハハハハハハ!! 病気、病気、病気!!」

 「クロト……」

 テレジアは呆気にとられ、半ば恐怖の眼でクロティルドを見ていた。

 「判ったよクロト!!」

 クロティルドの口からスティッキーの声が聞こえた。

 「ボクは病気だったんだ。 スティッキーは病気だったんだよ!!」

 笑い続けるクロティルド、その姿は狂気に取りつかれたようにしか見えなかった。 駆けてくる幾つもの足音が

聞こえ、扉が激しく叩かれる。 それにかまわず、クロティルドは笑い続けていた。

【<<】【>>】


【第十五話 病:目次】

【小説の部屋:トップ】