第十五話 病

9.悪い結果


 「う……」

 ジャックは身じろぎした。 体が鉛の様に重く、部屋の空気が氷の様につめたい。

 「ジャック?」

 スティッキーの呼びかけに返事をしようとしたが、隙間風の様な息が漏れるだけであった。

 「ああ、声が出ないんだね」

 スティッキーは、少年に頬ずりをする、愛しそうに。 冷たい部屋の空気に比べると、少女の肌は春の風の様に

心地よく感じられる。 ジャックは少女に触れようとしたが、手すら上がらない。

 (僕もジムと同じ……主に召されるの? それとも、地の底に……)

 ジャックは心の中でぼんやりと考えた。

 
 「キミは神様の所がいいの?」

 妙に明るい口調でスティッキーが尋ねる、ジャックの心の呟きが聞こえたかのように。

 「ねぇ、それよりおいでよ……こ・こ・に・」

 スティッキーは、ジャック自身を迎え入れたままの腰を軽く揺らした。

 (!?)

 ジャック自身、その先端をスティッキーの柔らかなベールが撫でる。 暖かな滑りが彼自身を包み込み、あの

痺れるような心地よさで彼を誘う。

 「ね……」 スティッキーが彼を覗き込み囁く 「きて……」

 彼女の奥で、濡れた襞が彼自身に纏いつき、摩りあげ、軽やかに踊る。 その動きの一つ一つが、ジャックを

誘っているかのよう……いや。

 ズクン

 ジャックの体の奥で、熱いモノが疼いた。 指すら動かないような身体の中に、熱い快感が蘇ってくる。

 (あ、あ? なにこれ……)

 トロ……リ……

 快感にからだが蕩けていく様な気がする。 体がズシリと重くなり、溶けて広がっていくかの様だ。

 「す……す?」 (スティッキー? なんなの、これ)

 ジャックはスティッキーに問いかけようとしたが、呂律が回らない。 しかし、スティッキーには彼の言葉が分かった

のか、顔に笑みを浮かべた。 無邪気で、妖艶で、そして冷酷な笑みを。


 「ジャック……見て」

 スティッキーが背筋をそらした。 彼女の背後に赤い幕の様なものが広がる。 真っ暗な部屋なのに、それは

鮮やかに彼の眼に飛び込んできた。

 (赤い……真紅の羽? 赤い羽根の……天使様?)

 スティッキーの背中に、鳥の様な羽が生えていた。 その姿は聖書に描かれている天使そっくり。 但し、その

羽の色は真紅だった。

 「どう?」

 (君は、天使様だったの?)

 「……知らない」

 ジャックの問いかけに、スティッキーはぶっきらぼうに答えた。

 「ボクの羽を見た人は、ボクのことを天使だとか、ニセモノとか呼ぶんだ。 でも、そんなことボクは知らない。 

それより、ねぇ……」

 (?)

 「ボクを見て」

 そう言ってスティッキーはジャックに跨ったまま、赤い羽根を広げて見せた。 少女と女のちょうど中間の肢体に、

赤い羽根が不思議な彩りを添える。 その姿にジャックは見とれた。

 (スティッキー……)

 「ボク、綺麗?」

 (うん、綺麗だ……)

 ジャックは、頷こうとしたが、顎がわずかに震えるだけだった。 しかし、彼の想いは伝わったようだ。 

スティッキーが嫣然と微笑む。 

 「ジャック……さぁ……おいで」

 (スティッキー……)

 スティッキーに対する欲望が一気に膨れ上がった。 熱で混濁していた意識が、スティッキー一色に塗り替わり、

ジャックは残り命の全てをスティッキーとの交わりにささげる。

 「ああん……そう……ジャック……きて……おいで」

 身体を満たす熱い快感の中で、ジャックは小さく達した。 ドロドロとした快感の証が、スティッキーの胎内へ

染み出すように流れていく。

 (あ……あ……あぁ?)

 ジャックの意識がすーっと暗くなり、そのまま暗く狭い穴の中に落ちていく、どこまでも。

 ”そっちじゃない”

 スティッキーが何か言い、落下が浮遊に転じる。 今度は穴の中をゆっくりと登り……そして。

 (……あ?)

 ジャックは何か暖かなものに抱かれている自分を見出す。 暗くて暖かく、そして滑った何かに。

 (ここ……どこ……あ……ああ……)

 何かが自分を抱きしめ、愛撫する。

 (なに……や……くすぐったくて……ああん)

 「んふ……捕まえたよ……ジャック」

 スティッキーは息絶えたジャックの上で、満足げに下腹を撫でていた。 そこにジャックの魂がいた。 ジャックは、

自分に何が起こったのか理解することもなく、スティッキーに弄ばれ続ける。

 「神様の所になんか行かせてあげない……キミはボクんだ……」

 スティッキーは、真っ赤な舌で、ぺろりと唇を舐めた。

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