第十五話 病

3.悪い遊び


 はっはっはっはっ……

 ジャックは暗い道を一人走っていた。 大きな街であれば、夜でもかがり火をともして不自由なく歩けるらしいが、

小さなこの村では月と星に頼るしかない。

 「……」

 月はジャックの先にいた。 真ん中で両断されたなような半月を目指し、ジャックは走る。

 (半月……悪いの良いのが半分ずつ……)

 心の中で呟いた。


 「……」

 青白い月明かりに照らし出された墓場は、不思議な雰囲気つににまれている。 ジャックは胸元で神に祈り、

そっと墓場に入りジムの墓を目指す。

 「……いない」

 期待に反し、スティッキーの姿はなかった。 目に見えてしょげ返るジャックに、背後から冷たい風が抱きつく。

 「だーれだ?」 

 「スティッキー!」

 振り向いたジャックの前に、笑みを浮かべたスティッキーの顔があった。 安堵と怒りと喜びがごっちゃになり、

ジャックはスティッキーを突き飛ばそうとした。

 「えい!」

 スティッキーは素早い身のこなしでジャックの手を避け、正面からジャックに抱きついてきた。

 「わっ!?」

 バランスを崩したジャックはスティッキーに抱きつかれたままあおむけに倒れた。

 トク、トク、トク、トク……

 墓場の地面に倒れたまま、ジャックは自分の心臓が早鐘の様に鳴っているのを感じていた。


 「きたんだ……」

 ジャックの胸に顔を埋めた格好で、スティッキーが呟く。

 「うん……大丈夫だったの?」

 「なにが?」 

 「だって……」 心配そうな顔のジャック。 「女の子が夜で歩いたりして……」

 スティッキーが笑う。

 「ボクは悪い子なんだ。 悪い子が夜で歩くのは当たり前じゃないか」

 変な言い訳だとおもいながら、ジャックは体をよじってスティッキーの下から這い出そうとする。

 「何してるの?」 首を傾げるスティッキー。

 「起き上がるんだ」 素直に答えるジャック。

 「逃がさない♪」

 スティッキーは楽しそうに言うと、ジャックの首に手を回し、強く抱きついてきた。 しなやかな少女の肢体が、

栄養の足りていない小さな少年の身体に絡み付く。

 「わっ」

 ジャックはスティッキーの笑顔に笑い返すと、力を込めてスティッキーの拘束をほどきにかかった。

 「えいえいえい!……」

 「やるね。 でも、ボクから逃げ出そうなんて甘いよ」

 スティッキーは巧みに動いて、ジャックの体に自分の体を絡み付かせる。 薄い衣服を通してわかるほど弾力の

ある少女の身体は、少年の体の形に合わせてしなやかに伸び


、締め上げて離れようとしない。

 「どうだ!」

 「わかった、降参だよ」

 負けを認めジャックはおとなしくなり、スティッキーはくすりと笑うと力を抜いた。

 「……」

 二人は重なったまま動きを止め、ジャックは、スティッキーの肩越しに月を見上げた。

 「……」

 半分の月が、ジャックには冷たい眼差しで自分を見ている目に見えた。

 
 モゾリ……

 スティッキーがジャックの上で身じろぎし、彼女の腰の辺りがジャックの同じところを擽った。

 「!」

 ジャックは慌てて飛び起きようとしたが、スティッキーに押しとどめられる。

 「どしたのさ?」

 「い、いや」

 スティッキーが動いたせいで、ジャックの突起が膨れていたのだ。 ここが膨れると、女の子が嫌がったり、

神父様やシスターが険しい顔になるのをジャックは知っていた。 

 (スティッキーにばれたら駄目だ。 嫌がって帰っちゃう)

 ジャックは焦る。 しかしスティッキーは気が付かつかずにジャックのうえでモゾモゾと動き、腰を擦り付けてくる。

 「んふ……膨れてるよ?」

 「あーご免なさい…」

 ジャックが謝ると、スティッキーはきょとんとし、次に笑い出した。

 「あはははははは」

 「な、なんだよ」

 ジャックはふくれっ面になる。 スティッキーが嫌がると思ってきちんと謝ったのに、笑い飛ばされたのだ。

 「あはは……そうか、知らないんだね」

 「なにをさ」

 スティッキーは真面目な顔になり、一音ずつくぎって呟いた。

 「わ・る・い・こ・と」

 今度はジャックがきょとんとする。 夜で歩いているのだから、今は悪いことをしているのだ、他に何があると

言うのだろうか。

 「なんだよ、それ……わっ」

 ジャックが驚きの声を上げた、ステッィキーが、密着した体の間に手を差し入れ、ジャックの突起を掴んだのだ。

 「き、汚いよそこは」

 「ちゃんと水浴びしてるんだろ、キミは。 それに……」

 「な、なにさ……」

 「ジャックの体に、汚い所なんてないよ……」

 囁くように言ったスティッキー、その表情を表現する言葉をジャックは知らなかった。 ただ、その顔を見ていると

目が離せなくなり、心臓が破裂しそうに激しく打ち出した。

 「ジャック、ボクね……」

 ジャックはごくりとつばを飲み込み、スティッキーの次の言葉を待つ。

 「ジャックが欲しいんだ……」

 呟くステッイキーの息には不思議な匂いがあり、ジャックはそれを『甘い』と感じた。 

 「……」

 痺れたように動かなくなったジャックの体に、ステッィキーはゆっくりと手を這わせる。

 「ジャック……キミを……ちょうだい……」

 ジャックには頷く事しかできず、それを見たスティッキーが嬉しそうに笑う。

 ……

 月が暗くなった、ジャックはそう感じた。

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