第十四話 褥(しとね)

29.褥の中に


 女体となった轡虫は果てることを知らず、貪欲に楓を求め、二人は力の尽きるまで爛れた時を過ごした。

 くふぅ……

 はぁ……

 何度目かの絶頂の後、二人は重なったまま動きを止め、気だるい息を数えていた。

 「あれ?」

 轡虫は目を擦こすって楓の姿を見直す。 柔らかい曲線に包まれていた楓の姿が、妙に逞しくみえる。

 「ふふ……」

 笑った楓の声が太くなっている。 轡虫は、恐る恐る視線を楓の下の方に移していった。 豊かだった胸は厚く

たくましくなり、腰はがっしりと力強く、そして足の付け根には……やっぱりそれがあった。
 
 「ひっ!……え?」

 恐怖を感じたのは一瞬だった。 続いてこみ上げてきた熱い感情、男の楓に対する女の欲情が、轡虫の恐怖を

押し流してしまう。 混乱する轡虫。

 「か、楓さん……?」

 「……欲しくないの? 私が?」

 やや骨っぽくなった楓が、指を轡虫の股間に這わせて囁く。 自分に無いはずの神秘の花弁が、優しい愛撫に

応じて蜜を醸し出すのが判る。

 「ああっ!」

 女の神秘から、楓に対する堪えきれない欲情が溢れだす。 そのまま、楓に身を任せたい衝動で意識が飛んで

しまいそうだ。

 「だ……駄目……男とは……」

 轡虫は朦朧となりながらも、「男」としての何かが楓の誘惑を拒んでいた、しかし……

 「心配しないで……優しくしてあげる……」

 楓の囁きは蜜の様に甘く感じられ、轡虫は肉体の欲望を抑えきれなくなった。

 「か……楓……さん……」

 「受け止めて……」

 楓が轡虫の中に入ってきた。 熱く固いものが溶けた轡虫の中をかき回す。

 「!!」

 江意味不明の声を上げ、轡虫は楓の体を抱きしめた。


 白い女体と男体が艶やかに舞い、互いを愛し続ける。 愛欲の海に溺れながら、轡虫は楓に尋ねた。

 ”どうして……僕を女に?”

 ’私を知ってもらう為……’

 ”?”

 轡虫は首を捻った。 その間ににも彼の体は楓に馬乗りになり、楓の陽物を奥に迎え入れる。 熱い突き上げに、

轡虫の喉から嗚咽の様な快楽の喘ぎが溢れだす。

 ”楓さんを知るため……”

 ’そう……いま貴方の感じているもの……貴方が欲しいと思っているもの……それは私が欲しているもの……’

 轡虫は身体を預けるようにして楓に抱きつき、その唇を奪った。 仄かに開いた楓の口の中に、軟体動物の様な

自分の舌が滑り込む。 微かに震える楓の口の中を、自分の舌が這いまわると、楓の表情が緩み、その体から

力が抜けていくのが判る。

 ”欲しい……欲しい……そして……貴方を奪ってしまいたい……”

 ’そう……それが私の……私達の望み……’

 ぞくりと背中を何かが走り抜けた。 恐怖ではない。 それは楓に求められたことの対する喜びだった。 そこに

楓が腰を突き上げてきた。

 「あ!!」

 「あなたが欲しい……貴方の全てが……」

 耳元で囁きながら、楓が轡虫を責める。 熱い快感に真っ白になった轡虫の意識の中に、楓の言葉が呪縛の

様に塗り込められていく。

 「欲しい……欲しい……」

 「あげる……全部あげる……ああもっと……」

 怪しげな言葉を唱えながら、二人は何度目かの絶頂に向かって駆け上っていった。


 「ふぅ……」

 轡虫は息を吐きながらあてもなく手を伸ばす。 

 ト……

 手が何か柔らかいものに触れた。 顔を上げてみると、何か半透明の幕の様な物が見え、それに触ったらしい。

 「?」

 頭を巡らすと、その幕は二人を包み込んでいる。 大きな泡の中に入っているような感じた。

 「楓さん? これは?」

 「これは私の『褥』……私と貴方の……」

 楓が轡虫に細い手を伸ばして触れる。 そこで気が付いたが、轡虫は男に、楓は女に戻っていた。

 「『褥』……あの白い塊?」

 轡虫が尋ねたのは、楓との事が始まる前に見せられた白い塊の事だった。 楓が頷く。

 「じゃあ……これはあの中……」

 呟いた轡虫を、楓が胸の中に抱き寄せた。 そして、乳首で唇を擽らせた。

 「あぁ……」

 悩ましげな声を上げる楓。 その乳首の先端が、濃い茶色に染まってきた。 轡虫は楓の意図を察し、舌でそれを

舐めた。

 「うわっ……」

 声がでるほど甘い。 それに強い酒を飲んだ時の様に、頭がクラクラする。

 「すごっ……何?これ?……あれ?」

 半透明だった幕が少し白くなり外が見えにくくなった。

 「楓さん?」

 楓がくすりと笑う。

 「心配いりません……いえ違いますね……」

 楓は彼を胸元に抱いて、あやすように背中をさすっている。

 「心配しなくなります、貴方は……」

 そう言って彼女は戯れるように乳首で彼の唇をくすぐる。 あの甘い乳で唇を濡れると、彼の舌が勝手に動いて

それを舐めとってします。

 「あ……」

 頭がボーっとして、気分が良くなり、そして幕がさらに白くなった。

 「なんだか……心が軽くなるみたい……」

 「ええ……この乳を舐めると、忘れていくのです……『褥』の外の事を……」 楓は、彼の眼を見たまま囁いた。 

「忘れさせてあげます……私の事以外……」

 楓は彼の口に乳首を滑り込ませた。

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