第十四話 褥(しとね)

25.そして、その晩


太陽が山の稜線に隠れる頃、轡虫は本殿に入った。 中央に床几がおかれ、その正面に例の行灯が置かれ、

さらにその向こうに厘海和尚が座禅を組んでいる。

 「和尚様……」

 轡虫は不安げな声で和尚に呼びかけた。 和尚は瞑目したまま応える。

 「もう一度君を拘束することも考えたが、最後は君自身が戦うしかない。 それで、この様に準備した」

 轡虫は床几に腰かけて和尚と正対し、呟いた。

 「戦う……」

 「そうじゃ。 君の友人たちは『褥の怪』にさらわれたのではない。 彼女達の暗示に操られ、行ってしまったのだ」

 轡虫は友人たちの事を思い、うつむいた。

 「だから、君は自分と戦うのじゃ。 愚僧も力を貸そう」

 「戦うとは……どうすればよいのですか?」

 「うむ、君らは『褥の怪』に誘われる夢を見せられ、それに応じた者が姿を消している。 その誘いに乗らず、

耐えることじゃろう」

 そこに、若い僧が木の棒を持ってやって来た。 座禅の時に、僧侶が座っている人を叩くアレである。

 「よし……そろそろ始まりかな」

 戦いの夜が始まった。


 日が暮れてしばらくすると、本堂の中は真っ暗になった。 ご本尊の辺りにはロウソクが灯されているが、轡虫が

座っている辺りまでは光が届いていない。

 「……?」

 ふいに目の前が明るくなる。 行灯に火がともったのだ。 

 「これは?」

 「気が付かなかったのかね?」

 厘海和尚がぼそりと言った。

 「君が、自分で灯したのだ」

 轡虫は目を見開いた。 本当に自分では覚えがないのだ。

 「来るぞ、気をしっかり持て」

 轡虫はごくりとつばを飲み込み、行灯を睨み付けた。


 ……轡虫さん……

 楓の声が聞こえた。 行灯の灯りの中からだ。 

 ’く、来るな!’

 叫んだつもりだったが、自分の声がひどく遠くに聞こえた。 辺りの景色が色あせ、現実感が乏しくなっていく。

 ’来、来ないで’

 もう一度拒絶を口にする轡虫。 しかし、声に力がない。 目を開けたまま夢を見ているような、そんな奇妙な

感覚に襲われる。

 ”轡虫さん……”

 再び楓の声がして、行灯の明かりの中にうっすらとその姿が浮かび上がる。

 ’和尚さん……和尚さん!’

 厘海和尚に助けを求めた。 和尚の姿は灯りの向こうに見えるが、彫像のように身動きしない。

 ”轡虫さん……”

 眼を上げると霞のような楓が目の前にいた。 ふくよかな半透明の女体が、腕を広げて轡虫を抱こうとしている。

 ’くそっ……’

 逃げようにも体が動かない。 それに、夢の中を彷徨っている様な感覚に、頭もうまく働かない。 泥の中で

もがいているかのようだ。

 ”ね……”

 楓の胸が正面から迫り、轡虫の頭を包み込む。 甘酸っぱい女の匂いが、彼の鼻腔を満たす。

 ’わっ……’

 浮遊感とともに体を甘い痺れが走り抜け、轡虫は思わずその感覚に身を任せてしまった。 

 ’……’

 ふわり動いた楓の胸が、轡虫を包み込む。 しっとりとした女の肌の感触が、両頬に心地よい。 

 ’楓さん……やめて……’

 轡虫は両手で楓の胸を掴み、払いのけようとした。 しかし半透明の乳房は、得体のしれない柔らかさで指の

間からはみ出し、逆に轡虫の手を捕まえた。

 ’……あー……あの時と……’

 ぼんやりと思いだす、楓と迎えた朝の事を。 あの時も彼女の乳房は彼の指を迎え入れ……

 ”あふ……”

 楓か喘ぎ身をくねらせ、轡虫の指の間で彼女の乳房が柔らかく蠢く。

 ”いいの……それ……”

 楓の手が、轡虫の手に重なり、そっと力が加わる。

 ”もっと……して……”

 轡虫の手の下で、楓の乳房が震え、悶えるのが判る。 その歓びが轡虫にも伝わってくるようだ。

 ’こう……こう?’

 轡虫は促されるままに楓の乳房を弄り、乳房に指を食い込ませる。

 ”そう……もっと……もっとぉ……”

 轡虫の手を求め、楓は陶然とした声で喘ぎ、彼の耳元で囁いた。 蜜の様な声が、耳から流れ込み轡虫の頭の

中を満たしていく。

 ’楓さん……こう……こう?’

 半ばうわ言のように呟き、轡虫は楓の胸を愛撫し、いつの間にかその乳首を舐めていた。 乳首から甘い滴が

滴ってくる。

 ”吸って……ねぇ……”

 轡虫は楓に求められるまま、乳首を咥え甘い滴りを口にする。 濃厚な蜜の様な乳は、頭をクラクラさせるほど甘い。

 ’甘い……’

 ”おいしいでしょう?……もっと……ねぇもっと……して……舐めて”

 轡虫は舌先をとがらせ、楓の乳首を抉るように動かした。 楓の乳首がブルンと震え、次の瞬間、盛大に蜜の

様な滴りを吹き出した。 同時に楓が声を上げてよがる。

 ”ひぃ……いいっ……いいの”

 腕に力を込め、楓が轡虫の頭を乳房の間に抱え込んだ。

 ”もっと……もっと……”

 
 『轡虫君!? どうした!?』

 
 ’あれ?……’

 遠い所から轡虫を呼ぶ声がし、彼の舌の動きが止まった。

 ’僕は、いったい?’

 ”やめないで……”

 彼の耳元で楓が囁く。

 ”もっと……しよ”

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