第十四話 褥(しとね)

21.その夜、本堂3


’あ……あぁ……’

 霧木栗鼠が喘いだ。 彼の両足は牡丹の中にあり、濡れた肉が甘える様に絡み付き、すり寄っていた。 その

動きに合わせて、柔らかな快楽の波が足を伝わってくる。

 ”心地よいでしょう……私の胎内は……殿方の全てに性の歓びを呼び起こす……あふ……”

 艶っぽく囁く牡丹の声にも、深い陶酔の響きがある。 霧木栗鼠に歓びを与える行為は、牡丹自身にとっても

この上ない快感なのだろう。

 ”中を……ねぇ……”

 牡丹がの声が、霧木栗鼠の耳朶にねばり付く。 殆ど意識せず、霧木栗鼠は足先で牡丹の中を弄った。

 ”ああ……ん……”

 牡丹がよがると彼女の肉が痙攣するように震え、霧木栗鼠を腰まで咥えこんでいる陰唇から、ピチャピチャと女の

滴が流れ出し、彼の腹や背中を濡らした。

 ’ひっ……’

 霧木栗鼠は背中に温かい痺れを感じ、反射的に息を止めて硬直した。 固くなった彼の腰回りで牡丹の陰唇が

ヒクヒクと蠢き、じり、じりっと若い男の肉体を胎内へと呑み込む。

 ’うぁぁ……腹が……背が……感じ……’

 ”うっふぅ……気持ちいい?”

 ’いい……いい……牡丹……牡丹の胎内……すごくいい……’

 ”嬉しい……”

 牡丹は嬉しそうに呟いて、腹をうねらせた。 既に霧木栗鼠の半身が入っている筈の女の腹だが、見た目は少し

膨らんで見えるだけ、そこが大きく波打った。

 ’はうっ……’

 牡丹の中で霧木栗鼠の下半身は揉みし抱かれ、嬲られ、そして愛された。 普通の男と女の交わりであれば、

高ぶりはやがて絶頂へと変わり、果てる、だが……

 ’いい……気持ち……’

 牡丹から与えられる快楽に、霧木栗鼠は自分がふやけ、蕩けていく様な心地になっていた。 ねっとりと粘る快楽

が詰まった袋になっていくかのようだ。

 ’蕩けそう……’

 ”んふ……もっと……蕩けさせてあげる……”

 牡丹は足を絡めるようにして、溢れだす愛の滴りで霧木栗鼠の胸板を濡らした。 甘い疼きがさらに広がり、

霧木栗鼠は胸を逸らして悶えた。

 ”さ……もっと……”

 悶える霧木栗鼠の胸に、牡丹の陰唇が吸い付いた。 ヒタヒタと陰唇に舐めらる感触に応え、霧木栗鼠の体が

さらに牡丹の胎内へと潜っていく。

 ’ふぁ……は……ひぃ……’

 頭だけを牡丹の中から覗かせた霧木栗鼠の口からは、もう意味のある言葉は出てこなかった。 瞳は妖しい

快楽に曇り、顔は緩みきっている。

 ”ああ……いっぱい……貴方で……いっぱい”

 うっとりと牡丹は呟くと、大きく身を震わせた。 緩んだ秘所から快楽の証がしとどに吹き出し、霧木栗鼠の顔を

濡らした。

 ’ふひゃ……’

 顔を濡らされた霧木栗鼠は、とうとう言葉も漏らさなくなった。 ただ、その体は芋虫の様に蠢き、牡丹を歓ばせ

つづけている。

 ”ああ……ああっ……ふふ……とうとう……さ……おいで……”

 牡丹が腰をうねらせると、霧木栗鼠の頭が沼に沈むように牡丹の中に沈みこんだ。 彼を呑み込んだ秘所は、

その余韻を楽しむかのようにゆるく口を開き、トロトロと透明な滴を流していた。


 (霧木栗鼠……)

 轡虫は、文字どおり夢を見ている気分だった。 現実感がなく、何が起きているのか頭を働かすことも手出来ない。

ただ……

 ”ああなりたい?……”

 背後から、楓が彼に囁く。

 (……?)

 ”あれもいいわよ?……それとも……”

 背中に感じる温もりが、急に熱を持った。 楓の膨らみが、熱く背中にねばり付き……

 (こうなりたい?……)

 (!?……あれっ?……)

 楓の声が頭の中で聞こえた。 楓が彼の中にいるように……それに伴い、なにやら感覚が変になり周りが

ぼやけてきた。

 (あのときの……つ・づ・き……)

 (あのとき……)

 曖昧な記憶の中から、楓の乳房がふいに浮かび上がる。 餅の様に白くて柔らかく、深々と食い込んだ轡虫の指

をじわじわと呑み込もうとしたあれを。

 (そうか……あのまま続けていれば……うふ……こうなれた……)

 轡虫は妙にうれしくなってきた。 探し求めていた物を、やっと手に入れられる。 目の前の男と、一つになれる

歓びが湧きあがり……

 (楓!?)

 ”ね?……自分が自分でなくなっていく感じ……これもいいよ?”

 楓の笑顔が目の前にあった。 心底嬉しそうな、無邪気な、そして歓びに満ちた笑顔が。 そして彼女が口を開き……


 「喝!!」 

 「わっ!?」

 厘海和尚のいかつい顎がささえる分厚い唇から凄まじい声が響き渡り、轡虫の意識を現実に引き戻した。

 「な、なんだ?」

 夢の世界から襟首を掴まれて引き戻された轡虫は、何度も瞬きをして辺りを見回し、そこが本堂の一角である

ことを認識する。

 「気が付いたか? 君、懐のモノは何だ?」

 轡虫はきょとんとし、自分の懐を探る。

 「これは……ロウソク? いつの間に?」

 狐に包まれたような顔をする轡虫を、厘海和尚は厳しい顔で見ている。 そこに、慌てたような足音共に若い僧が

駆け込んできた。

 「大変です! あの人が姿を消しました!」

 「何?」

 「霧木栗鼠が?」

 本堂の中に重い沈黙が下りた。 

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