第十四話 褥(しとね)

20.その夜、本堂2


 若い僧は、本堂を出て土蔵へと向かった。 途中で宿坊の玄関によって下駄箱の上の懐中電灯を手にし、スイッチを入れて

灯りを確認する。

 「よし」

 この寺は山の中にある訳ではないが、すぐ裏手が山になっており夜になれば敷地の中は灯りなしでは歩けない。

 「急がないと」

 小走りで土蔵に向かう。


 土蔵は外扉と格子戸の二重の扉がついており、今夜は中に人がいる為、外扉は開け放たれて中の格子戸だけが締められて

いた。

 僧が土蔵にたどり着くと、中からの灯りが土蔵の正面を明るくしている。

 「すみません。 もう休まれましたか?」

 土蔵の中に声をかけながら、僧は格子戸をあけ中に入った。

 「?」

 中には夜具が敷かれ、簡素な作りの行灯が枕元を照らしていた。 そこに居るはずの霧木栗鼠の姿がない。 彼がかの行灯を

見ていれば、すぐに『褥の怪』に由来するものと気が付いたろうが、彼はそれを見るのは初めてでだった。

 「変だな?」

 夜具をめくってみると、霧木栗鼠の衣服が人の形に敷かれている。 辺りを見回すと、彼を縛っていた縄が打ち捨てられていた。

 「もし? 自分で縄を解かれたのですか?」

 僧は土蔵の奥に声をかけた。 さほど広い土蔵ではないが中は暗く二階もある。 霧木栗鼠が物陰か、二階にいれば僧からは

見えない。 僧は首をひねりながら土蔵の中に霧木栗鼠り姿を探し始めた。


 轡虫は、夢の中で霧木栗鼠と牡丹の痴態を眺め続けていた。 彼を背後から抱きしめている楓は、時折戯れるように彼に

触れるが、それ以上の事はしなかった。 今は二人の行為を見せるだけの様だ。

 ’い……く’

 これで何度目だろうか。 霧木栗鼠は体のうちからこみ上げてくる熱いモノを解き放つ。

 ”あぁぁ……”

 霧木栗鼠が放つ度に、牡丹が歓びの声を上げる。 牡丹は、男を籠絡するために作られた様な魅力的な肢体の持ち主だった。 

それが自分の腕の中でよがっている、男としてこれ以上ない満足感が、霧木栗鼠を酔わせた。

 ”ああ、素敵……もっと……もっときて”

 牡丹に囁かれると、それだけで頭の中が蕩けそうになる。 牡丹に求められるまま、霧木栗鼠は彼女の腰に深々と自分を

突き入れた。

 ズブ……リ

 いやらしい音が響き、牡丹の女が霧木栗鼠を咥えこむ。 

 ’う……ぁ……’

 ヌラヌラとした陰唇の蠢きが、下腹全体に感じられた。 熱い牡丹の肉が腰にしがみついているかのようだ。 一瞬にして

主導権を奪われる。

 ’す……ご……’

 ”うふん……”

 牡丹が腰を揺すると、霧木栗鼠が硬直する。

 ’あ……’

 ”ね……”

 牡丹の濡れた瞳が霧木栗鼠を見ている。

 ”き……て……”

 霧木栗鼠の中を満たしていた熱い全てが、牡丹にささげられた。

 ’い……’

 彼は微かな声を漏らしが、それが精いっぱいの様だった。 忘我の表情で絶頂を迎えた彼の肉体を、牡丹の豊満な体が

抱きしめる。

 ”いい……いいの……貴方が”

 白い女体は、若い男の体を慈しむように弄り、妖しい夢の中で彼を惑わし続ける。


 ’……’

 少しして霧木栗鼠の顔に表情が戻った。 視線が辺りを彷徨い、やがて牡丹の視線と交差する。

 ’牡丹……’

 霧木栗鼠の呟きに、牡丹は嫣然と微笑むと、彼の手を自分の秘所に導いた。 柔らかな温もりと、微かな快楽の疼きが手を包む。

 ”ふ……さぁ……横になって”

 ’霧木栗鼠は牡丹に促されるまま、褥に横たわった。 力の抜けた体の中で、男性自身だけが力強く天をむいている。

 ”ああ……わたしの貴方……”

 牡丹は白い双丘で、霧木栗鼠の男を優しく包み込み、覗いた頭を赤い唇で舐めあげた。 霧木栗鼠の男は、ヒクヒクと頷くように

震える。

 ”さぁ……”

 牡丹が彼にまたがる。

 ’うっ’

 霧木栗鼠が呻いた。 何度となく感じた牡丹の胎内、そこは今不思議な温もりにに満ちていた。 そこに呑み込まれた彼自身に

不思議な心地よさを感じる。

 ヌチャッ、ヌチャッ、

 牡丹のわずかな動きと、濡れた肉の音が不思議な音楽の様に響く。 霧木栗鼠は、夢を見ているような感覚に次第に捕らわれて

いくのを感じた。

 グチャり、グチャリ……

 音は次第に大きくなり、牡丹の中から溢れる愛の迸りが、腰を濡らしていく。 

 グチュリ……

 牡丹が大きく腰を揺らし、陰唇が霧木栗鼠の腰にへばりついた……と、それが次第に広がっていく様な感触がある。

 ’…… ’

 視線を腰の方に向けると、牡丹の女性自身は大きく広がり、彼の腰を次第に中に収めようとしていた。

 ’あ……ああ……’

 霧木栗鼠の口から洩れたのは、驚きでも恐れでもなく……歓びの声だった。

 ’い……い……もっと……’

 ”さ……おいで……中に……”

 囁きながら、牡丹はゆっくりと腰をうねらせる。 蛇が獲物を呑み込むように、霧木栗鼠の体を女陰の中に呑み込んでいった。

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