第十四話 褥(しとね)

19.その夜、本堂


 「ふむ、ここが良かろう」

 轡虫が案内されたのは、ご本尊が見える伽藍の一角だった。 床に青いビニールシートが敷かれ、その上に布団が敷かれて

いる。

 「さて、ちと我慢してもらおうかの」

 厘海和尚と若い僧は、霧木栗鼠と同じように轡虫を縛りあげた。

 「いい気分ではないですね」

 縛られた轡虫が暗い口調で言った。 拘束や監禁の様に他人から自由を奪われる行為は、それが善意から出たものであって

も愉快な体験ではない。

 「うーむ」

 和尚も顔をしかめて考え込んだ。

 「助かった男の体験をそのまま再現してみたのじゃが……こうしてみると確かにいい考えとはいえんかのぅ」

 「誰かが見張っていればよいのではないでしょうか?」と若い僧が提案した。

 「そうじゃな」

 厘海和尚が轡虫の拘束を解き、若い僧に霧木栗鼠の拘束を解くように告げる。

 「縄をほどいてあげ、それから土蔵の錠をおろしなさい」

 「はい。 その後は其処で見張っているのですか?」

 「うむ、土蔵の外で番をしていればよかろう。 本来の仕事ではないが、これも作務と思いなさい」


 若い僧が本堂を出ていくと、轡虫と厘海和尚だけになった。 轡虫は縛られてていた手首をもみながら、首をぐるりと回して

本堂の中を眺める。

 「……」

 寺の本堂は仏様を安置している場所であり、昼でも襟を正したくなる雰囲気がある。 それが夜ともなれば、別世界の様だ。

 「さ、わしが見ていよう。 安心して休みたまえ」

 「そ、そうですね……有難うございます」

 寝ろと言われても、すぐそばで和尚さんが見張っているこの状況では、なかなか寝付けるものではないと轡虫は思っていた。 

しかし彼はこのところ寝不足気味で、しかもいろいろあって疲れていたので、布団に横になると、すぐに意識が薄れて行った。

 (霧木栗鼠は……もう寝たかな……)


 ”ああっ……ああっ……”


 (……ん?)

 誰かの声が聞こえる。 轡虫の意識が、声の方に引かれていく。


 ’牡丹……牡丹……’

 ”いいわ……いいわよ……”


 (……なんだろう?)

 思うように動けないもどかしさを覚えつつ、轡虫は声の方を見ようと意識を向ける。 すると、闇の中に仄かな光が見えた。

 (あれは……行燈?……)

 友人たちを連れ去り、彼を苦しめている恐怖の明かり……のはずなのだが、何故か何も感じない。

 (ああ……これは夢なんだな……)

 そう思った時、明かりの向こうに人影が見えた。 淡い霞の中で二つの影が絡み合っている。

 (霧木栗鼠……)

 土蔵の中に居るはずの友人の姿が、明かりの中に幻の様に浮かび上がる。


 ’あぁぁ……’

 牡丹の胸に顔を埋め、霧木栗鼠は愉悦のうめきを漏らす。 柔らかく白いもちの様な乳房の間に頭がうずまり、時に谷間の奥に

頭が見えなくなる。

 ”うふ……”

 牡丹は微笑むと、非現実的な大きさの乳房を揺すりあげ、霧木栗鼠の頭を谷間の中で歓迎した。

 ’いい匂い……’

 男を求める女の匂いと、慈愛に満ちた乳の匂いが混然となって、霧木栗鼠を陶酔させる。 うっとりと動きを止めた霧木栗鼠の

男性自身が、ヌルヌルとした温かいものに包まれる。

 ’あ……ああん……’

 霧木栗鼠は、女の様な喘ぎを上げた。 牡丹の肉は、優しく暖かな毛布の様に彼自身を包み込みも夢の世界へと誘う。 

股間が縮み上がり、自分の分身を快感の痺れが這い上がってくるのが判る。

 ’気持ち……いい……よぉ’

 ”いいでしょう……ほら……いい気持ちに……してあげる……”

 牡丹の囁きに導かれるまま、霧木栗鼠の体は快楽の極みに満たされた。 心地よい痺れが全身を走り抜け、こみ上げるものが

股間を突き抜ける。

 ’い……くぅ’

 ヒクヒクと自分自身が痙攣して、熱いモノを迸らせる。 快感のリズムで頭の中が満たされ、真っ白になる。

 ’ああっ……ああっ……ああっ’

 トロトロと粘っこいモノが、後からあとから溢れだし、牡丹の中に吸い込まれていく。

 ”熱い……あなたの……ああ……熱くて……いいわぁ”

 牡丹はうっとりとした表情で、眼を閉じて霧木栗鼠を感じている。 二人はしばらく抱き合ったまま、絶頂をかみしめていたが、

やがてまた互いの体を愛撫し始めた。

 ’よかった……蕩けそう……’

 ”気持ちいいでしょ……蕩けるのは……”

 牡丹は、霧木栗鼠の耳元でささやいた。

 ”もっと蕩けて……私の中に来て……”

 牡丹はゆったりと腰を動かし、大きな胸を霧木栗鼠の胸の上に滑らせる。 霧木栗鼠は、陶然とした表情で乳房に顔を埋める

と、乳首を甘噛みする。

 ”あはぁ……”

 牡丹の空いている方の乳首から、白い迸りが吹き出し霧木栗鼠の体を白く染めた。

 ’はぁ……’

 ため息をつきながら、霧木栗鼠は牡丹の乳に顔を埋める。


 (霧木栗鼠……)

 轡虫は心の中で呟くだけで、何も考えてはいなかった。 すべては夢を見ているようにしか見えない。 その彼の体を、白い

手が弄っている。

 (……)

 そちらに視線を向けると、どこから現れたのか裸体の楓が彼にすり寄り、その手で彼に触れていたのだ。

 (裸……}

 それで気が付いたのだが、轡虫自身も裸だった。

 (ああ、やっぱり夢だ……}

 ”そう……これは夢……”

 楓が囁く。

 ”貴方の友達が見ている夢……”

 楓が霧木栗鼠達に視線を向け、つられて轡虫もそちらを向く。

 (霧木栗鼠……)

 幻の霧木栗鼠の姿は、何やら薄くなってきたようだ。

 ”ほら……貴方のお友達は、もう牡丹姉さんもの……もうじき蕩けきってしまう……”

 (蕩ける……?)

 楓はがこっくりと頷いた。

 ”気もちいいわよ……とっても”

 そう言って、楓の手が彼自身をそっと撫でる。

 (あっ……)

 きゅっと股間が縮みあがり、楓と過ごした夜の感触が体に蘇る。 しなやかで柔らかな女体……熱い女の神秘……そして、彼を

呑み込もうとした柔らかな乳房……

 (楓……さん……)

 ぼーっと呟く轡虫の視線の先で、牡丹が愉悦のうめき声を上げながら、霧木栗鼠達の体を胸に抱え込んでいた。


 ”あぁ……熱い……おいで……おいで……あたしの中に……連れてっ行ってあげる……私達の褥の中に……”  

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