第十四話 褥(しとね)

18.その夜、土蔵の中2


 "あぁ……"

 牡丹は喘ぎを漏らし、体を大きく揺すった。 霧木栗鼠で、幻のような牡丹の姿が風船の様に揺れる。 輪郭があいまいな

牡丹の体は、白い霞に包まれている様に見える。

 「お?」

 牡丹の姿が少し薄れた様に見えた。 目を凝らすと、確かに彼女の体から霞のようなものが立ち上って……いや、立ち上って

いるのではなかった。 彼女の体を包む霞は、体を這うように下り、霧木栗鼠の体へと流れてくる。

 「……」

 霧木栗鼠は、ぼけた頭で他人事のようにその霞が体の上に流れてくるのを見ていた。

 「暖かい……な」

 その霞には、牡丹の体の同じ温もりがあった。 霞はゆるゆると彼を包む様に広がっていく。 霧木栗鼠は、霞の中に牡丹の

香りを感じ、彼女に包まれていく様な錯覚を覚え、同時に奇妙な既視感を覚えた。

 ”うふ……”

 牡丹は、あでやかな笑みを見せると身をひるがえし、霧木栗鼠の男性自身の上に跨ると、軽く腰を前後に動かした。 彼女の

秘裂が、男性自身にすり寄って暖かな滑りで彼を濡らしていく。

 ”いかが……私の褥の中は……”

 「褥?……ああそうか」

 霧木栗鼠は、既視感の正体に思い当たった。 この霞の中はも布団の中の感覚に似ているのだ。 冬の朝、いつもでもそこに

居たい思わせる温もりのあの感じと。

 「……いい気持ちだ……」

 ”よかった……ふふっ”

 思わせぶりに笑うと、牡丹は動きを再開した。 ヌルヌルとすべる牡丹自身の感触が、彼の男根に卑猥な感触で語りかける、

”ここにおいで、固くなって、私の中においで”と。

 「う……」

 高まっていく自分自身と対照的に、霧木栗鼠の頭の中は次第に靄がかかったようになっていく。 目を開けたまま夢を見ている

かのような感じだ。

 ”ふふっ……もうおねむなの?”

 「く、くそっ」

 からかうような牡丹の言葉がカンにさわり、霧木栗鼠の意識が現実に戻りかけた。

 「なめるなよ。 主導権を取られっぱなしでたまるか」

 重い体に力を込めて、上半身を無理やりに引き起こす。 すると、彼を包んでいた霞はねっとりとした感触でかれにまといついて

きた。 霞でできた毛布の様だ。

 ”あらあら、元気なこと……”

 牡丹の揶揄を聞き流し、彼女に正面から抱きついて、唇を奪う。

 「むぅ……ぅぅぅ」

 霞の様にぼやけていたが、牡丹の体に触ることのできる実体があった。 但し、その感触は姿にふさわしく、恐ろしく柔らか

かった。

 ”積極的なのね……”

 牡丹は霧木栗鼠の口づけを受け止めながら、逆に舌を絡めてきた。 舌なのだろうかそれは、ヌルヌルと滑る長いものが口の

中に入ってきて、彼の舌を舐めまわす其れが。

 「むぐぅ?……ううっ……うぅ……」

 一瞬の驚きがの後、彼の口の中に牡丹の味が広がる。 極上の蜜の様な甘味が、舌を、そして口腔を痺れさせる。

 「あふぁ……」

 頭がボーっとして来るような濃厚な感覚は、不可思議な快感にと変わっていく。 普通の情事の快感とは違う、深みにはまって

いくような愉悦だ。

 ”あらあら……もういくの?”

 「くのっ」

 霧木栗鼠のは気力を振り絞って、牡丹から口を離した。 牡丹のふくよかな双丘が目に入る。

 「こ、ここで勝負だ」

 頭突きの様な勢いで牡丹の胸に顔を埋めた。

 「むわっ?」

 牡丹の胸は、極上のクッションよりも柔らかく彼を受け止めた。 一緒の静寂の後、彼の鼻腔に牡丹の濃厚な香りが襲いかかる。

 「ううっ?」

 甘い香りは、脳に絡み付き彼を引きずり込もうとする。 混乱した霧木栗鼠は彼女の胸に顔を擦り付けるよう動かした。 ヌメヌメ

した乳房が彼の顔を這いまわっているようだ。

 チュルン

 「!?」

 狙ったように唇に乳首が吸い付いてきた。 先端が唇を割り、微かな甘みを帯びた乳首が舌先を擽る。

 ”じゃぁ……いかせてあげるわ……ぁっ”

 根っぽく呻いた牡丹の乳首がヒクヒクと蠢いたあと、暖かい乳が彼の口の中に迸った。

 ”ああっ……いいっ……いい……”

 乳を放つのが快感なのか、牡丹は霧木栗鼠を抱きしめたまま熱く喘ぐ。 対照的に、乳を口に注がれた霧木栗鼠は硬直して

動かなくなり、その目がトロンと曇っていく。

 「なんだ……これ」

 頭の中がミルク色に塗りつぶされていくかのようで、不思議な安らぎが心を満たしていく。

 ”その乳は……貴方の恐怖を取り除いてくれるわ……ああ”

 ’恐怖……’

 ”そう……恐怖も……嫌悪も……はあっ”

 ’嫌悪……恐怖……’

 ”ああああ……”

 体を震わせ、牡丹は霧木栗鼠を抱きしめたまま激しく達し、二人は石の象の様に動かなくなった。


 ”ふぅ……”

 少しして、牡丹が体を離す。 霧木栗鼠は相変わらず呆けたように固まったままだが、その表情に次第に興奮の色が浮かび

あがってきた。

 「……牡丹……」

 牡丹を見る目には、もう怒りも恐れもなかった。 

 ”ふふっ……したい?”

 霧木栗鼠が頷くと、牡丹は両手を広げて彼を抱きしめる。 霧木栗鼠が、深いため息を吐くと、情熱的に牡丹を抱き返した。

 ”さぁ……私を抱いて……あなたを蕩かしてあげる……”

 「牡丹……蕩かして……」

 ”奪ってあげる……身も心も……そしてあなは……私のモノ……”

 「牡丹……ああっ……」

 暗い土蔵の中で、二つの影し情熱的に絡み合った。 それは二つの影が溶けて崩れるまで続いた……

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