第十四話 褥(しとね)

12.第二夜2


 高呂木が下で桃花が上、女性上位の体位で睦みごとが始まった。 桃花の乳を口にした為か、高呂木は、もはや桃花に抗う

そぶりすら見せない。

 桃花の体は透けて見える程に薄く、その体は羽よりも軽い。 高呂木の上に桃花がのしかかっているように見えるのが、

重さは全く感じない。 しかし……

 ”さぁ……よくしてあげる……”

「ふぁぁ……」

 桃花の靄のような手が高呂木の体を這うと、指の感触がはっきり感じられ、しかも後を引く。

 「すごく……感じる」

 ”ふふ……”

 桃花は妖しく笑い、舌を尖らせて高呂木の乳首に突き立て、すくいあげるようになぞった。

 「ひぃ」

 軽い痛みが走るほどの刺激があり、乳首がジンジンと痺れた。

 ”もう少し……やさしくしてあげる……”

 再び桃花の舌が、高呂木の胸を犯した。 先ほどよりやや浅く舌が突き立てられ、敏感な乳首をかき回すように舐めている。

 「はぅ!」

 桃花は痛みと快感の線を見極められるのか、巧妙で丹念な愛撫で高呂木を攻め続ける。 高呂木は、激しい喘ぎが止まらず

息ができない。

 (し、舌が皮膚の下を舐めているの!?)

 人間の皮膚は死んだ組織で、その下にある生きた組織で真皮を守っている。 皮膚感覚をつかさどる神経は真皮にあるため、

通常の皮膚感覚は、皮一枚隔てたものになっている。

 真皮を露出させれば感覚は敏感になるが、真皮が空気にさらされると痛覚が刺激されるため、痛み以外の感覚は感じない。 

しかし桃花は、その霞の様な体を使い、皮膚を残したまま真皮を舐めているらしかった。

 「ああああ」

 ”ふふ……”

 桃花の舌が這いまわると、ねっとりとしたクリームのような快感が後に残った。 ぬぐおうとしても、後に残り、体に染み込んで

くるような快感。 じわじわと、体が蕩けてしまいそうな快楽が、胸から腹に、そして下腹へと塗りこめられていく。

 ”ほら……いいのよ……気持ちよくなっても”

 「溶けちゃう……溶けちゃうよぉ」

 桃花の表情が曇った。 高呂木の声に怯えを感じたのだ。

 ”どうしたの?……溶けちゃうのが怖いの?”

 「うん……溶けるのは……やだ」

 高呂木は、鈴虫が夢の中で蕩けて煙にされ、桜花の胎内へと呑まれたのを見ていた。 その光景が、恐怖として心に焼き

付いているらしかった。

 桃花は、唇を高呂木の下腹から離し、高呂木は大きく深呼吸する。 桜花に舐められた所に、ヌメヌメした感触が張り付き、

興奮した彼自身が痛いほどに起立している。 しかし、このままだと溶けてしまうのではという恐怖が心の中で渦を巻いていた。

 ”怖いのはいけないわね……では、怖くない様にしましょう”

 「え?」

 いぶかしむ高呂木の手を取ると、桃花は指を丹念にしゃぶり始めた。 ヌメヌメした感触に手が包まれる。

 ”その手で……私を”

 桃花は、高呂木の手を自分の胸に導いた。 霞の様に見えるのに、しっかりとした弾力が感じられるそれに、高呂木の指が

食い込んだ。

 ”あ……はぁ……”

 桃花が甘い喘ぎを挙げて身をよじる。 その声に促される様に、高呂木は手で桃花の乳房をもみ、乳首を指で押しつぶすように

愛撫する。

 ”そう……もっと……もっとしてぇ”

 もとより高呂木は桃花の虜になっている。 桃花に求められて、拒絶することはない。 よがる桃花の求めに応じ、高呂木は

桃花の乳房を丹念にこね回し、乳首をこすりあげる。

 ”もっと……もっと”

 「こう……こう?……ああっ?」

 高呂木は、軽い驚きの声を上げた、自分の胸に、なにやらもやももやとした奇妙な感覚を覚えたのだ。 思わず手が止まる。

 ”やめないでぇ……もっとぉ”

 桃花がせがむと、高呂木は再び桃花の胸を愛撫した。 それにつれて、次第に胸の奇妙な感覚がはっきりとしてくる。 暖かい

ような、圧迫感のような、それでいてふわふわした気分になるような変な感じだ。

 ”ああっ”

 「うふぅ?」

 桃花が大きくあえぐと同時に、高呂木の体を軽いショックが走った。 未知の感覚に体が驚き、また手が止まってしまった。


 ”ふふっ”

 桃花が悪戯っぽく笑った。

 ”いまのよかったでしょう?”

 「いまのは?」

 ”御覧なさい……あなたの手を”

 桃花に言われて、高呂木は自分の手をしげしげと見つめた。 桃花の乳房に食い込んでいて、彼女の体を透かして見ている為、

霞んで見える。 いやよく見れば、彼の手も僅かに霞がかかったようになっている。

 「これは……うっ」

 再び高呂木の体をショックが走った。 重く濡れた甘酸っぱい感覚が股間を熱くする。 その高呂木を見つめたまま、桃花は

自分の秘所を指で慰めていた。

 ”気持ちいい……でしょ……あたしの……快感は”

 「桃花さんの……ううっ」

 三度ショックが走る。 重く熱い何かが、足の間で蠢き、それが下腹に疼くような甘い感覚を溢れさせる。

 ”あは……ごらん……あなたの手と……あたしの乳房が溶けて混じっているわ”

 「ああ……」

 高呂木が目を見開く、しかしその表情に驚きはない。 愉悦の色に染まり、熱い快楽に呑みこまれかけている。

 ”こうして……混じってしまえば……あは……怖くは……ふぁ”

 喘ぎながら、桃花は自分を激しく慰めている。 その胸の所で、高呂木の手は次第に霞の様にぼやけ、桃花と混じり合って

いく様だ。

 「変……変になりそ……ううっ」

 呻きながら、半ば反射的に高呂木は腰を突き上げた。 体位を戻していた桃花の神秘に、高呂木の男自身が、桃花の手を

押しのけて強引に迫った。

 ”ああっ!”

 「ひい!」

 互いの快感が、二人の絶頂を倍加させた。 高呂木は一瞬で絶頂に達し、男の精を桃花に差し出した。 その見返りに、桃花の

絶頂が高呂木を高みの頂点の、さらにその上に引き上げる。

 「ふにゃぁぁ……蕩け……蕩けて混じる……混じっちゃう」

 ”あははっあははっ……すごい……いい……感じる……あなたを感じるぅ”

 正気を失ったかのように、二人は互いを、そして自分自身を貪った。 高呂木の体が、桃花同様に霞の様に薄くなり、そして

次第に桃花と混じり合い、見分けがつかなくなっていく。 最後には、行燈の周りを激しく渦を巻く霞がたなびくのみとなった。

 ”あはっ……あははっ……”

 ”いこう……いこうよ……もっと……もっと乱れよう……”

 渦巻く霞が、行燈に吸い込まれた。 そして行燈そのものが消え、高呂木の部屋が闇に包まれる。 もはや、そこに人の気配は

なかった。

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