第十四話 褥(しとね)

9.その夜3


 「あぁぁぁ……」

 鈴虫はヒクヒクと悶えている。 桜花は彼をじかに責めている訳ではない。 彼の分身が放つ『白い煙』に触れているだけだ。 

しかしそれだけで、鈴虫の体にはしびれるような刺激が走るのだった。

 「あぁ……」

 桜花は愛しげに『白い煙』を手に取り、微かに、本当に微かに舌先を這わせる。

 「くうっ」

 鈴虫が吐息を漏らした。 桜花が加減しているのか、先ほどまでに比べ、やや余裕がみられる。

 「このぐらいが宜しゅうございますね」

 桜花はふっくらと笑みを漏らすと、尖らせた舌先で『白い煙』を掬い取るようにして、ゆっくりと動きはじめた。

 「はぁ……はぁぁ……」

 桜花の舌先が『白い煙』を撫でるごとに、鈴虫の背筋を深い刺激が走る。 それが言い知れぬ喜びの感覚に変わり、鈴虫を

蕩かしていく。

 「ふぁぁ……溶ける……とけちゃうよ」

 ヒクッ……ヒクッ……

 鈴虫が呟く度に、彼自身は喜びに震え粘っこい『白い煙』を宙に吐き出し、それが桜花に引きよせられるように流れていく。

 「よいのですよ、蕩けてしまって……ほら、ここで慰めてさしあげます……」

 桜花は、舌を使って『白い煙』を胸元へと導いた。 そして、谷間に流れ込む『白い煙』を二つの果実で擦りあげた。

 「ふにぃ……」

 鈴虫はくたりと床に崩れ、そのままヒクリ……ヒクリと震えながら『白い煙』を吐き出し続け、それを慰める桜花の胸は、次第に

白く染まっていく。

 「ああ、鈴虫様……」

 桜花は頬を桜色に染めながら、乳房を揉みしだき、ふっくらと揺れ動く乳房の上で白い模様が渦を巻く。

 「や、柔らかい……もっと」

 鈴虫がそう言った途端、『白い煙』が盛大に吹き上がり、そのまま桜花に覆いかぶさり、その全身を白く染めていく。


 「ああ、もっと、もっと来てくださいまし……」

 みだらに悶え誘う桜花に、鈴虫は抗うこともできず『白い煙』を吐き出し続ける。 そして、その体に変化が起こり始めていた。

 「か、からだが……萎む?」

 ビニール風船から空気が抜けるように、鈴虫の体が萎み始めた。 体が厚みを失い、寝床の上で人型のシーツの様になって

いく。

 「そ、そんな……」

 戸惑う鈴虫の耳朶を、桜花の声が打つ。

 「ああ、もっと……もっときて」

 そして、桜花は体に絡みつく『白い煙』と化した鈴虫を、ローションの様に自分の体へと導く。

 「ああっ……だめ」

 深い喜びに蕩ける鈴虫の体は、誘われるままに桜花へ流れ、もはや留まることができない。

 「お、桜花さん……」

 「鈴虫様……さぁ、ここへ」

 桜花は裾を乱して、女性の神秘をゆっくりと鈴虫に晒す。 妖しく濡れて光る欲望の花が、鈴虫を捕えようとゆっくりと開いて

いく、彼にはそう見えた。 そして……

 「お、桜花さん……ああっ」

 「さぁ……おいでなさいまし……私の褥へ」

 理性の最後のタガが外れ、快楽の渦と桜花への欲望だけが鈴虫を満たす。 次の瞬間、残っていた鈴虫の体が一気に溶け

『白い煙』と化す。

 ”桜花……”

 鈴虫の声で呻く『白い煙』が、桜花の神秘の花へと流れていく、それとも吸い込まれているのか。

 「鈴虫様……なかへ……なかへ」

 ”いいよ……いい……暖かくて……ヌルヌルして”

 「よい心地てでしょう……うふふ……」

 ”気持ちいい……とっても気持ちいい……”

 「このまま……まどろみなさいまし……永遠の快楽の夢に……悦楽の褥で」

 なおも喘ぎ続けながら、桜花は悶え喜び続け、その体にまといついていた『白い煙』も、すべてが彼女の中に吸い込まれていく。

 は……あ……

 そして行燈の灯が消えると同時に、部屋から人の気配が消えた。


 …………

 ………

 ……

 「わっ!」

 轡虫は布団を跳ね除けて飛び起きた。 ひどい寝汗をかいている。

 「鈴虫?……いまのは夢か?」

 暗闇の中、轡虫は自問自答した。 その時、携帯電話がなった。

 「こんな時間に……霧木栗鼠?」

 応答ボタンを押し、電話に出る。

 『すまん、変な夢を見たんだが……』

 「鈴虫が……か?」

 『お前もか……』

 轡虫の手が震えだした。 鈴虫に電話をかけて、彼の無事を確かめるべきだろう。 だが、もし出なかったら……そう思ったから

こそ、霧木栗鼠も鈴虫でなく轡虫に電話をかけてきたのだろう。


 火をつけて……


 微かな声に轡虫は固まった。 じわじわと、首を回し声の方を……見るまでもない、彼がそこに置いたのだから。 あの行燈の

入った箱が。


 火をつけて…… きて……


 声は箱の中から聞こえていた。 

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