第十四話 褥(しとね)

3.丑三つ時〜夜明け


 (とほほ……)

 轡虫は心の中でため息をついて、情事の後始末にかかろうと動き出す。 と、楓が轡虫やんわりと止めた。

 「今度は……上でよくして下さいまし」

 「上?」

 上に乗っているのは楓の方だ。 轡虫が上になれと言う意味かと、彼は首を捻る。 すると、楓が大きく腕を広げた。

 「……!」

 楓の肢体が闇の中で白い蝶の様に舞い、ふくよかな胸元が轡虫を柔らかく誘った。 轡虫は吸い込まれるように楓の胸に顔を

埋めた。 甘い女の匂いが彼を包み込む。

 ああ……

 楓が甘い喘ぎをもらしつつ、轡虫を床に押し倒した。


 「舐めてくださいまし……そこを」

 喘ぎながら、楓は乳房を轡虫の顔に押し付けて来る。 ふわふわと動くそれは、驚くほどの柔らかさで轡虫の顔に覆いかぶさり、

しっとりとした感触で彼の顔の上を這いまわる。

 (なんて……柔らかくて……いい匂い……)

 ふわふわと漂う様な心地よさを感じつつ、轡虫は乳房を吸いつつ、舌で乳房を舐めまわした。 柔らかな乳房が舌に吸い付いて

くる様だ。

 ぁぁ……

 楓は喘ぎ声を漏らすと、楓の足に自分の足を絡みつかせた。 同時に轡虫の男根が、柔らかな圧力できゅうと絞られた。

 「ううっ……」

 楓の胎内に捕えられたままの轡虫自身が甘い疼きに包まれた。 放ってしまって弛緩していたそれは、抵抗することもできずに

楓の神秘に嬲られる。

 「さぁ……」

 動きが止まった轡虫の唇に、じわじわと乳首がにじり寄ってきた。 つんと立った突起が、唇の間を滑って行く。

 「舐めて……」

 轡虫の唇が開き、楓の乳首を軽く吸った。 すると、ぬるりと言う感じで乳首が口の中に滑り込んできた。 いや、感覚的には

流れ込んできたというのが近いだろう。

 (!?)

 驚いた轡虫は、反射的に口の中の乳首を舌で押し戻そうとした。 すると、舌が半ばまで乳首にめり込んでしまった。

 あぁぁぁぁ……

 楓の口から一層の甘い喘ぎが漏れ、しなやかな腕が轡虫の頭を強く抱きしめる。 そして轡虫の口の中で楓の乳首がヒクヒクと

震え、甘ったるく女の匂いのする乳を放った。

 (うわぁ……)

 口の中に、暖かい楓の乳の直撃を受けたと思った次の瞬間、轡虫の意識が飛んだ。 楓口の中に広がった楓の女の味が、

えも言われぬ快感となって頭の底を打ったのだ。

 ああっ……ああっ……

 白目を剥いた轡虫の頭を抱いたまま、楓は轡虫の上で悶え狂う。 一瞬失神した轡虫だったが、楓の動きですぐに意識が

引き戻された。 しかし、口の中に広がる快楽の味が彼を狂わせる。

 (いい……もっと……出して……)

 彼の舌はヒクヒクと蠢き、彼の口を犯している楓の乳首に突き刺さる。 すると楓の乳首が口を開けて、彼の舌を受け入れ、

その上にあの魔性の乳トロトロと放った。

 (ふひゃぁ……)

 轡虫の意識は、真っ白な快感に塗りつぶされ、自分が何をしているのか判らなくなっていた。

 ああああっ……いい……もっと……もっと舐めて……吸って……

 楓に求められるままに、轡虫の舌がいやらしく蠢いて楓の乳房を責めると、軟体動物の様に蠢く楓の乳が、たっぷりと魔性の

乳を放って轡虫の口を犯す。

 はへっ……はへっ……

 ああっ……ああっ……

 楓と轡虫は、半ば動物の様なうめき声を上げ、闇の中で快楽を貪り続けた……


 コッコッコッォーッ……

 (……あ)

 鶏の声が、轡虫の意識を呼び戻した。 真っ暗だった室内が、微かに見渡せるようになっている。

 (……朝か……)

 そう思ったとき、彼の顔の前で楓が身を震わせた、あの暖かい乳を口の中に放つ。

 (はぁ……)

 頭の中が蕩けそうになりながら、轡虫はなんとか自分を正気に戻し、いやいやながらも楓の乳房から口を離す。 長い時間、

乳房に顔を埋めていたので、乳に濡れた互いの肌が張り付いていたのか、音を立ててはがれていく。

 「もっと……」

 楓が上気した顔で求めて来た。 その顔を見ていると、なんだか意識が持って行かれるような気がし、轡虫はぶんぶんと頭を

振った。

 「あ、あの……朝ですよ」

 そう言って、身体に絡み付く楓を、優しく押しのけようとする。 今度は、お腹や足の肌がべりべりと剥がれる。 

 「っ……?」

 微かな痛みを感じた轡虫は、楓と自分が触れあっている箇所に視線を落とした。

 「え?」

 互いの快楽の残滓で肌が張り付いていると思ったのだが、よく見てみると接着剤で張り付けたように、ベッタリと楓と自分の

肌がくっついている。 

 「なにか?」

 楓が、優しげな顔で尋ねてきた。

 「いえ、肌がどうしてこんなにくっつくのかと……」

 楓がくすくすと笑った。

 「それは、私が貴方を求めているから……体が、貴方と一つになりたがっているのです」

 「はは、ご冗談を……」

 楓は、笑い飛ばそうとする轡虫の手を取り、自分の乳房に導き、そこに自分の手を重ねる。

 「ほら、こうして触っていると……」

 微笑みかける楓の肌は、ずっと触っていたくなるほど心地よい。

 「素敵な感触ですけね……」

 少々残念に思いつつ、轡虫が手を引こうとすると、掌が乳房に張り付いている様に抵抗感がある。 強く引けば剥がれなくは

ないが……

 「ほら」

 楓が重ねた手に力を込めた。 轡虫の指が乳房に食い込む。 すると、彼の指の間からじわじわと乳房の肌が盛り上がって

くる、粘土細工か何かの様に。 そして手が乳房の中に沈んでいく。

 「……」

 言葉を失い顔面蒼白になった轡虫に、楓が微笑みかける。

 「こうして……一つに……あ」

 楓の頬が赤らみ、上気してきた。 そして、楓の乳房に沈みこんだ轡虫の手に、暖かな快楽の疼きが伝わってくる。

 『ぎぇぇぇぇ……!!』

 宿坊に、4つの悲鳴がこだました。

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