第十四話 褥(しとね)

2.深夜


 カポーン……

 薄い湯気がたゆたう風呂で、4人湯につかり、ぼんやりと壁を眺めていた。

 「いいのだろうか、これで?」鈴虫が言った。

 「……?」

 風呂は質素な作りだが掃除が行き届き、湯は澄みきっていた。 雨に打たれた体が解れていくようで、油断すると眠ってしまい

そうだ。

 「なぁ? 宿屋じゃないからお金を払うのは変だけど、お世話になりっぱなしと言うのも……」

 「うん、明日お礼として掃除をしていけばいいんじゃないか?」

 「なるほどそうか」

 鈴虫が顔を緩めた。 どうやら『お礼』をどうするかが気になっていたようだ。

 「よし、あがるとするか」

   
 「ええ? 一人一部屋ですか?」

 「はい」

 風呂から上がると、板張りの食房に案内され、4人はそこで簡単な食事を振る舞われた。 そして、寝所に案内されたのだが、

なんと個室になっているという。

 「そこまでしていただかなくとも、大部屋で充分です」

 「それが、大部屋の床を修繕しているところなので。 お恥ずかしい事ですが」

 「とんでもない。 えー……ではお言葉に甘えさせていただきます」

 4人はへこへこと頭を下げつつ、渡り廊下をわたって寝所に案内された。 寝所の個室は、二畳ほどの小さな部屋をふすまで

仕切った作りになっていた。 これならば、ふすまを外せば大きな部屋として使える。

 「んーどうする?」

 高呂木がふすまを開け閉めしながら聞いてきた。 開け放って使おうかと尋ねているらしい。 

 「まぁいいんじゃないか、このままで」

 「なんか疲れたし」

 「そうだな」

 道に迷ったり、雨に降られたりで、みな疲れていた。 ふすまを開けて部屋に入ると、白い綿の夜具が用意されている。

 「じゃあおやすみ」

 4人は、それぞれの部屋に分かれ、夜具に潜り込んだ。


 ……

 ……

 ……フワリ

 (ん?)

 轡虫は目を開けたた。 真っ暗で何も見えない、がそれ以前に意識が戻りきっていない。 目を閉じながら考えた。

 (……えーと……この状態は……そうそう「寝ぼけている」……だな)

 意識がゆっくりともどってくるのを感じながら、枕元の時計探ろうとする。 と、右手が柔らかなものに触れた。

 (あったかい布団だなぁ……動いている?)

 もう一度目を開け、手に触れたものを検めようと視線を向ける。

 「お目覚めですか?」

 白い着物の女性が視線の先に居た。 桐葉ではないが、雰囲気はよく似ている。

 「……!?」

 跳ね起きて声を出そうとした彼の唇を女性が自分の唇でふさいだ。 気勢をそがれた轡虫は声を飲み込んだ。

 「お静かに……」

 「あ、あの……貴方は?」

 「楓と申します」

 「はぁ。 い、いえそうでなくて」

 「貴方を温めに参りました」

 「へ?」

 間の抜けた返答を返した轡虫の前で、楓は優美な物腰で着物を脱ぐ。 真っ暗な部屋の中に、輝くような白い裸身が浮かび

上がる。

 「あ、あの? ここはお寺で……」

 「はい。 ですが、私は僧籍にあるものではありません」

 「いえ、そういう問題では……」

 しどろもどろになる轡虫を褥に沈めると、楓はその脇に横たわり、夜具で轡虫と自分の体を闇から隠した。

 「あの……」

 なおも言いつのろうとする轡虫の体に、楓の温もりが伝わる。

 「そのままで……」

 蠱惑的な香りが、夜具の中に満ちる。


 ヌルリ……

 「っ……」

 固くなった男の証を、優しい溝が暖かい滑りでくすぐる。 前後に二度三度度と摩られただけで、そこは固くそそり立ち、猛って

いるのが判った。

 (こ、こらっ……)

 轡虫は心中で、正直すぎる自分自身を叱りつけた。 楓が、微かに笑っている気配がする。

 「参ります」

 そう言うと、楓がぐいっと背をそらせた。 柔らかな溝が深みを増し、熱い蜜がトロトロと溢れだして彼自身を濡らす。

 「うっ」

 熱く濡れた彼自身が反り返る。 楓の神秘はそれを逃さず、柔らかい衣で包みこんだ。 楓の温かさに猛りが暫時沈まったようだ。

 「さぁ……おいでまし」

 柔らかい肉が渦巻き、彼の男根は女の奥底、真の褥に引きずり込まれた。 

 「!?」

 極楽だった。 熱くざらついた薄い肉の夜具が亀頭を包み、厚ぼったい肉の褥が彼自身を咥えこんで離さない。 楓の中で

彼自身は翻弄され……果てた。

 「ああっ」

 「あ……あ……」

 細い声で喘いだ楓の中に、轡虫は熱い物を放つった。 彼の上で、楓は細い体を震わせてそれを堪能している。 

 「あ……あ……」

 微かに身を震わせて、楓が轡虫の上に静かに重なった。 楓はうすく目を開けて微笑み、轡虫はぎこちなく笑みを返す。

 (し、瞬殺だなんて……)

 これまで感じたことのない極上の絶頂だった。 しかし、男としては……最低だった。

 (なんてことだ)

 真っ暗な部屋の中以上に、心が真っ暗になった。 

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