第十三話 ナイトメア

11.悪夢と記憶と望みの果てに


 ズブリ……ズブリ……ゴボリ……

 ”うぉ……うぁ……”

 そこはネットリとした赤い海の中。 男はもがく、もがく、もがく…… 

 ’こちらが宜しいか?’

 ’いえこちらが……’

 ’ここですしょうか……’

 さざ波の様に彼を包む声は、エミの声でもあり、赤い女の声でもあった。 声と共に、赤い海から指が、舌が、乳首が、そして……

アソコが生み出され、思いもよらなかった部分を愛してくる。

 ”ひっ!”

 時に強く、時に弱く、優しく、そしてたまに激しく……男を包む赤い海は、彼を弄び、溺れさせようとする。

 ”くのっ! か、がっ!”

 泡を吐き出し、獣じみた唸りを上げながら、彼は赤い海の水面に躍り出た。

 「ぶはっ! こ、ここは?」

 見回せば、そこは彼の寝室で、赤い海と見えたものは毛布だった。

 「ん……?……」

 傍らには裸体のエミが、眠そうな目でこちらを見ている。

 「何かひどくうなされていたようですが……夢でも見ましたか?……」

 手伸ばして、彼の頬に触れようとする。 彼は乱暴に手を振り払い、毛布を払いのけるようにしてベッドから滑りでた。

 「その手にはのらん! 夢と現実を交互に見せ、俺を混乱させるつもりか!」

 乱暴に部屋を横切り、寝室のドアに手をかける。

 「混乱し、何が現実が判断がつかなくなる。 不安が高まり、何も信じられなくなり、最後はお前の言いなりになる。 そうは

いかんぞ!」

 彼はドアを開け、立ち尽くした。

 「なんだ……これは……」


 ドアの向こうには、無数の『彼』がいた。 バスルームで襲われる彼、寝室で組み敷かれる彼、研究室で拘束される彼…… 

様々な形で『彼』が赤い女な襲われていた。

 「こ、これは!? 俺の記憶? ……し、しかし」

 記憶にしては数が多い、記憶にないマットプレイやバスプレイで襲われる彼もいる。 それに………襲わている彼より、圧倒的に

多いのは『彼』が、自分から彼女に体を預けているシーンだ。

 「!?」

 たまらずドアを閉めた。 震える手でノブを握りしめ、息を整える。

 「なんなんだあれは!?」

 ’皆、貴方さまです。 貴方様ち私の記憶です’

 はっとして振り返ると、ベッドの上に赤い女が横ずわりしている。

 「正体を隠すつもりもなくなったか? あ?」

 ’もとより隠していませんわ……’

 女の口元が笑ったように見えた。

 ’これも、貴方様のお望みのプレイのひとつですから……’

 「お、俺が望んだだと!?」

 女は、応える代わりに大型のTVへ視線を送った。 つられてそちらを見ると、彼が赤い女とベッドの上でじゃれあって……

笑っていた。

 ”うむ、なんだかマンネリだな……”

 ’飽きられましたか? 初めてのころは随分と、喜ばれていましたのに……’

 ”うむ、それだ! 初めに戻ればいいんだ”

 ’はい?’

 ”ここは、お前の見せる夢の中、それにお前は頭の中をいじれるな?”

 ’はい、そうですが……一体なにを?’

 ”俺の記憶を弄ればいいんだよ。 最初のころに、お前に取りつかれた頃に、いまにして思えば、あれは実に新鮮な体験だった”

 ’はい……ですが、記憶を弄ると、戻らぬ恐れが……’

 ”少々もの忘れをしても大したことはないだろうよ、頼むよ”

 ’はい、では……’

 TVの中で、赤い女は彼はしなだれかかり、彼の唇を奪うった。 そして、頬を膨らませたり、萎ませたりしている。 口の中で

何が起こっているのか、不気味な、そして隠微な光景だった。


 「俺が望んだ……だと?」

 ’ええ’

 「新鮮な刺激!? プレイだと!? そんなばかな!? じゃぁ、俺はとっくに堕ちて、お前の手の中にいたとでも言うのか!?」

 ’堕ちたのではありません。 理性的な判断の結果、私に体の管理を任せ、私の夢の中で奉仕を受けることを望んだのです、

貴方様が’

 そう言って赤い女は笑い、彼は呆然自失として、その顔を見つめるだけであった。


 赤い女は、彼をベッドに誘うと体を摺り寄せてきた。 ベットリと彼の半身にねばり付き、赤い胸を彼の胸に押し付ける。

 ’さぁ’

 底知れぬ深さの谷間が眼前に迫って来ると。 そのまま、彼の顔の上を滑るように動く。

 ’まだ、思い出していませんよね? 記憶が戻るまで、まだしばらくは楽しめますわ……’

 乳房さの圧力が増し、彼をベッドに押し倒した。

 「ばかな、そんなばかな……」うわ言のの様に言う彼の下半身に、赤い女が跨ってきた。 濡れた秘所の感触に、彼自身が

反応する。

 ’さぁ、ご自分で……’

 そう言って、赤い女が腰をゆすった。

 「うっ?」

 的確な刺激に、彼の体が反応する。 滑らかな動きで、彼のモノが彼女の秘所に滑り込む。 やや涼しく滑った女の中に、

火照った肉の棒がピタリと納まった。

 ’動いて……’

 甘えるような声が耳朶を打つと、彼の腰が機械の様に上下し始めた。 微かな粘着音をBGMに、赤い女体が上限のリズムを

刻む。

 「あぁ……」

 女の中で、彼の自身が洗われていた。 彼自身を擦る肉の襞の動きが、彼を優しく赤い快楽の中に誘う。

 ピチ、ピチ、ピチ……

 太ももが弾むごとに、微かな剥離音がリズムを、彼と赤い女の愛のプレリュードを刻む。

 ’あん……ああ……もっと……’

 赤い女が甘え声で彼を望む。 望まれるまま、彼はピッチを上げる。

 ビチ、ビト、ジュブ、ジュブ……

 テンポが速まるにつれ、彼自身がより深く女の中に沈んでいく。 柔軟な赤い女の体は、形を崩し、また戻りを繰り返しながら、

彼を奥に誘う。

 「ふ、深い……」

 ’来て……来て……’

 女は、彼を迎え入れながら、同時に彼を犯していた。 彼は、肌に開いたくぼみに、不浄の門に、赤い女の魔の手が入って

くるのを感じるた。

 「ああ……」

 ’ここも、ここも……感じる……ここも……’

 女は彼を知り尽くしているかのように、彼を迎え入れ、そして責める。 抗うことのできない快感が、彼を支配していく。

 「いい……いいぞ……」

 ’フフ……そうでしょう……もっと……良くして差し上げます……’

 女の声に耳を犯されている。 そう錯覚した時だった。 体の芯が溶けていくような快感の極みが彼を襲った。

 「と……いく」

 小さな声を漏らし、彼は深い陶酔感に沈んだ。 うっとりするような快感の沼の中で、彼は、自分に赤い女が染み込んでくる

様な錯覚を覚えた。

 ’愛しい方、愛しい体……’

 最後に彼女がそう囁いた。

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