第十三話 ナイトメア

10.目覚め…?


……違

 ? 

……違う

 !? 


 「それは間違っているぞ!」

 男は自分の叫び声で飛び起きた。 寝室のベッドの上だった。

 「なんて夢だ」

 はき捨てるように呟いて、ベッドから出てバスルームに入った。

 「疲れ気味だったからかな」

 常夜灯の明かりの下で、シャワーを使おうとし、手を止めてシャワーヘッドを見上げた。

 (赤い……アメーバ)

 雫が一滴、落ちてきた。 反射的に身を引き、顔をしかめて首を横に振る。

 「どうかしている……」

 冷たいシャワーを全身に浴び、乱暴に体を擦る。


 「まったく……」

 冷たいシャワーをたっぷり浴びたせいか、プールから上がった後のような倦怠感がある。 ベッドに歩み寄り、乱暴に毛布を剥ぎ、

目を見開いて硬直する。

 「……」

 「ん……主任?」

 裸のエミが、上体だけを起こし、半目でこちらを見ていた。

 「どうしました?」

 「あ、いや……」

 しどろもどろになる彼を、エミは上目遣いに見る。

 「……寝ましょう」

 そう言うと、エミは床に落ちた毛布を自分の体にかけ、端を持ち上げた。

 「来て……」

 フワリと女の匂いがする。 気がついたときには、彼は毛布の中でエミに抱かれていた。

   
 「あっ……ぁぁ」

 彼が突き入れると、エミの体はしなやかに反り返る。 深い肉が彼を受け止め、続いてぎゅっと彼自身を抱きすくめる。

 「うっ……」

 エミを抱いているのは彼だが、中では彼がエミに抱かれている。 抱きすくめられ、弄ばれ、愛されている。

 「もっと……深く……」

 エミの呟きは、抗いがたい響きを帯びて、魔法の呪文のように彼をしびれさせる。 彼は、ギクシャクと腰を動かして、エミの奥を

目指す。

 「こうか?……こうだな!」

 力の限り突き出される彼自身に、エミの淫らな衣が纏わりつく。

 ズニュ、ズニュッ……ズズズッ

 卑猥な肉の響きが、彼自身を伝わって快楽の音色を頭の中に響かせる。

 「うう……うううっ」

 ズッチャズッチャズッチャ…… 中身が溶けているかのような、不気味な音が頭の中に響き渡る。 しかし、エミの中はそれを気に

させない。

 「いい……ああ……」

 「いって……いっぱい、いって……」
 エミがそう言った途端、エミの中の彼自身が、言葉にできぬ快感に襲われた。 抗う事のできないその快感は、たちまちそこから。

全身に広がっていく。

 「ああ……あああ……」

 灼熱の絶頂感に続いて、体全体が性器になったかのような快感が彼を支配する。 そして、彼は全てをエミに注ぎ込む。

 「熱い……主任、熱い!」

 呟きながら、エミがしなやかな体を彼に絡みつかせる。 二人は一つの生き物になって、ベッドの上で快感に酔いしれた。


 フウッ……

 彼の下でエミがため息を漏らした。 けだるげな表情がぞくぞくするほど色っぽい。

 「……」

 彼は、いまさらながらエミとこうなってしまった経緯を思い出そうとしていた。

 「だめですよ?」

 エミが甘えるように呟き、目を閉じた。

 「何をだい?」

 彼は、少し焦りながら話を合わせようとする。

 「私を拒もうなんて……ご主人様”

 エミが目を開いた。 瞳のない赤い目が彼を見つめている。

 「!!」

 反射的にエミから離れようとする男。 しかし……

 グチュリ……

 エミの胎内の彼自身に、ネットリとした感触。 視線をそちらに向けると、エミの秘所から赤いネットリトしたものが噴出して、彼の

下腹部にへばり付いている。

 「!?」

 驚くと同時に、そこをこね回される感覚、最初は圧迫感、続いてなんともいえぬ奇妙な感触……

 「うぐ……よ……」

 ”ほーら……どう?”

 熱い囁き声が耳朶を撃つと、彼の体から力が抜ける。 上半身がエミの上に崩れ落ちた。

 フワリ……

 豊かなバストが、男の胸を柔らかく受け止める、そこまでは普通だろう。 しかし……

 ビチャリ

 彼の重みで、エミの乳房が潰れ、皮の下から赤い中身が噴出し、その中に彼の胸が沈んでいく。

 「な、な……」

 腕に力を込めて、懇親の力でエミの体から、自分を引き剥がそうとするが……

 ”いかないで……”

 エミの両腕が、かれの背中に回される。 所々の皮膚が破れ、赤いゼリーのような中身が見えている腕が。

 「ひっ!?」

 背中に回された腕、その冷たい感触がじわじわと広がってくる。 最初は冷たく、それが徐々に生暖かく……そして

 「と……溶ける……」

 ”いいえ……蕩けるの……”

 正体を現した赤い女がそう呟き、体を波打たせた。 さざ浪のように広がる快楽の波が、確かに彼を蕩かしていくようだ。

 「こ……これがお前の正体だな、幻覚を見せて……獲物を捕食する」

 男の体は、じわじわと赤い女に溶かされていく。 恐ろしい事に、それがたまらなく心地よい。

 ”ご主人様……ご心配なく……これも貴方の望む夢……”

 「何? これが夢だって!?」

 ”快楽の虜となり……蕩かされる……それもまた……貴方の望みのひとつ……”

 赤い女が大きく体をうねらせた。 ズブリと音を立てて、半身がめり込む。 そのめり込んだ部分から、あの蕩かされる感触が襲って

くる。

 「わ、私が望んで……の、望んだと……」

 ”ええ。 お忘れなく、私もまたご主人様の一部……心の奥に隠された……欲望まで……”

 ゴボリと音を立て、赤い女が男を包み込んだ。 男にとっての世界が、赤い女だけとなる。

 ”その欲望の全てを……満たして差し上げましょう……”

 意識が闇に沈んでいく、真紅の闇に。

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