第十三話 ナイトメア

9.正解


 ”さぁ……いかせてあげる”

 ビクリ、ビクビクビクビク……

 透き通った赤いアメーバの中で、男の下半身が震え、男性自身がヒクヒクと痙攣している。 誰かがそれを見ていたならば、

首をかしげたに違いない。 震えるモノの先端からは、何も


出ていないのだから。 いや、よく見れば、震える先端からカゲロウの様なものが噴出しているのに気が付いたかもしれない。

 「いく……いく……ああ」

 濃い……とても濃い精だ。 ドロドロとした粘っこいものが、精の玉に絡まり、狭い花道を内から撫でまわして出ていく。 よほど

溜まっていなければ、こんなに濃くはならないだろう。

 「ああっ……」

 ”どぉ……私を放つのは……”

 「な、なに?……ひっ……」

 ”いま貴方は、私を放っているのよ……他の所から入って、感じるところを撫でて……ほぉら”

 粘っこい手に、精の玉がきゅっと掴まれる感触、金属的な刺激が腰を走り抜け、脳天を突き上げる。

 「ひぎっ!」

 男は頭をのけ反らせ、白目をむいて悶絶する。 が、すぐに意識が引き戻され、エンドレスの快感に弄ばれる。

 「や、やめ……」

 ”やめて欲しいの?……”

 股間に加わる圧力が減り、粘っこい愛撫に変わった。 灼熱の快感がったものが、そよ風の様なやさしい陶酔感に変わり、

意識がすーっと暗闇に吸い込まれていく。

 「あ……あぁぁ……」

 ”ふふ……”

 赤い女の満足げな声を子守歌に、彼は意識を失った。


 「……ん」

 どの位意識を失っていたのか、目を開けると彼は暗い部屋にひとりきりだった。 背後を見ると入ってきたドアが見える。

 「うーむ」

 伸びをして考える、あの女は自分に『答え』を出させたがっているらしい。 だが、どんな『答え』なのだろうか。

 (ここは『迷路』だ。 ならば出口を見つけ出すことが『答え』……いや違うな。 迷路は常に変化している。 あてずっぽうで

出口を見つけ出させても意味はない)

 男は首をぐるりと回した。 暗い部屋のディティールははっきりしないが、ありふれた研究室の一つだ。

 (研究所の中のように見えるが、それなら廊下が変化するはずはない。 似せて作った別な建物……いや、自分の足で

ここまで来た。 誘拐されたわけではない)

 男は、近くにあった丸いスツールを持ち上げ、テーブルの上に置いた。 そして、机の上に乗り、椅子を足場にして天井の上げ

ぶたを押し上げ、屋根裏に上る。

 (ここは、現実ではない。 コンピュータの中の仮想現実のはずもない。 そんなものは、存在しないからだ、少なくとも今現在

は……)

 真っ暗な屋根裏には、何もなかった。

 (やはり屋根裏が存在しない。 『私』が見たことがないからだ。 奴は『私』の記憶にないものは作れないのだ。 つまり……)

 男は目をつぶり、ある事をイメージして目を開いた。

 「ここは夢の中だ」

 男の眼前に、灰色の荒野が広がっていた。 荒野には深い溝が迷路の様に刻まれている。 男はそれによく似たものを

知っていた。

 「人間の脳……いや、私の脳かこれは」

 男が呟くと、足元の皺から、赤いアメーバがにじみ出てきた。 それは男の足元で一塊になり、次に上に向かって伸びあがり、

最後はあの赤い女の姿に変わった。

 ”正解です”


 「君の正体はあの赤いアメーバ……いや、正確ではないな。 そう、あの赤いアメーバと、私自身の記憶が生み出した、そういう

存在なのか?」

 ”はい、その通りです。 『ご主人様』”

 赤い女はうやうやしくお辞儀をした。

 ”私は、この星以外の住人によって作られた……そう『健康管理システム』とでも言うべき存在です”

 男は驚く様子を見せない。 彼女が説明することは、すでに彼も知っていたのだ。

 「君は単体では動かない。 他の動物に『寄生』し、宿主の生体情報を取り込み、宿主の一部を利用して動作する。 だから、

その機能は、何を宿主にしたかによって変わるわけだな」

 ”はい、構造が単純な生物であれば、最も生命活動が継続する様に行動を管理するだけですが。 汎用的な記憶領域、つまり

脳髄を持っている哺乳類の様な生き物の場合は、脳髄の未使用領域を利用し、より高度なシステムを形成できます”

 「ラットが利口になったのはそれだな。 必要以上の栄養摂取を控え、健康維持の為に運動するようになる」

 ”その通りです。 そして『ご主人様』の様に、高度な脳髄をお持ちの場合は……”

 赤い女は、媚を売るようににじり寄り、彼の体に触れる。 さっきまで、彼は服を着ていたはずだったが、いつの間にか裸に

なっていた。

 ”このように、精神面での健康維持も私の仕事になります……”

 赤い女は、ゼリーの様に震える半透明の乳房の間に、彼のイチモツを挟み込んだ。 生々しい感覚に息が荒くなる。

 「うおっ……君は私の脳を使って存在している……君が私自身と言うのはそう意味なのだな……」

 ”はい、ご主人様……同じ脳を使っているので、ご主人様の知っていることは、私も知っています。 そして逆もまたしかり。 

私たちは記憶を共有しているのです”

 赤い女は、彼を優しく押し倒す、下にあるのは彼自身の脳髄。 もっとも、これは彼のイメージであり、本当に頭の中(物理的な

意味の)で良からぬことをしているわけではないのだが。

 「ううっ……」

 ”神経へ直に刺激を送りますから、たまらないでしょう?”

 女の乳房の間で、自分自身が伸び縮みしている。 これもイメージなのだが、ひどくそそる光景に、彼のモノが張りつめていく。

 「だが、自分自身がらない事は判らない……」

 ”はい、ですから、ご主人様がどうすれば感じるか、何を望んでいるか……確かめる為に夢の中へお誘いしました……”

 彼の眼前で、赤い女の神秘がパックリ口を開けた。 赤く半透明な女自身が、甘ったるい匂いを漂わせつつ、彼に迫ってくる。

 ”お好きでしょう?……こういうのが”

 「ああ……」

 応えながら、彼は彼女自身に舌を差し入れる。 フルフルと振るえる赤いゼリーが、彼の舌に吸い付いて、奥へと誘う。

 ”さぁ……甘く、楽しい夢を見ましょう……”

 赤い神秘が囁いて、甘い蜜をトロトロと流して彼をいざなう。 彼は迷うことなく、女の尻ら顔を埋めた。

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