第十三話 ナイトメア

6.廊下から実験室へ


 「望んでいる? 僕が?」

 半ば自問するかの様な彼の問いかけに『赤い女』は応えず、白衣をはだけたまま飼育室の扉に歩み寄り、外に出た。

 ”探して……”

 扉が閉まり、彼は一人飼育室に残された。

 カラカラカラカラ……

 回し車を回しているラットを除いての話だが。


 「何なんだあいつは……説明するんじゃなかったのか?……」

 男は頭を振ると、飼育室の扉を開けて外に出た。

 「……え?」

 そこは研究棟の廊下に間違いなかった。 が、見慣れた廊下と様子が違う。

 「ここは……なんだ?」

 左右を見れば、同じつくりの廊下が続いている。 研究棟の廊下には違いない。 しかし、見覚えのない場所なのだ。

 「階を間違えたか……」

 飼育室は、他の階にもある。 来たときには気が付かなかったが、別の階の飼育室に来ていたのだろう。 ということは、他の

部署が使用している飼育室に無断で入っていた事になる。

 「さて、階段はどこだ」

 彼は右手の方に歩き出した。 無機質な白い壁はずっと先まで伸び、幾つかの扉が見える。

 カン……カン……カン……

 静まり返った廊下に、靴音が響きわたる。 数歩いてから、男は立ち止まった。

 (静かすぎる。 それに誰もいないのか?)

 振り返った。 誰もいない。 果てしなく続く廊下が見えるだけだ。

 「……」

 男は逡巡した後、再び歩き始めた。 そして扉の前で足を止め、ドアノブに手をかける。

 「……」

 少しためらってから、ドアを開けた。


 ドアの中は白く四角い部屋だった。 中央に、白いしっかりした作りの椅子が置いてある。 その椅子の傍に、白衣をひっかけた

『赤い女』が立っていた。

 ”こちらへどうぞ”

 『赤い女』が、彼を椅子に招いた。 彼は、招かれるままに椅子に腰かける。 なぜか判らないが、素直に従ってしまう。、

 「おい?……」

 女は無言で、椅子に座った彼を覗き込む。 赤いゼリーの様な体が彼に迫り、胸の谷間に目が行ってしまう。

 ”……”

 女は、ずいと身を乗り出した。 谷間が眼前に迫り、赤い乳房が彼の顔に吸い付いた。 

 ”……”

 女が身をよじり、乳房が湿った音を立てて、彼の顔をくすぐる。 誘惑されているようでもあるが、今一つ気が乗らない。

 (なんだか、実験動物の様だな……)

 そんなことを考えていると、『赤い女』は身を起こして彼から離れた。 そして、彼の手を取って自分の胸に導く。

 「ん……」

 なんとなく、赤い乳房に手を這わせる。 吸い付くような感触は、気色悪いような、いいような微妙な感じだ。 吸い付く乳房の

上を手が滑り、谷間に誘い込まれる。

 「……」

 『赤い女』は手で乳房を抑え、彼の手を谷間の中で揉みしだいた。 ヌチヌチと纏わりつく半透明の乳房の感触が手に心地よい。 

が、やはりそれだけだ。 唐突に、彼は原因に思い当たった。

 (ああ、女の反応がないからか……)

 『赤い女』は、まるで実験か何かをするかのように、彼の手を弄んで、反応を確かめているだけなのだ。 これではその気に

なりようがない。


 ”なるほど……フフ……面倒なのね……”

 不意に『赤い女』が変わった。 能面のようだった顔に、表情が現れた。そしてその表情は、彼の反応を確かめるように微妙に

変わっていく。

 ”こう……それとも……ああ、これがいいのね……”

 彼が好みにしていたAV女優の表情、それを写し取ったかのように『赤い女』は、男を求め、己の物にする女の顔に変わり、

そこで固定した。

 ”フフ……どう?……”

 『赤い女』は舌を伸ばして彼の首筋を舐めあげながら、胸の谷間で腕を挟み込んだまま彼に迫ってきた。 滑る谷間が、二の

腕を上ってくる。

 「うっ……」

 二の腕から脇の皮膚は、意外に敏感だ。 其処を滑る女の肌に責められ、股間の男性自身が反応する。

 ”ああ……これがいいのね”

 『赤い女』はニタリと笑うと、椅子に座っている彼の腕に縋り付くようにして、丁寧に乳の谷間で二の腕から脇を擦りあげる。 

普段感じたことのない異様な攻めに、彼の股間が暴れ始める。

 ”その気になってきたのね……嬉しいわ……”

 椅子が変形し、ベッドになり、彼はその上に横たわっていた。 『赤い女』はベッドの上の彼に抱きつきながら、器用に衣服を

はぎ取っていく。

 ”さぁ……たっぷり調べてあげる……”

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