第十三話 ナイトメア

4.悪夢


 ゆさゆさと揺れる赤い乳房をぼんやりと見つめる。 意識せぬまま、男の頭のどこかが、それが危険なものかどうかを考えていた。

 そして、未知の物に対する警報が鳴り響く。

 (乳房のブドウ……妖怪……怪物!!)

 不快な衝撃が走り、動機が激しくなる。 男は口を開け、足を突っ張る。

 「!!!」

 落ちる、落ちる、落ちる。 果てしない高みから、深淵に落ちていく。 恐怖、恐怖、恐怖……


 ”どうしたの?”

 不意に柔らかな声がし、夢が凍りついた。 落下が止まっている、時間が止まったかのように。

 ”怖かったのね……”

 彼を包み込む赤い乳房のブドウ、その『ヘタ』の位置に女の顔がついていた。 無数の乳房同様に、赤く透き通った女の顔、

それが声の主だった。

 ”怖くない……怖くない……”

 たわわに実った『乳房』の間から伸びた女の手が、男の頭を撫でる、何度も、何度も。 やや冷たくしっとりとした感触に、心が

落ちつきを取り戻す。

 「ほぅ……」

 女の手の愛撫は不思議な心地よさで、その感触が頭に染み込んでいくようだった。 やさしく甘い女の手が……頭の中を

撫でているような……

 ”怖くない……怖がる必要はないの……”

 拭い去られるように恐怖が消える…… が、今度は平静に戻った男の心に疑問が湧いた。この乳の塊は、この女は、なんなの

だろうか? これは夢なのかと。

 ”考えなくていいの……なにも考えなくていいの……”

 再び、甘い愛撫が頭を包み、今度は疑いが消えていく。 

 ”好きにして……あなたの好きに……”

 たわわに揺れる乳の塊が、彼に覆いかぶさる。


 (くすぐったい……)

 いくつもの乳首が、彼の肌を擦っている。 乳首の一つ一つが、彼の肌に吸い付いてプチュプチュと音をたてている。 彼は

乳房の一つを咥え、吸った。

 (甘い……)

 微かな甘みが口の中に広がり、その甘味が体に広がっていく。

 チュル、チュル、チュル……

 乳房を甘噛みし、顔を押し付ける。 柔らかい乳房は形を変えて彼を受け入れ、それからじわじわと彼を包んでくる。

 チュ、チュル、チュル……

 彼の下で、いくつもの乳房が生暖かい何かを吹き出し、彼を濡らした。 続いて、それらの乳房がゆさゆさと揺れる。

 「ひゃ」

 びっくりするほど、肌が敏感になっていた。 そこで、乳首を立てた乳房が円を描く。

 (くぅ……)

 乳首の皺の一つ一つが感じられる。 ザラリとした乳輪が肌を擦ると、気が遠くなりそうだ。 そして柔らかい乳房が彼の肌に

吸い付いて、官能の滑りをたっぷりと塗りつける。

 (……)

 全身を包む快楽の愛撫の前に、彼を身じろぎすらできなくなった。 そして、無抵抗になった彼の体を、乳房の塊が完全に

包みこんだ。

 (はぁ……)

 チュプチュプと、微かな音だけが響く不思議な空間に包まれ、心と体が快楽の中を漂う。


 しばらくして彼の耳元に、あの赤い女の顔が唇を寄せた。

 ”さぁ……”

 男は、手じかの乳首に唇を寄せ、乳首を咥えと強く吸った。

 ”あ……あぁぁぁ……”

 赤い女が激しく喘いだ。 そして、男もまた感じていた。

 (うぅ……)

 それは精神的な快感なのか。 赤い女があげる歓びの声は、男の中に深い満足感を生んだ。

 ”もっと……あぁもっと……”

 望むところだ。 男は、乳を咥え舐る。 空いた手で、近くの乳房を掴み、激しく愛撫する。

 ”ひぃっ……いいっ……”

 ブシュッ、ブシュッ……

 赤い女が激しく悶え、周りの乳房が男に快楽の滑りを浴びせかけ、男に迫って来た。

 グチュグチュグチュ……

 滑りが泡立つほどの激しい愛撫が、男の体を襲い、その魂を極楽のさらに上まで押し上げる。

 (ひっ……いいっ……)

 ”いいっ……いいいっ……”

 いったのかどうかもわからない。 激しく悶える赤い乳房の塊と、男の絡み合いは、およそこの世の物とも思えぬ、悪夢の様な

肉の儀式だった。

 (いいっ……いいぞっ……)

 ”ああっ……あああっ……”

 どこかわからぬ悪夢の世界で、その儀式はいつ果てるともなく続いた。 

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