第十二話 羽衣

13.『天昇女』とは


 「うぁ……ぁぁ」

 教授は、大クラゲ女の神秘の泉に下半身を咥えこまれ、頭を胸の谷間に包まれ、その半透明の体に半ばめりこむような

形で弄ばれていた。 

 ”さぁ……遠慮しないで……存分に気をやって……”

 大クラゲ女の腹の中から、『天昇女』が魔性の誘いをかけてくる。

 「だ……だめだぁ……ぁぁっ!!」

 大クラゲ女の膣の中で、彼の男性自身がヒクヒクとのたうち、精の証を放った。

 「!!」

 次の瞬間、彼は人の形をした男根となり、溢れんばかりの快感に包まれ、下半身全体をビクビクと激しく震わせた。

 ”ぁぁっ……!!”

 『天昇女』が喘ぎ、続いて大クラゲ女が身を震わせて、教授を抱きしめる。 そして大クラゲ女の秘所は、教授の肉体を半透明

の肉襞の中に一気に引きずり込んだ。

 「ぐわっ……」

 大クラゲ女の毒で敏感になっていた体を、生きたゼラチンの蠕動が包み込む。 精神が焼切れそうな快感の嵐が教授の体の

中を荒れ狂い、次の瞬間、彼の魂は肉体を飛出し『天昇女』の腕の中に捕えられた。

 ”うふふ……さぁ……私と……交わりましょう”

 ふわふわとクラゲの中を漂いつつ、男女の魂がからみあう。


 『天昇女』は教授の魂に緩やかに寄り添うと、霞のような指で、彼の男性自身がある辺りを弄るようにしている。 肉の衣を

失った教授だが、その愛撫にくすぐったいような不思議な心地よさを感じていた。

 サワサワサワ……

 『天昇女』の愛撫は風のように軽く、絶えることなく続く。 教授は抗うこともせず、ただ『天昇女』の愛撫に身を任せて漂うのみ。

 ’ああ……なんという心地よさ……’

 それは、まさに天にも昇る心地だった。 大クラゲ女の嵐のような快感と対照的に、『天昇女』の愛撫はさざ波のような快感の波。

 魂の奥深くを、優しく撫でられるようだ。

 フワリ……

 目の前に『天昇女』の双丘が迫る。 透けて見える其れに、教授は顔を埋めてみた。

 ”ああ……”

 ’おお……’

 柔らかい乳房に、顔が埋まっていく。 いや『柔らかい』のとは違った。 教授は、顔が乳房に触れるのを感じたが、彼の顔は、

そこからさらに『天昇女』の中に沈んでいく。 そして、奥に行くほど抵抗が増して行くのだ。

 ’文字通り、交わっているのか……’

 ”そう……交わるの……”

 『天昇女』の声が、彼の顔を震わせた。 彼が半ば『天昇女』に潜り込んでいるように、『天昇女』もまた、彼に潜り込んでいる

のだろう。

 ”ここがいい……ここも……ここも……”

 言いながら、『天昇女』は自分の乳房ごと教授を優しく撫でる。

 ’ああ……これは……’

 教授は陶然とした声で喘いだ。 『天昇女』の指が乳首にめり込み、中を弄っているのを感じる。 ふっくらしたもちのようなもの

が、彼の頬と一体になり、ねっとりとした感触で彼を喜ばせる。

 ’乳首も感じる……’

 ”そう……こうやって交われば……快感も、他のものも、交わることができる……”

 教授は、『天昇女』の乳と半ば一体化しつつ、他の場所へと手を伸ばす。

 ’ここも……ああ……’

 『天昇女』の秘所に指が触れる。 奥深くから湧き上がってくる女の喜びに震えながら、教授は『天昇女』を弄る。

 ’ああ……いい……’

 ”ふふ……そうよ……そう”

 互いの快感を貪りつつ、二つの魂は深く、深く交わっていった……


 教授は夢を見ていた。 妙にリアルなそれは『天昇女』の映像記憶だった。 その映像記憶を教授の意識が分析する。


  −『羽衣クラゲ』は……古き生き物……

  −熱水で生きる、硫化バクテリアと共生し……強酸の分泌腺を備えた……

  −酸を利用して……水を分解……水素ガスにより空を浮遊する術を身に着けた……

  −だが……生存環境が特殊であったため……次第に数を減じ……


 ’では『天昇女』とは?’


  −『天昇女』とは……『羽衣クラゲ』の中に存在する……何か……

  −本当に魂なのか……『羽衣クラゲ』が作り出したものなのか……

  −『天昇女』自身も知らない……

  −その存在意義は……宿主である『羽衣クラゲ』を生かすこと……


 ’『羽衣クラゲ』を生かすこと……それは……どういうことだ?’

 教授は目を覚ました。 (魂が目を覚ましたというのはおかしな表現だが。

 さっきまでの快楽の余韻が、体の芯に残り火のよう残っている。

 ’違う? これは『天昇女』の……’

 ”そう……そして貴方の……”

 『天昇女』の声が、教授の体の中から湧き上がった。 同時に、重く深い女の喜びが、『天昇女』を、そして教授を深い陶酔の

中に引きずり込む。

 ’あっ……ああ……’

 ”ああ……さぁ……交わるの……貴方と……私が……”


 一つに交わった二つの魂は次第に輪郭を失い、やがて複雑な模様を描く霞となった。 それは次第にはっきりした形を取って

いき、ついには人間の女の形を、『天昇女』の形を取り戻す。

 ”……”

 しばらく宙を漂っていた『天昇女』は、やがて自問自答を始めた。 

 ”そう……『私』は『天昇女』の謎を調べに、この地に来た……”

 ”『天昇女』の正体は、天女などではなく。 人を捕食するこの『羽衣クラゲ』と、その中に存在する意識体『天昇女』からなる、

人を襲う化け物……”

 ”『羽衣クラゲ』に捕食された人間は、意識と知識がセットになった『魂』として肉体から分離され、その後肉体は『羽衣クラゲ』の

食料となる……”

 ”一方『天昇女』は人間の魂と融合し、その知識を吸収して……新たな『天昇女』として再生し……『羽衣クラゲ』の為に知識を

使う……”

 ”これが……『天昇女』の正体……”

 ふと『天昇女』に別の影が重なる。

 ”ここまで調べたのに……発表できないのは残念……”

 それは、『天昇女』の一部となった教授の意識の最後の呟きだった。

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