第十二話 羽衣

12.魂の交合


 教授には、『羽衣クラゲ』に囚われた青シャツが『天昇女』の責めに喘ぐのを、ただ見守る事しかできなかった。

 (魂だけだと?……いったい『天昇女』とは何なのだ? うう、わからん!)

 頭を抱える教授は気が付いていなかった。 彼の背後、泉の中から新たな『羽衣クラゲ』が浮上しつつあることに。


 くはっ……

 青シャツは、息をはくと同時に目を開いた。 目の前に、ぼんやりした霞のようなものが漂っている。 それが『天昇女』の顔で

あることに気が付くまで、数秒の時を要した。

 「わっ!」

 一声叫んで、飛び起きかける。 しかし、毒で痺れた体は相変わらず重い。

 ”ふふっ元気のよいこと……そろそろ、本物の快楽を教えてあげましょう……”

 「ほ、本物!? こ、これ以上にどんな……いっ!?」

 『天昇女』は足を大きく開き、青シャツの男性自身に跨るようにゆっくりと降下してきた。 魂だけというだけあって、霞の様な動き、

しかし。

 ヒヤリ……

 「ひっ!?」

 『天昇女』に跨られた男根が、ひんやりとした空気に包まれた。 いや、何か冷たいものに纏わりつかれたような妙な感じがした。
 青シャツは手を振って『天昇女』を押しのけようとしたが、全く手ごたえがない。 いや『天昇女』の体の辺りで微かな抵抗と、

冷たい風を感じたのだが、それ以上のものではない。

 ”ふふふ……私は魂だけと言ったでしょう……私に触れることは叶わない、でもこうすれば……”

 『天昇女』の腰が、青シャツの下半身を通り抜ける様に沈んでいく……と思った瞬間、睾丸が急に冷たくなり、縮み上がった。

 「ひぃっ!?……あ……ぁぁぁぁ」

 なにやら、股間を冷たいもので揉み解されているような感じがする。 それも急所の中身が、直接ヌラヌラしたものに包まれて

いるかのようだ。

 「き、気色悪……い、いや……ひぃ……いい……」

 ”ほほ……如何が? 私の子宮の中は?”

 「な、なにぃ?」

 ”精の源が、直接の私の中に招待してあげているの……よい心地でしょう……”

 「な、なに……あ……あ……ぁぁ」

 ヌラヌラした感触で、精の源が『天昇女』の中で弄ばれ、精を放つ瞬間の心地よい快感で下半身がしびれる。 青シャツは陶然

とした眼つきになり、抵抗することすら忘れて、快感に酔いしれた。

 「いい……いい……ぁぁ……」

 ”うふ……ほら……ほら……”

 『天昇女』は青シャツの下半身と、半分交わったまま腰を揺する。 本来、男の快感は精を放てば終わりになる。 しかし、

この人外の交わりは、精を放つこと許さなかった。 青シャツの股間はヒクヒクと蠢きつつ、絶え間ない快感を送り出す。

 「いい……終わらない……気持ちいいのが……止まらない」

 ”もっと、よくなりましょう……”

 『天昇女』の体が後ろに倒れ、青シャツと十文字の型で交わっていたのが、一文字に近い形になった。

 「ああ……あれも……いい」

 今度は男根も、『天昇女』の胎内に収まる形になった。 と言っても、通常の交わりと逆になり、陰嚢が子宮に、男根が膣に、

それも亀頭が外を向いた形で収まる事になった。 魂だけの『天昇女』でなければ、物理的に不可能なな交わりである。

 「いい……気持ちいい……蕩けそう……」

 青シャツの男性自身を冷たい快感が締め上げ、終わりなき快感が青シャツの体からあふれ出す。 青シャツの表情が緩み、

次第に表情が失われていく。

 「ひゃぁ……ひひゃぁ……あへへ……」

 ”ふふふふ……もうじき……体が蕩けだす……あなたの魂が……体から抜け出すのよ……ほら”

 「いい……い……」

 トクン……トクトクトク……

 青シャツの体が震えだし、クラゲの体液に濡れていた体が白く染まっていく。

 「いく……いぐ……いっぐぅ……」

 ヒクリヒクリと震えながら、青シャツの体が萎んでいく。 全身から精の証を吹き出し、溶けていくのだろうか。 ありえない光景に

教授は恐れを忘れて見入っていた。 その時教授は、萎んでいく青シャツの体に重なる、白い影に気が付いた。

 (あ、あれはなんだ? ま、まさかあれが彼の? い、いや、そんなことが、そんなものがあるはずがない)

 教授の考えと裏腹に、その白い影は萎んでいく体から離れるにつれて次第にはっきりとした形をとり……ついには青シャツの

姿に変わっていった。

 ’いく……いくぅぅ……ああっ……’

 ”ふふ……ふふふ……体がなくなっても、まだ気持ちいいことがしたいのね……”

 『天昇女』は笑みを浮かべながら、『青シャツ』の魂に手をかける。

 ”いいわ……望みのままに……”

 『天昇女』の手が、『青シャツ』を撫でまわす……と言うよりかき回した。

 ’ひゃぁぁ……あ……あ……’

 『青シャツ』が、悲鳴とも喜びともつかない声を上げ、その姿がやや崩れる。

 ”ふふ……肉の衣を脱ぎ捨て……魂だけになったあなたに、天女の交わりを教えてあげましょう……”

 『天昇女』の容赦ない責めに『青シャツ』が喘ぐ。 それを見た教授は、力を振り絞って立ち上がろうとした。 が、その足に

柔らかいものが巻きつき、彼を引っ張った。

 「!!」

 泉から現れた別の『羽衣クラゲ』、いや大クラゲ女が、教授を半透明の谷間に誘おうとしていた。

 ”さぁ……おいで……あなたも、そんな肉の衣は脱ぎ捨てて、私と交わりましょう……”

 教授の悲鳴を聞くものは、どこにもいなかった。

【<<】【>>】


【第十二話 羽衣:目次】

【小説の部屋:トップ】