第十二話 羽衣

10.幻惑


 「うわぁ!」

 青シャツの足首に、クラゲの触手が絡み付く。 同時にクラゲの傘の下から白い霧が沸き立ち、青シャツと教授の方に流れて

きた。

 「ガ、ガスか……」

 「また……この匂いは?」

 その白い霧は、あの奇妙な香りがした。 甘酸っぱいような、生臭いような…… 教授は、ようやくその匂いに思い当たる。

 「『女』の匂い?」

 「お、女ですかぁ?……ひぃぁ」

 青シャツが頓狂な声を上げる。 足に巻きいたクラゲの触手が、のろのろとズボンの中に入り込んできたのだ。

 「こ、これのどこが女……い!?」

 「何!?」

 二人は目を疑った。 クラゲの触手の先端が、人の手の形になったのだ。 青シャツに、さらに数本の『手』が絡み付き、

ズボンを脱がし始めた。

 「やめろ、この変態クラゲめ! ひっ!?」

 モコモコとズボンの中が動いている、青シャツの男自身をクラゲの『手』つかんでいるらしい。

 「ひぇ……し、しびれ、き、きつい」

 青シャツのズボンが、ギチギチと音を立てて膨らむ。 クラゲの『手』がズボンの前を開けると、すさまじい勢いで男性自身が

飛び出してきた。

 (む、クラゲの毒で腫れ上がったのか?)

 ”……立派なものね……”

 「え!?」 「誰!?」 

 青シャツと教授は、声のした方、巨大クラゲへ視線を移した。 クラゲの中に、ぼんやりと光を放つ半透明の女の姿があった。


 「……ひ、人?」

 「ばかな、透けて見える人間なぞおらん。 第一、クラゲの中に人が居てたまるかね」

 「で、でもあれ、喋りましたよ……ひょっとしてあれが天女、いや『天昇女』では……」

 教授は、青シャツの指摘を吟味するかのように、『天昇女』らしき女をつぶさに観察した。 『天昇女』はクラゲの傘の中、

ふつうはクラゲの胃があるあたり、漂うように揺れている。 こちらを見て、微笑んでいるようにも見える。

 「おい、君。 君は何者かね?」

 ”私は……何者?……”

 「私が尋ねているのだ。 それともクラゲの精か?」

 ”クラゲの精?……ウフフ……フフ……”

 「教授?」

 「うーむ、あれは幻覚ではなかろうか」

 「幻覚ですか?」

 「そう。 我々は脳の中で視覚情報を整理し、世界を認識する。 仮定の話だが、このクラゲの毒は神経に作用して、それを

混乱させて幻覚を見せているのだ」

 「そ、そうなんですか? あの『女』が幻覚なんて……」

 「クラゲのガスは『女』の匂いがした。 あれで、我々の頭に女の連想が起こり、それがクラゲの中に『女』の幻覚を見せて

いるのだろう。 だから、あの『女』は我々の言葉に対して、オウム返しのような返答しかできないのだ」

 教授は、滔々と仮説をまくし立てた。 が、いまはそんな場合ではなかった。

 「うわぁ!」

 「あ、君!」

 青シャツが、クラゲに引き寄せられた。 と、今度はクラゲ本体の形が女の形に変わり始めた。

 「せ、先生! 幻覚がひどくなってきました!」

 「ううむ、なんてグラマラスな幻覚だ」

 巨大クラゲは、白シャツを胎内に呑み込んだ大クラゲ女と同様の姿に変わる。 クラゲの触手は、その秘所の周りから生え、

青シャツを引き寄せていく。

 「わわっ、幻覚が僕を犯すつもりです!」

 「そこの出っ張りを掴め!」

 青シャツは不自由な手を動かし、岩壁をつかもうとするが。 大クラゲ女の力にかなわず、ずるずると引き寄せられ、ついに

大クラゲ女の腕に抱きすくめられた。

 「つ、冷たい……」

 大クラゲ女は、自分の半分ほどの青シャツを抱きすくめ、シャツをめくりあげて、その胸を半透明の巨大な舌で舐めあげる。

 「うぁぁぁ……げ、幻覚に舐められるぅぅ」

 背筋を冷たい旋律が走り抜け、青シャツは身をくねらせた。 腹のあたりが、大クラゲ女の胸元にあたっていたが、身をくねら

せるうちに、下半身が半透明のゼリーのような乳房の間にはまり込んでしまう。

 「ひい……」

 先ほどから高ぶりっぱなしの男性自身ごと、下半身が冷たい谷間に包まれてしまった。 今度は大クラゲ女が身をゆすり、

青シャツを胸の間で弄んだ。 ヌルヌルした粘り気が、大クラゲ女の皮膚から染み出してきて、青シャツの肌を濡らしていく。

 「あああ……こ、これは確かに幻覚です……腰から下が、全部アレになったみたいで……あああ……たまりません」

 ビクビクと身を震わせる青シャツに、大クラゲ女の『手』付き触手が絡み付き、器用に服をはぎ取りはじめた。

 「ひっ……ぁぁぁ……」

 ヌルヌルした大クラゲ女の皮膚と、直に接していくにつれ、青シャツの表情が恍惚の色に染まっていく。 すでに青シャツは

抵抗をやめ、自分から大クラゲ女に体を任せていた。 胸の谷間で、体を小刻みに震わせ、空いた手でゼリーのような乳房を

絞るように揉む。 と、その手がざらりとしたものに触れた。

 「……乳首……」

 青シャツはうつろな目で呟くと、左右の手で大クラゲ女の乳首を捕まえ、揉み絞った。

 ”あぁ……”

 『天昇女』と大クラゲ女が甘い声で喘ぎ、その胸から透明なしずくがしたたり落ちる。 

 「ここ……いいんだ……」

 青シャツは呟き、手のひらからはみ出すほどの乳首を、握りしめて絞った。 大クラゲ女は、お返しとばかりに青シャツの

上半身を舐めあげ、下半身を胸の間で弄りながら、洞窟の地面に座り込んだ。 タラタラと流れ落ちる透明なしずくは、細い流れと

なって太ももに滴り落ち、彼女の下半身のくぼみに三角の泉を作り出す。

 ”御覧なさい……”

 青シャツが視線を落とすと、半透明の巨大な乳房の下に『泉』が見えた。 その中では、先ほどまで彼の服を脱がせていた

触手が、海藻のように揺らめいている。 が、彼は別のものを連想した。

 「……ソウメン」

 彼が呟くと、大クラゲ女は彼をつかんでいた腕を離した。 青シャツは乳房の谷間をゆっくりと滑り落ち、『泉』に尻餅をついた。 

粘度の高い透明な液体に、彼の腰が浸される。

 「あ……あぁぁぁぁ……」

 『泉』に浸った青シャツの腰に、陰毛の位置に来ていた触手が絡み付いてきた。 粘液の中をゆっくりとのたうつ触手が、

青シャツの腰を覆い隠していく。

 「あああ……」

 ”フフ……そのまま……浸っていなさい……身も心も……蕩けてしまうまで……”

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