第十二話 羽衣
5.第二日(3)
「う?……うぇ?」
ズズズ……ズズズッ……
『天昇女』の足は、冷たい滑りに包まれていた。 それが腰の上に乗ると、なかが這いずっているような気がする。 彼は体を
起こそうとしたが、先ほどの絶頂の余韻なのか、体が思う様に動かない。 無様にもがく男の腰に、『天昇女』は無表情のまま
自分の腰を摺り寄せる。
ズズズ……ズズッ
「ひっ……」
『天昇女』のソレはさらに冷たく、トロトロに濡れていた。 トロリ……トロリと滴を垂れるモノが彼自身に絡み付き、ウネウネと
這いずり回って、彼自身を丸ごと包み込むような感じがする。
「ひえ、なんだこれは……なんだ」
”ナンダ……なんだ……”
抑揚に欠ける呟きを漏らしつつ、『天昇女』は小さな円を描くように腰を動かす。
「ひぇ……ひ……」
信じがたいことに、『天昇女』のソレは不気味な動きで彼自身を包み込んでいた、彼自身だけでなく精の源までを。 そして、
冷たい滑りの中で、彼自身をもてあそぶ。
ヌロリ……ヌロリ……
冷たい愛撫は、彼自身に痺れるような感覚を塗りつけ、刷り込む。 その愛撫から逃れようというのか、彼自身は別の生き物の
様にもがき、震えていた。 程なくした、冷たい感覚が芯まで届き、彼自身を満たす。
「ひ……あ……」
冷たい痺れを、彼自身が快感として認識する。 股間から、冷たい快感が止めどなく溢れ出し、彼の体を満たしていく。
「ああ……駄目……ひぁ」
彼の中の何かが恐怖を感じ、逃れようするような動きが見えた。 が、それも快感が体を満たすまでのわずかな間だった。
「ああぁぁぁ……」
冷たく痺れる快感が体を満たすと、彼はおとなしくなった。 抵抗をやめた獲物にを、『天昇女』のソレは貪欲に味わう。
グチャリ……グチャリ……
蛇のようにのたうつモノが、冷たい快感に固くなった彼自身の形をなぞり、さらなる快楽を彼に注ぎ込む。 動きを止めた彼は、
果てる事のない快楽の中を漂っていた。
如何ほどの時が経過したのか、頭の芯まで詰まった冷たい痺れが、こみ上げてくる生暖かい快感に変わり始めた。
「ああ……蕩ける……」
”トロケル……とろける……蕩ける”
『天昇女』が彼の言葉を繰り返し、その声に彼の視線が『天昇女』の顔を追った。 すると、無表情な顔が滑るように近づき、
彼の顔を舐めまわし始めた。 長い舌が彼の耳に滑り込み、ヌチヌチと淫らな音で他の音を遮る。
「蕩けそう……」
”トロケソウ……とろけそう……蕩けるそう……フフッ”
耳の中で、『天昇女』が笑った。
”蕩けるがいい……フフッ……フフフッ”
「あ……」
生暖かい快感が、体をゆったりと満たし、彼自身に向かって突き上げる。 止まらぬ快楽の流れが、彼自身を蕩けさせつつ
『天昇女』の中に向かった。
ヒクリ……ヒクリ……ヒクリ
「おぅ……おぅ……」
重く、ゆっくりとした絶頂が始まった。 蕩ける快感に満たされていた全身が、生暖かい粘液と化して『天昇女』に吸い取られて
いくようだ。
「あ……いい……いい」
”イイ……いい……フフフッ……出して……出して”
「いいよ……いいよ……とっても」
頭の中まで粘液になったかのような感触と、そのすべてを吐き出しているかのように、長々と続く絶頂に彼は酔いしれ、『天昇女』
に組み敷かれた体が、小刻みに震え続けた。
「おーい」
白シャツは、湖の辺りを一通り見まわってから、鳥居の辺りまで戻ってきた。 日が昇るにつれ、湖の方は霧が薄れて来たの
だが、鳥居の辺りはまだ見通しがきかない。
「いないな、どこまで行ったんだ?」
参道の石がジャリジャリと足元で音を立てる。 都会に住んでいると、なかなかこういう道にお目にかかれない。 白シャツは
かがみこんで、砂利をすくってみた。
「……ん?」
5mm程度の玉砂利に、白い不規則な形の欠片が交じっている。 一欠けらを取り出して、手のひらで観察する。
「……貝殻……いや骨かな?」
かがみこんで観察すると、玉砂利の中に同じような欠片が散見された。
「ふーん?」
白シャツはザクザクと砂利を足でかき回し、手を払って立ち上がる。 それから肩をすくめると、緑シャツが向かったはずの山の
方に向かった。
ザクザクと砂利を踏みしめる音が、霧の中に消える。
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