第十二話 羽衣

4.第二日(2)


洞窟の中は、外と比べるとやや涼しく、踝の辺りまでが濃い霧に覆われ、緑シャツが見た白い影は人のようにも見え、霧の上を

漂う様に揺れている。 影の周りに薄く靄が漂い、その姿ははっきりしない。

 (なんだ?)

 淡い光は、波打ち、うねり、細かく色を変え、見る者を飽きさせない。

 パキリ……

 足元で何かが砕け、緑シャツは夢から覚めた様に瞬きした。 いつの間にか、洞窟のかなり中まで踏み込んでいる。

 「あれっ……いつの間に」

 呟いて、いったん外に出ようと踵を返す。 その時、洞窟に漂う匂いに気が付いた。 潮の香りにも似た生臭さい、纏わりつく

ような不思議な香りに。

 (妙な匂いだ……)

 香りに気を取られ、足を止める。 その時、視界の隅で白い布の様なものが揺らめいた。 思わず振り向く緑シャツ。

 「なんだ?」

 薄いく白い布の様なものが、風に乗って流れるように彼に迫っていた。 よろめく緑シャツ、その体を撫でるつつ、『布』の先端が

彼を追い越した。 『布』は、ヌラリとして冷たかった。

 「あっ?」

 急に足の力が抜け、緑シャツはその場にしゃがみ込んだ。 手をついて上体を支えようとするが、腕にも力が入らない。 

バランスを崩し、洞窟の地面に横たわる格好になる。 その動きで、地面辺りの霧が割れた。

 「!?」

 洞窟の床には、白い欠片が敷き詰められていた。 其処に横たわる彼に、白い影が滑るように近寄り、腕の様なものを伸ばして

彼の首筋に触れた。 彼は、微かな痺れを感じた。 


 「……誰だ?」

 靄に包まれた影は、彼の足の方で立ち止り、こちらを見ている様な気がする。

 ”ダレ?……”

 『影』がしゃべったような気がした。 か細い声と、丸みを帯びた女性的な曲線に、彼は『天昇女』を連想した。 その時『影』を

包む靄が、風に吹かれたように散る。

 「あ……」

 『影』は美しい女だった。 薄い絹のような衣を身にまとい、其れとは別の薄い布を、両肩の辺りから宙にたなびかせている。

 「あれは『羽衣』? すると天女……いや貴方は『天昇女』?」

 ”テンショーメ……てんしょうめ……天昇女……”

 女は呟く様に繰り返しながら、地に投げ出された彼の足の上にしゃがみ込む。 不思議と重さを感じない。

 「あの……なにを」

 ”なにを?”

 『天昇女』は呟くと、片手を伸ばしての首筋に触れた。 冷たくしっとりとした指が、彼の首筋をさぐる。

 「……あ……」

 『天昇女』の手は、なめらかに彼の首筋を這い、胸元を弄る。 湿り気を帯びた『天昇女』手の愛撫に、彼は『女』を感じ、次第に

動悸が激しくなり、体の中に熱いもの広がっていく。 そして、アレが立つのを感じた。

 「あの……それは」

 微かに顔を赤らめる緑シャツ、その彼を見つめる『天昇女』もまた、恥じらう様に微かに赤くなった。


 ”……”

 『天昇女』は無言でのまま、両手を左右に広げた。 すると宙にたなびいていた『羽衣』が向きを変え、彼の脇から背中と地面の

間に入ろうとする。

 「?」

 不思議なことに、『羽衣』は彼の背中と地面の間に難なく滑り込んでいく。 彼は、『羽衣』が背中の下で蠕動しているを感じた。

 「なんだこれは?……あっ?」

 『天昇女』が再び彼に触れてきた。 両手で顔を挟むようにし、輪郭をなぞるようにする、何度も、何度も。

 「あの……あ……あぁ」

 『天昇女』の優しい愛撫は、不思議な快感を彼に呼び起こす。 撫でられた所に、じわりと痺れるような心地よさが残り、それが

消え去る前に、また撫でられる。 深く、深くその快感は彼に染み込んで行く。

 「もっと……もっと……」

 『天昇女』の両腕は、円を描く様に彼の頬を撫で、そこから顔に、そして胸元へと愛撫を広げ、それに連れて快感の範囲も

広がっていく。

 「顔だけじゃなくて……もっと」

 ”もっと……もっと……”

 『天昇女』は呟くと、緑のシャツに手をかけ、それを滑らせる。 魔法のようにシャツが脱げ落ち、彼は『緑シャツ』から『上半身

裸の男』に改名する。 続いて『天昇女』も衣を脱ぎ捨て、思いのほかに豊かな胸をさらけ出す。 『天昇女』は彼を抱き起こすと、

その上体に抱きつき、自分の体と擦り合わせるように動き始めた。

 「あ……!」

 『天昇女』の肌が、彼の上体を這いまわり、両の乳房が彼の上で形を変える。 絶えまなく訪れる快感は、彼の意識を捕まえて

離さない。

 「ああ、胸がいい……もっと」

 ”もっと……”

 ビクリと『天昇女』の胸が震えた。 ビクビクと震えつつ、次第に膨れていく。 目の前で大きくなっていく乳房に、当然彼は気が

付いている。 しかし、それを不思議に思うことはなかった。

 「凄い……これで……して」

 ”これで……”

 『天昇女』の胸がずいと膨れ、彼はその谷間に押し付けられ、呑み込まれた。

 「ひいぁぁ……」

 彼の上半身は、完全に『天昇女』の乳の谷間に呑み込まれ、密着した。 逃げ場のなくなった上体を、『天昇女』の愛撫が犯す。 

 ヌルリ、ヌルリ……

 一撫でごとに深くなる快感に、彼は思考を奪われ、人の形をした性器と化し、ただ震えるだけだった。

 「ひぎっ!」

 一言発して彼は逝った。 といっても漏らしたわけではない。 上体の快感が頂点に達し、女のように絶頂を迎えたのだ。

 「ひっ……ひっ……ひっ……」

 カクカクと、有りえない絶頂の余韻に震える彼を『天昇女』は横たえ、そしてズボンを脱がす。 そこでは、固くなった彼自身が、

ヒクヒクと震えていた。

 「……な、中に?」

 ”ナカニ……なかに……中に”

 『天昇女』は呟くと、彼のモノに腰を落とす。
 
【<<】【>>】


【第十二話 羽衣:目次】

【小説の部屋:トップ】