第十一話 シェア

6.彼と彼女


 それからの二人は、当然の様に親密な間柄となり、ある時に入れ替わり、またある時は元に戻って生活を続けた。

 「意外にばれないね」

 「そだね」

 ボーイッシュな『サツキ』と、やや内向きな『タカシ』。 体が変わっても、周りは気が付く様子はない。


 「ボクはここが感じるんだよね」

 「あっ……やったな」

 もともと自分の体の事は熟知していたが、入れ替わりを繰り返すうち、相手の体の事も手に取る様にわかってきた。

 「『サツキ』はここも感じるんだ……」

 「ひゃん!……うそ、こんなところが感じるなんて」

 立場を入れ替えてのラブ・ゲームを続けるうち、二人は相手の心すら読める様になってきた。 そして『タカシ』は

『サツキ』の正体を知ることになる。


 「『シェア』……そっか」

 「うん。 人だけど人でない。 なぜか判らないけど、こうやって他の『人』と体を交換できる『人』、それとも妖怪かな」

 『タカシ』の横で『サツキ』が天井を見上げている。

 「判った?」

 「ん、少し」

 『タカシ』は『サツキ』体をなでる。 自分がそうしたいからだし、『サツキ』もそうされたがっている。 そうすると、自分の

手を動かしているのは『サツキ』なのかもしれない 

 「言わなくても判る。 便利」

 「だね」

 言葉は不要。 だから『サツキ』はお喋りが苦手。 自然にぶっきらぼうな口調になり、表情が乏しくなる。

 「ね、僕も」

 「うん、じきだよ」

 『シェア』は、うつる。 『人』と『シェア』が関係を続け、お互いが区別できなくなったとき。 その『人』も『シェア』になる。 

『タカシ』は、それを理解し始めていた。 いやそうではなく、彼も『シェア』になりつつあった。

 「楽しいね」

 「うん」

 仲間が増える。 楽しいに決まっている。

 「じゃ」

 「しよ」

 二人は、一つの生き物の様に互いを愛する。


 「あれ」

 「気がある」

 電信柱の陰から、女の子がこちらをうかがっていた。 どうやら『タカシ』に気が合ったようだが、『サツキ』に先を越され

悔しがっている。 もっとも、取られてから自分の気持ちに気が付いたのかもしれないが。

 「もてもて」

 「照れるね」

 『シェア』になると、異性に対する魅力が強くなるようだ。 『タカシ』は、『サツキ』と関係する前より女の子に声をかけられる

ことが増えていた。

 「あれ好み」

 「うん、誘お」

 口に出すのは癖みたいなもの、二人は会話することなしに、互いの行動の全てを把握できるようになっていた。 『タカシ』は

『サツキ』と分かれると、電柱の陰の女の子に近づいた。

 「君、どうかしたの」

 「あ!……いえ」

 ドギマギする女の子に『タカシ』は、微笑みながら優しい言葉をかける。 いや、ひょっとすると……

 (そう言えば……ボクの方が『サツキ』? それとも『タカシ』だっけ……まぁ)

 (どっちでもいいや)

 向こうの方で、『サツキ』が誰か捕まえた。 しばらくは互いにパートナーを変え、ゲームを続けることになる。

 (これで……)

 (シェアできる体が増える……)

 (楽しいね……)

 (楽しいね……)

 (ふふ……)

 (ふふふ……)

 (ふふふふふふふふふふふふふふふ……)

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 「……で終わりかい?」

 「ええ」

 滝は、少年たちを気味悪そうに見つめた。

 「怪談と言うより、ただ薄気味が悪い話だな」

 志度が横で頷いた。

 「最近のはやりなのかね」

 「さぁ」

 タカシは素っ気なく応じ、無造作に手を伸ばすと、手をうちわにしてロウソクを仰いで消そうとする。 その刹那、タカシと

サツキの背後から風が吹き付けてきた。

 『!』

 滝と志度は見た、二人の背後に佇む無数の少年少女たち。 一様に無表情、いや、タカシとサツキと同じで乏しい表情の中に

何とも言えぬ不気味な微笑を湛えた少年少女たちを。

 「……」

 ロウソクの火が風に吹き消され、少年少女たちは闇に消えた。


<第十一話 シェア 終>

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