第十一話 シェア

3.彼女が彼に


 ……どこ……だっけ

 寝起きの頭の中で、タカシは自分の居場所を確認する。

 学校……帰り……サ・ツ・キ……

 意識が、暗闇から穏やかな温もりの中に浮かび上がり、きゃしゃな体に収まっていく。 やや強引に瞼を開け、最初に

見えたのは……自分の顔。

 「ん……や」

 (鏡……)

 枕元に鏡があったかなと思いつつ、瞬きして身を起こす。

 「あれ……」

 手をついたつもりが、空振り。 意識せず髪をかきあげ、あくびをする。

 「???」

 体が重く、一挙一動が思うに任せない。 何度か瞬きして、傍らの『サツキ』に目をやると、そこには『サツキ』ではなく、

タカシが、つまり自分が寝ていた。

 「……???」


 「起きた?」

 ベッド寝たまま、もう一人の自分が口を開く。 ややこしいので『タカシ2』と勝手に命名する。

 「うん」

 応えてから、なんか声が違うなぁと思った。

 「驚かないんだ」

 『タカシ2』が感心したように言う。

 「そうか、驚かないといけないのか……」

 ぼんやりと考えた。 何だか頭も重くて、考えがまとまらない。

 「1.寝ぼけてる、2.夢なんだ、3.実は僕はタカシじゃなかったんだ……ふつうは1か2だよね」

 ぼけた頭からは、能天気な回答しか出てこない。

 「じゃぁ、もう一眠りすればいいんだ……」

 「それでいいんだ」 『タカシ2』が呆れたように言った。 「3だったらどうするの? ほら」

 『タカシ2』が小さな鏡を差し出す。 鏡の中には、寝ぼけ顔のサツキがいた。

 「鏡……えーと……」

 鏡と『タカシ2』を何度も見比べる。 そのうちに自分の手がずいぶん華奢なことに気が付いた。

 「……」

 一つの可能性が頭に浮かび、視線を下に、自分の大事なところに目をやる。 ない。

 「エッチ」

 『タカシ2』がにいっと笑った。

 「……サツキなの?」

 「そ。 でも今は、君がサツキ」

 『タカシ2』がタカシを指さした。

 「……どうしよう」

 「なに?」

 「……トイレ」

 
 困惑と混乱(主にタカシが)のひと時が過ぎ、二人は下着姿(下着だけ着た)で状況を確認する。 どうやら、体が

入れ替わってしまったらしかった。

 「……どうしよう」とサツキの姿のタカシ。(以後『タカシ』と表記する)

 「なにが?」とタカシの姿のサツキ。(以後『サツキ』と表記する)

 「だってこれから……驚かないの?」

 「別に」

 「……どうして?」

 『タカシ』は困惑した。 自分が変なのだろうか? だんだん心細くなってくる。

 「……プッ」 『サツキ』が吹き出した。

 「笑いごとなの?」 語尾が震えている。 今にも泣きだしそうだ。

 「いや……あんまり可愛いから。 大丈夫、元に戻れるよ」

 「ほんと!?」 今度は語尾が弾む。

 「キミ、ホントに可愛いね。 子犬みたい」

 『サツキ』の言いように、『タカシ』がむくれる。 


 「もう一回するの!?」 『タカシ』が声を上げた。 

 「そ。 ボクとして、一緒にイクの」

 『サツキ』が『タカシ』の目を見つめる。

 「ただしさっきみたいに、身も心も溶けて一つになるほど愛し合って、同時にイク必要があるけど」

 「そうなんだ!!」 『タカシ』が身を乗り出した。 「それじゃ、さっそく!」

 「いいけど……あんまり興奮しないで」

 『サツキ』に言われ、『タカシ』はハトが豆鉄砲を食らったようなにポカンとする。

 「ボクの顔でそう言われると、ボクがよっぽど……みたいにみえるじゃないか」

 「あ……ごめん」

 謝りながらも、『タカシ』はいそいそと下着を脱ぐ。 『サツキ』も苦笑しながら下着を脱ぐ。 

 「ん」

 『サツキ』が『タカシ』を誘い、『タカシ』し『サツキ』にキスしようとして……動きを止めた。

 「どしたの」

 『サツキ』が聞く。 が、声が笑っている。

 「……だって」

 心は『タカシ』でも体はサツキ、そしてこれから相手にするのは心は『サツキ』でも体はタカシ、つまり自分なのだ。 

つまり……

 「……うー……」

 これから自分と同じ顔かたちの『男』と愛し合わねばならない、これは大問題だった。

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