第十話 酔っ払い

2..ティスティング


 男はテーブルに残ったワインのボトルを持ち上げて中を覗き、匂いをかいでみた。

 その間に『赤ワイン』女が背後を取り、抱きついてきた。

「アケミか……どうも飲みすぎたようだ」

 現実を認めたくないという願望を吐く口に、赤い指が忍び込む。

 チュルッ……舌の上の女の指は、赤ワインの味がした。


 「おいっ……」

 振り向く男の口に、今度は赤い拳がヌルリと差し込まれる。

 ゴボッ!?……ゴクリッ…… 

 舌の上に広がる極上の酒の味……そして、喉を流れ落ちていく赤ワインの感触。

 「ぷあっ……?」

 「おいしい……?」

 「ああっ……」

 「うふっ……うふふ……うふふふ……」

 『赤ワイン』女は、男の顔を両手ではさんで顔を近づける。 赤い唇が男の唇に重なり、ヌルリとしたワインの

味の舌がかれの口を犯す。

 トロリ……トロリ……

 赤い舌は、彼の舌の上で溶けて赤ワインの味わいを残し、喉の奥に流れて行く。

 コフッ……

 男の眼が焦点を失い、現実が見えなくなる。 すると不思議なことに、『赤ワイン』女の姿が一層くっきりとしてきた。

 「貴方を……味あわせて」

 女の口が迫ってくる。


 うぁっ……

 『赤ワイン』女が彼自身を口で味わう。 彼女の口の中はヒヤリと涼しく、粘る舌が彼自身に絡み付く。 

が、それだけではない。

 「おぁぉ……」

 酒が粘膜に染み透り、ほんのりと温かくなっていく彼自身に『赤ワイン』は周りから浸み込み、鈴口から中に入り

込む。 そして彼自身と一体となった『赤ワイン』が内から彼を優しく責め始めた。

 「お、犯される……」

 内から愛撫される感触は、想像を絶する快楽だった。 身もだえする男に体を重ね、『赤ワイン』女は男自身を深く、

深く咥え込んでいく。

 「ひっ!」

 袋の中に『赤ワイン』が流れ込んできた。 そのままノロノロと中で何で動き周り、男を翻弄していく。

 「ねぇ……」

 男の顔を、赤く透き通った秘所が覆ってきた。 男は『赤ワイン』の匂いのそれに顔をうずめ、舌をつき入れて反撃を試みる。

 ジュルルルルル……

 ワインゼリーのような感触のそれが、彼の舌に絡み付いた。 反撃する筈が反対に舌を絡め取られ、女の中に引きずり

込まれていく。

 「あん……おいしいは……あなた」

 秘所からあふれ出す『赤ワイン』の味の滴は、彼女の愛の証なのか、それとも彼女自身なのか。 極上の酒の味の

それが、口腔を満たし、喉を潤す。

 「おほぅ……」

 次の瞬間、赤い滴は滑るゼリーとなって彼の口を犯していた。 粘膜をくすぐり、舌を支配し、半ば彼に浸み込んで、

肉の内から彼を愛撫する。

 「ひぃ……」

 「うふ……もっと……してあげる」

 
 ゴボッ、ゴボッ……

 極上の酒が、彼の喉に流れ込み、彼の胎内にたっぷりと注がれる。

 うぁっ……あっあっあっ……

 『赤ワイン』が彼を愛している。 人には出来ぬやり方で、彼の体を中から愛し、犯している。

 ひぃ……ひっひっひっ……

 じわじわと、『赤ワイン』が染みていく。 染みながら彼を愛撫している。 さざ波のような快楽の波は、うねり、渦を

巻き、彼を酔わせていく。

 「はぁっ……はぁっ……」

 息を吐く彼の目の前で、『赤ワイン』女が妖しく笑う。

 「おいしいわ……あなたも」

 「……も?……ひっ」

 『赤ワイン』の言葉に疑念が湧いた。 しかし、足の間に加わった新たな熱い快感がそれを忘れさせる。

 「あ、あっっ……ひぃ……」

 「たまらないでしょう……これ」

 見れば、腰の辺りは『赤ワイン』に完全に包まれ、中で彼自身が虫か何かの様にヒクヒクと蠢いている。

 「私の中は堪らないでしょう……男でも、女でも……虜になるわ。 貴方も、私に酔いしれて……」

 後の言葉は聞こえなかった。 『赤ワイン』女の中で、男自身が弾ける。 女に支配され、命じられるままに快楽の

証を捧げさせられる。 そして、出した分の『赤ワイン』が中に注がれる。

 はぁっ……はああっ……

 「うふ……いっていいの……もっといっていいのよ……」

 無くなった中身がまた出ていく感触。 出しているのは彼の精か、『赤ワイン』女の一部か。 終わらぬ快楽の中で、

意識が赤く染まっていく。

 ひっーっ……ひっーっ……

 赤い闇に沈み込む寸前、女の声が聞こえたような気がした。

 「味も、香りも申し分ない……」 

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