第九話 ツルの恩返し

6.ゴンベェは女房の本当の姿を


 ツルがくるまでゴンベェは、光の主が輝く間はせっせと働き、光の主が地の陰に隠れるれれば家に帰って眠りに

ついていた。

 それが今はツルがいる。

 「ぬし様ぁ……」

 「ひぇ……」 

 小屋に戻れば、ツルの柔らかな肢体が彼を出迎える。 夕餉の粥を食べ終わるや否や、ツルが彼を夜の営みに

引き込ずりこむ。

 「こ、これ……」

 止める間もなくも彼自身にツルの指が絡み付き、彼の指がツルの神秘に誘われる。

 ”ぬし様ぁ……”

 頭の中に響き渡るツルの声に、彼の体は誘われるままにツルを押したおし、彼女の中に乱暴に……ではなく、ツルに

押したおされ、無様にそそり立ってヒクヒク喘ぐ貧相なものをむき出しにされた。

 「ぬし様……」

 ツルはそれにふぅと息を吐きかけると、タラタラと涎のような愛液を垂らす女の顎でゴンベェ自身を加えこむ。

 「ううっ」

 ゴンベェはその一瞬自分自身を取り戻すものの、ツルの中に咥え込まれたモノから伝わってくる妖しい快感に魂を

奪われてしまう。

 「ああ……ああ……」

 うつろな目で、ツルに酔いしれるゴンベェの体に、ツルはしなやかなに絡みつき、愛おしそうに乳や舌を摺り寄せる。

 「ぬし様……愛しい方……」

 隠微な宴は夜半まで続いた。


 「……?」

 泥のように寝ていたゴンベェは、ふと目を覚ました。 辺りは静かで何も聞こえない、いや。

 ふぅ……うふぅ……

 「ツル?」

 傍らにいたはずの女がいない。 ゴンベェは土間に降り、外をうかがった。

 「なんだべ?」

 道ひとつ向こうの作物を取り入れた後で休ませている畑に、黒々とした影が横たわっている。 ゴンペェは表に

出て、それに近寄った。


 ふぅ、うふぅ……

 (「豆さや』だで)

 そこには、人ひとり入れるほどの豆のさやが、ごろんと転がり、中に何かいるのかの様に動いている。 彼が知る由も

なかったが、それは山に現れた『豆さや』と同じものだった。

 「中にいるのはツルか?」

 ピタリと『豆さや』が動きを止め、すーっと口をあけた。

 「やっぱり……」

 豆の中から緑色の肌をした女が現れ、その場にうずくまる。 その顔は間違いなくツルだった。 その背に翼のように

『豆さや』が繋がっている。

 「おめぇは豆の化生だったかや」

 意外にもゴンベェは落ち着ていた。

 「私を恐れないのですか、ぬし様?」

 「なんどか情けさ交わした仲だ。 怖がることもなかんべぇ」

 ゴンベェは、ツルの前に跪いた。

 「んで、何してただ」

 ツルは滑らかな動作で立ち上がった。 彼女がうずくまっていた地面にテラテラ光る緑の粒が残されている。

 「……豆?」

 ツルは頷いた。

 「はい、ぬし様の娘たちです」

 「……は?」

 あっけに取られるゴンベェ。 そして……


 アア……

 アアァァァ……

 アアーー……

 休畑のあちこちから声が聞こえてくる。 美しい響き、命の息吹を喜ぶ産声が。

 「な、なんだべ!?」

 ズボッ!

 ゴンベェの目の前の地面から、緑色の物が飛び出してきた。 それは人間の腕だった、緑色の。

 「でぁぁぁ!」

 腰を抜かすゴンベェ、その足の間からさらに一本の腕が生える。

 「あわわわわ」

 「ぬし様……御覧下さいまし。 娘たち誕生の時です」

 休畑のあちこちから『豆娘』達が生えてくる。 緑色の濡れた肌を夜天に煌めかせ。 喜びの歌を空に響かせる。

 「……」

 さほどの時を待たず、ゴンベェの周りは大小の『豆娘』で埋め尽くされた。


 シュルリ……

 ゴンベェの手に何かがらみついた。 はっとして手を見ると、手首に緑色のひもが巻きついている。

 「な?……ひぇ!」

 ゴンベェの足の間から出てきた幼い『豆娘』が、無邪気な顔で彼のモノを下履き越しに弄っている。

 「な、なにするだ!」

 「心配いりませぬよ、ぬし様」 ツルがぬらりと笑った。 「娘たちは、ぬし様を喜ばせようとしているのです」

 「なんだぁ!?……ひぇぇ」

 別の『豆娘』が彼に跨る、逆向きに。 生まれたばかりの彼の娘、その秘所が彼の目の前で糸を引いて口を開ける。

 ”とと様……”

 秘所が喋った。 そして、妖しい香りをゴンベェの顔に吐きかけつつ、淫らににじりよって来る。

 「ううっ……」

 甘い香りを吸い込むと、どうにも体が火照って来る。 頭の中に靄がかかったように、なり、自分が何をしているのか……

 ペ……チャァ……

 秘所が彼の顔に摺り寄せられた、甘えるように中の襞で彼の顔を舐めている。

 ”舐めてぇ……”

 正気だったとしても、逆らえなかったろう。

 ゴンベェの舌が、『豆娘』の秘所をやさしく舐め、『豆娘』は身をよじって悶えた。

 ”とと様……”

 ”とと様……”

 『豆娘』たちが、彼を取り囲みその体で奉仕し始めた。 さらに豆のツルや豆さやのようなものが生え、ゴンベェの

体に絡みつき、服を脱がせる。


 「ご、極楽じゃぁ……わっちは幸せ者じゃぁ……」

 ”とと様……”

 ”とと様……”

 休畑から『豆娘』が生まれてくる。 後から後から、止めどなく。

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