第九話 ツルの恩返し

5.女房は家で おそわれたげな


 はぁー♪ ゴンベェが耕す♪ ざっくざくとな♪ カー公がほじるよ……?

 ゴンベェはいつもの様に畑を耕す。

 「今日は、カー公がおらんのぉ」

 腰を叩きながら、ぐるりと辺りを見回し、首をひねる。

 「なんか……静かだなぁ」

 野良仕事をする者は周りの変化に聡い。 ゴンベェは畑仕事を切り上げ、隣の百姓家に向かった。

 「ごめんなんしょ」

 「あれゴンベェさん、どないしました」

 中にから出たのは、その家の古女房だった。 最近足腰が弱っているとかで、野良に出ていないらしい。

 「いやさ、なんか雲行きが変だでよ。 おめさとこは何ぞないかや」

 ゴンベェが尋ねると、古女房は考え込んだ。

 「んだな、今朝方はコスズ共やらの鳥どもが囀らんで、おら寝過ごしちまっただ」

 「鳥……」

 ゴンベェの表情が曇る。 空飛ぶ鳥どもは、何か危険を察知するとすぐにいなくなってしまう。

 「なんかの前触れやろか」

 「めったな事を口にすんでネェ。 口に出すと、ほんまになるだで」

 「んだな」

 ゴンベェは農具を担ぎなおし、隣の百姓家を後にした。 


 「……」

 古女房はなんとなくゴンベェを見ていたが、ふっと息を漏らすと家の中に戻り、中断していた籠編みに戻る。

 ギシギシギシ……

 器用な手つきで細く裂いた枝を交互に編んでいく。 その手がふと止まる。

 「鳥……あれ、鳥が逃ごうときゃ、昼間一斉に動くんでないか」

 鳥は夜はあまり動かないし、長距離の移動の場合は群れを成す。 何かの前触れならば、鳥の群れが次々に飛び立つものなのだ。 

誰も気がつかないうちに、鳥が居なくなることは無かった。

 「……」

 古女房は手元を見た。 何かよからぬことが起ころうとしているのだろうか。 

 「ゴンベェどんに……」

 が、少し遅かった。 突然、囲炉裏から灰神楽が立ち上る。 ぎょっとしてそちらを向くと、囲炉裏にかけていた鍋が落ち、中身が火を

消していた。 立ち上る灰神楽の中で蛇のような何かが動いている。

 「ひょぇ!」

 腰を抜かした古女房の足めがけ、灰神楽の中から緑色の縄のようなものが飛んできて巻きつく。 そして、有無を言わさず古女房を引きずっていく。

 「ひょぇぇ、ダンマンダ、ダンマンダ! ホートケェ様、おたすけぇ」

 古女房の爪あとが、囲炉裏に向かって一直線に刻まれた。


 「あわあわあわ」

 灰神楽の中にいたのは、あの『豆さや』だった。 そして、緑色の縄は『豆さや』を支える太い茎から分かれた豆の『つる』、それが蛇のように動いている。

 「お、お化け豆じゃあ」

 『豆さや』がぱっくりと口を開き、中からは……何も出てこない。

 「ありゃ、スカじゃったか」

 なんとなく残念そうな古女房。 が、中は空ではなかった。

 「どひぇ!」

 『豆さや』の中からは、しっとりと濡れた『つる』がいく本も吐き出され、それが古女房に絡みつく。 そして、衣服の中にもぐりこんで来た。

 「しぇぇぇぇ!!」

 皮袋から空気が漏れるような悲鳴を上げる古女房。 しかし『つる』は無頓着に古女房のから衣服を奪い取り、とっくに終わっしまった体をさらけ出す。

 「あ……えい、どうせわしの先はねぇわい。 煮るなり焼くなり好きにせい」

 裸に剥かれ、覚悟を決めたのか、古女房は妙に落ち着いてしまった。 『つる』は、裸にした古女房を『豆さや』の前に持ち上げる。

 「ふん、豆なんぞいくらも食ってきたわい。 反対に食われるのもこれ因果かいのぅ」

 毒づく古女房めがけ『豆さや』から薄緑の霧のようなものが吹き付けられ、その体を薄い緑に染める。 それから、しっとりと濡れた『つる』は、老いた体に

らせん状に巻きつき、うねり始めた。

 「なんじゃ? わしゃとうに枯れておるぞ……とうに……」

 古女房の口調がだんだん間延びしていく。 その場に第三者が居れば、古女房の体に徐々に張りが戻ってくるのに気がついたろう。

 「さては、アンマとかいうやつ……これはコリが……ほぐれて……おぅ」

 枯れきった老女の声に、艶が戻ってくる。 当人はまだ気がついていないが、醜くしぼんでいた胸も、膨らみを取り戻しつつあった。

 「これは……なんと……なにをして……あぁ……!?」

 ようやく『古女房』も異変に気がついた。 肌がうす緑に染まり、皺が消えていくのに。 そして、体を這いずる『つる』の感触がはっきりしたものになっていくのに。

 「な、なにを……ひぃ!?」

 役目を終えていたはずの女性自身、そこが若さを取り戻していた。 そこを、ひときわ太い『つる』がなぞっている。

 「ああ……久しいこの感覚は……ひぃ……」

 若々しい喜びの感覚に、彼女は虜になっていく。 神秘の門をなぞる『つる』、それが何を望んでいるのか、彼女には判っていた。

 「わたしが……欲しいの?……あげる……あん……きて」

 『古女房』は『女』に戻り、つやつやと光る神秘の門を開き『つる』に差し出した。 『つる』は、女性自身を優しく弄りながら、中に入っていった。

 「あ……あぁ……」

 『つる』は、優しく彼女の中を愛撫する。 襞を擦り上げ、蜜を絡ませ、女性自身を快楽の宴で痺れさせ、そして……

 ”……ツナガレ”

 「きて……繋がります……おおせのままに……」

 渦を巻く快楽の中で、『女』に戻った『古女房』の体、それが今度は内側から別なものに変わろうとしていた。

 「ああ……いい……気持ちいい」

 ”繋がりました……もう何も考える必要はありません……貴方の体は、新天地で……”

 「……いい……気持ちいいの」

 『つる』の愛撫に悶える『女』は、意思を奪われ、『豆さや』に包まれようとしていた。

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