第九話 ツルの恩返し

2.男がおったげな


 あせるゴンベェの前で、女は着物の帯を緩める。

 「こ、これ……」

 女の旅装束が芝居小屋の幕のように左右に開き、奥に秘めた白い女体が露になる。

 「……」

 囲炉裏の火しか明かりも無い百姓家、そこに神々しい光がさした。 そして、その明かりはすべるように近づいてくる。

 「……はっ」

 瞬きしたゴンベェ、その目の前に匂いたつ白い女体があった。

 「お、おら……」

 開いた着物の間にゴンベェの姿が消える。 そして静かな睦み声が百姓家の中を満たしていった。


 「おぅ……おぅ……」

 床に仰向けになったゴンベェ。 その口から小動物のような喘ぎが漏れ、ぎこちなく腰が動く。

 「あぁ……ぬし様……」

 ゴンベェの上でしなやかな女体がうねる。 白い肌はゴンベェの肌に吸い付き、離そうとしない。 時折、女は上体を振り上げて頭をゆする。 

その度に長い黒髪が白い女体を滑り、豊かに胸に絡まり、麗しいくも妖しい匂いを振りまく。

 「これは夢だ……こんな事が……おおぅ……」

 女体の重みがゴンベェの腰に集まり、より深みに彼を誘う。 女の深みにはまった彼のものに、何かがうねって絡みつき、男としての責務を果たせと囁く。

 「ぬし様……後生でございます。 さぁ、お情けを下さいませ……」

 「おおっ……おおおっ……おおおおおおおっ……」

 丁寧な口調と裏腹に、女の中は遠慮なくゴンベェに吸い付き、かれの『お情け』を吸い取るがごとくに動く。 ゴンベェが堪えきれる筈も無かった。

 「で、でるだっ……」 情けない声を上げるゴンベェ。

 ジュル……ジュル……ジュル…… 

 「はひ?」

 吸い出される。 『お情け』が女の中に吸い出されている。 一瞬ゴンベェはそう感じ、そして。

 ジュルルルルルルル!!…… 

 「はひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……」

 女が『お情け』を吸い上げ、その勢いで股間が激しく震えだした。 およそ感じたことの無い快感に、頭が真っ白になった。

 「へぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

 「ああ……もっと……もっと……」

 女の下でゴンベェは快楽に震え続けた……


 「……は?」

 目を開けると、女が上気した顔でゴンベェを見ていた。

 「ぬし様……素敵でした。 まるで極楽浄土を漂っているかのようでした」

 「はは、おらもう少しで極楽往生するところだっただ……ああ、体は暖まっただか?」

 「まぁ……」 女は目を見開く。 「私のことを気遣ってくださるのですか。 貴方はお優しい方ですのね」

 「いや、おら普通のことをしただけだ」

 やや照れながら、ゴンベェは起き上がろうとする。 しかし、女はゴンベェの足に自分の足を絡め、その胸に顔を埋める。

 「こ、これ」

 「ぬし様、もう少し暖めて下さいまし」

 そう言うと、女は上目遣いにゴンベェを見た。

 「勘弁してくんろ。 おらそんなに若くねぇだよ」

 「大丈夫でございます、ぬし様。 私に任せてくださいまし」

 女は、ゴンベェが止めるのも聞かず、彼の頭を胸に抱え込んだ。 極上の餅のような塊が、彼の顔を覆っていくにつれ、ゴンベェの心に

言いようの無い恐怖がこみ上げてきた。

 「こ、これ、やめるだ。 やめてけろ……おっぷ」

 開いた口に、ドロリと言うかんじで乳房が滑り込む。

 「ご心配なく。 すぐに極楽のような心地になりますとも」

 女の声がした途端、ゴンベェの口の中に得体の知れない味が広がる。

 (なんだべぇ……)

 ドロリとしたものが口に溢れ、それが喉を滑り落ちていく。 すると体に力が溢れ、腰の辺りが疼いてたまらなくなってきた。 ゴンベェは、必死に

口から乳房を追い出した。

 「こ、これはいけねぇ。 おら、おかしくなってきただ。 これお前さん、おらがまともなうちに早よう逃げるだ」

 「まぁ、本当にお優しい方……心配要りませんわ」

 女はそう言って、ゴンベェの体の上で体をねじり、はしたないことにゴンベェの顔に女の神秘をさらけ出してきた。

 「こ、これ……お?」

 始めて見る女の神秘。 それは肉襞の蠢く不気味な形をしており、また花のようにも見えた。 さしずめ『肉の花』とでも言うべき妖しい形のそれは、

ゴンベェの顔に迫ってきて、甘い香りを吐きかける。

 「おお……ええ香りだ……」

 甘ったるい香りが鼻腔を満たし、頭の中に染み込んで行く。 ゴンベェの体から抗いが抜け、束縛を失ったものがそそり立つ。

 「ああ、素敵でございます。 ウフ、ウフ、ウフフフフフフフフ……」

 笑っているのは女か、はたまた目の前の『肉の花』だろうか。 ぼんやりと考えていると、股間が生暖かいモノ物に包まれた。

 ジュル……ジュル……ジュル……

 「ああ……たまんねぇ……」

 激しく吸われるモノに、抵抗する力は残っていなかった。 女に与えられた『力』が、粘りつく『お情け』変わって、快感と共に女に吸い出される。

 ジュル……ジュル……ジュルルルルルル……

 ”ぬし様……どうぞ蜜を召し上がって……下さい……”

 『肉の花』が誘い、甘い香りでゴンベェを誘う。 かれは誘われるままに、そこに顔を埋め、舌で蜜を味わう。

 ビクリビクリビクリ……

 蜜の力なのか、彼の股間がたけり狂い出す。 すると女がそれを咥え、中身を吸い出す。

 ジュル……ジュル……ジュルル……

 「極楽だぁ……」


 夜鳴き鳥がねぐらに帰る頃になって、ついにゴンベェは力尽き、泥のような眠りに落ちた。 女はゴンベェに寄り添って横になり、その耳に囁く。

 「ぬし様、私はツルと申します」

 「ツル……。 むにゃ」

 「私が貴方様を、この星でもっとも幸せな男にして差し上げます」

 「むにゃ…… 宜しくたのむだよ……」


 カー……ガッ

 どこかで『カー公』が鳴いている。 なぜかその声は、途切れたような気がした。

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