第八話 変

11.そして四人目は


 タン! 「こちらでお休みで……」

 カラリ 「お布団の用意が……」

 ガチャリ 「いらっしゃい……」

 扉を開くごとに違う女、いや『ずぶり』が黒川を招く。 汗にまみれた額をぬぐい、足を引きずりながら彼は出口を探し続ける。

 (チキショウ!)

 腹の中で毒づきつつ、重い扉を開き中に入ると微かに香る靄が彼を出迎え、部屋の大半を占める薄紅色のベッドの上で全裸の『ずぶり』が

彼を見ていた。

 (……)

 絶望をため息で表し、彼はそこに座り込んだ。


 「こちらでお休みになられてはいかがです? だいぶお疲れかと」

 『ずぶり』の言葉に、黒川はどす黒い怒りを覚えた。

 (人をいたぶりやがって。 そのデカ××で俺を挟んで、揉んで、おっぱい飲ませて……最後は食っちまうんだろうが……ん? そうだ、確か

毒蛇は自分を噛むと、自分の毒で死ぬとか……)

 黒川はじーっと『ずぶり』を睨みつける。

 「俺は簡単にはやられねぇぞ……」

 宣言してベッドに上がり、『ずぶり』の両手を押さえる。 『ずぶり』は仰向けに倒れ、黒川を胸で受けとめた。

 「焦らなくとも、じっくりと楽しみましょう」

 『ずぶり』の乳房は器用に動き、黒川の上着の間から彼の胸に吸い付こうとする。 黒川は目を吊り上げ、何を思ったか『ずぶり』の耳に舌を

這わせた。

 「先にいかせてやる」

 ベッドを舞台に男と女の勝負が始まった。


 「う……ううっ……」

 黒川は呻く。 『ずぶり』の体は彼の想像を超えていた。 肌に舌を這わせれば甘い女の香りが立ち上り、秘所を攻めると肉襞が秘肉がまとい

ついてきて奥に誘う。 ためしに手を突き入れると、ずぶずぶとどこまでも沈み込んでいき、抜こうとすると滑る肉が名残惜しげなまといつく。

 「……」

 気がつけば、その感触に誘われるままに手が『ずぶり』を弄っている。 止めようにも手が勝手に動いて止まらない。

 「ああ……もっと……もっと……」

 『ずぶり』に求められるまま、黒川は『ずぶり』を愛していた。 手に感じる『ずぶり』の感触以外、何も感じられない。

 「ねぇ……」

 何かが視線をひきつける。 白い柔らかな乳房が彼を誘っている。

 「吸って……そして……」

 ふらふらと黒川は乳房に顔を寄せ、乳輪に唇をあてた。 吸い付くような感触に誘われ、自然に舌が乳首を愛でる。

 「あん……ああん……」

 『ずぶり』が悶えるたびに、乳房が一回りずつ膨れる。 柔らかな果実に顔がめり込み、甘酸っぱいにおいで彼を惑わす。

 「もう少し……ああ……いく……」

 小さく振るえ『ずぶり』はいった。 乳首から神秘の乳が迸り、黒川の口腔を犯す。

 (うおっ!?)

 甘酸っぱい『ずぶり』の乳は、魂を奪い去るような甘露であった。 其れを飲み下せば、彼の体は至福に満たされるだろう。 しかし黒川は耐え、そして。

 (く、くらえ……)

 黒川は『ずぶり』に口付けて舌を絡め、口の中の乳を『ずぶり』の口に流し込んだ。

 「ごふぅ!?」

 不意打ちにあった『ずぶり』は自分の乳を飲み下し、咳き込んだ。

 「や、やったぞ!」

 黒川は咳き込む『ずぶり』をそのままに、ベッドから離れた。


 「なにをなさいます?」

 しばらく咳き込んでから『ずぶり』は黒川に尋ねた。

 「判ってるんだ! お前達はそれを飲ませて人を化け物に変えるんだろうが」

 黒川は『ずぶり』の胸を指差した。

 「だからお返ししてやったのさ。 それ、変われよ! 望むものにさ」

 黒川は言い放ち、ヒステリックに笑った。 しかし、『ずぶり』は不思議な笑みを浮かべ、彼を見つめるだけだった。


 「失礼いたしました、きちんとお話しすべきでしたのね」

 『ずぶり』はそう言って彼に頭を下げた。 黒川は面食らったような表情で『ずぶり』を見ている。

 「私達の乳は、実は私達の一部なのです。 私達はこのように……」 そう言って『ずぶり』は乳房を膨らませた。 「……姿を自在に変えることが出来る

のです。 昔は『変化』と呼ばれた事も……今風ですと『しぇいぷ・しふたー』と言うのだそうですが」

 「なんだって?」 黒川は一歩下がった。

 「私達の乳を飲むんだ方は、内側から乳と溶け合い……やがて私たちと同じになるのです」

 「お前達と……同じだと」

 黒川の顔に恐怖が浮かぶ。 彼は『ずぶり』が何を言っているのか判らなかった。 そして、判らないゆえに恐怖していた。

 「それは……それはどういうことなんだ!!」

 『ずぶり』は妖しく微笑んだ。

 「理解する必要はありませぬ」

 その下半身がドロリと崩れてベッドに流れ、そのベッドの形も崩れていく。

 「ただ感じればよいのです」

 ベッドが床に流れ、その床すらも生き物のように蠢きだした。

 「この世のものでない……いえこの世のものでなくなる快楽を……」

 黒川が叫んだ、力の限り。

 「助けてくれー!!」

【<<】【>>】


【第八話 変:目次】

【小説の部屋:トップ】