第八話 変

8.三人目は


 墨屋と黒川は、扉と廊下の迷路を駆けずり回っていた。 手当たり次第に扉を開き、出口を探す。

 「いらっしゃいませ……」

 「こちらでお休みですか?」

 しかし扉の向こう側には、必ず白い着物の『ずぶり』が控えていた。 そして、礼儀正しい態度で彼らを誘うのだ。

 「み、見ろ! 非常口だ」

 見慣れた緑のピクトグラムを墨屋が指差した。

 「ばか野郎! こんな場所でそんなものが信じられるか!」

 気がつけば『消火栓』『火災報知器』なども設置されている。 

 「なあ、ここはセットか何かで、俺たちはTV局の番組か何かに騙されているんじゃ……」

 「……まさか」

 「考えてみろ、こんなこと現実にあるのか……」

 ふたりは立ち止まり、考え込んでしまう。

 「でもよ、もし本当だったら……」

 再び歩き出す二人、その足取りは重い。 角を曲がると、横手の壁が襖になり、所々が開いている。 中を覗くと畳敷きの

宴会場で、誰もいない。 二人は中に入って見た。

 「ステージだ、カラオケまであるぞ」

 「妖怪の建物にしちゃ、おかしかねぇか?」

 普通の旅館ならばありそうな物だが、それが返って不思議だった。 ステージに注意を奪われた二人の背後に白い闇が

現れたが、彼らは気がつくのが遅れた。

 
 「ひっ!?」

 墨屋は、首筋にひやりとするものが巻きついたのを感じ、叫び声をあげた。

 「でたぁ!?」

 黒川は、墨屋を振り返ることもせず一目散に逃げ出す。 

 「いらっしゃいまし」

 背後から、ねっとりとした女の声がし、次にやわらかい重さがのしかかってくる。 支えきれず、墨屋は畳に押し倒された。 

 「ず『ずぶり』か、わっ!?」

 女の腕が彼の胸元に滑り込み、強引に服と下着を剥ぎ取った。 そして『ずぶり』の白い巨乳が彼の胸に圧し掛かる。

 ヌ……チャァァァ

 「ひっ!」

 『ずぶり』の乳房は、ねっとりした感触で彼の胸に吸い付き、つきたての餅のように彼の胸を覆っていく。

 「やめろぉぉぉ」

 墨屋はじたばたと暴れるが、吸い付くような『ずぶり』の体に押さえ込まれ、体の自由が奪われつつあった。

 「さぁ、お好みをおしゃってくださいまし」

 『ずぶり』の笑みが逆に恐ろしい。 墨屋は半泣きで拒絶する。

 「女にやられる、女にやられちまうよぉ」

 『ずぶり』は首をかしげ、墨屋の顔を覗き込んだ。 黒々とした瞳に、墨屋は吸い込まれるような錯覚を覚えた。

 「私を見てくださいまし……そして見せてください……あなたの望みを……」

 「やめろよぉ……やめてぇ……やめて」

 墨屋の拒絶は次第に弱々しくなり、目の焦点が合わなくなっていく。 『ずぶり』は墨屋の額に口付け、猫のように

墨屋の顔を舐めた。

 「……」

 墨屋の体から力が抜け『ずぶり』のされるがままになる。 『ずぶり』は墨屋の耳を咥え、舌を差し込んできた。

 ニュル……ニュル……

 やわらかい物が耳をはい、湿った音が染み込んで来た、頭の中に。

 ”見せてくださいまし……あなたを……”


 男の子がいる、おそらくは墨屋だろう。 彼は数人の女に”襲われていた”

 ”やめて……やめてよぉ……”

 ”いくじなし……男の子でしょ……いや、坊やね”

 ”へん……坊やの×××だ……”

 誇りっぽい空間で、墨屋のプライドにひびが入り、砕ける。


 「……初体験が……傷になったのですね」

 『ずぶり』は下にいる墨屋の体を、いたわる様に撫でた。

 「では、癒して差し上げましょう」

 『ずぶり』の体が一瞬崩れ、戻る。 彼女は墨屋に対して69の体位を取った。

 「おい!何をする」

 墨屋が正気に戻った。

 「楽しい夢を差し上げます」

 墨屋の眼前で『ずぶり』の神秘が囁いた。 そして墨屋は、自分自身が柔らかい温もりに包まれるを感じる。 墨屋は

その正体に思い当たる。 『ずぶり』の乳、極上の餅より柔らかい白い魔性が、彼を包み込む。

 「や、やめろ……」

 女に、『ずぶり』対する恐怖が湧き上がり言葉が途切れる。 全身を走る冷たい感覚に、心臓の音がやかましい。

 「案ずることはありません。 さあ……」

 『ずぶり』の乳が、軟体動物のように蠢く。 恐怖に縮こまっていた墨屋自身を、甘く、優しいぬくもりが蕩かそうとしている。

 キュゥゥゥ……

 彼の意思と関係なく墨屋自身が硬くなり、ネットリした感覚で満たされていく。 同時に、全身に溢れていた恐怖感が、墨屋

自身に吸い寄せられていく。

 「な、なんだ……」

 墨屋自身が冷たくなり、同時に熱くなる。 矛盾した感覚に混乱する墨屋。 そして『ずぶり』が亀の頭をそっと咥える感触。

 「いやな気持ちを、吸い出して上げましょう……」

 「あ、あーっ!あーっ!あーっ!……」

 初めて味わう感触、全身の熱が『ずぶり』の口に吸われていく。 そして心地よいまどろみのような穏やかな快感に包み

込まれる。

 ヌチャ……ヌチャ……ヌチャ……

 無抵抗になった墨屋を、『ずぶり』の全身が優しく愛撫し、囁く。

 「さぁ、楽しみましょう……坊や」

 「うん……お姉さん……」

 墨屋の口を『ずぶり』の乳房がふさぎ、魔性の乳がトロトロと流れ込み、墨屋は其れを喉に流し込んだ。 暖かな快感に、彼の

体と心が支配される。  

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