第七話 珠

5.真珠


 綾音の白い腕が男の背にまわされ、小ぶりな体を胸にいだく。 屋敷に招かれた時に老爺であった男の体は、十を

幾つか過ぎた童子にまで若返っていた。

 綾音……様……

 童子は夢見るように呟き、己が磨きだした綾音の胸に頭を預けた。 豊かに実る乳房は、童子の頭を一瞬だけ留め、

ついで谷間を開いて童子を招いた。

 ふわぁ……

 先に浴びた真珠色の乳、一層強くなったその香りに頭が痺れる。 童は意識せぬまま、頭を左右に振り、乳に濡れた肌の

感触を楽しんだ。

 「かわいらしいこと……」

 綾音は二人を包む薄い膜を絞り、童の尻や、足、背中など、綾音の腕と乳からはみ出た部分に幕が纏いつかせた。 そのまま

幕を波打たせ、童子の体を優しく愛撫する。

 あぁぁぁ……

 童は軽く仰け反り、ずいぶんと細くなった喉から高い喘ぎ声をあげた。 体が痺れ、とろりと蕩けていくようだ。

 あ、ぁぁ……

 ヒクヒクと腰が疼き、粘っこい物を放つ心地よさに浸る童子。 震える足に、綾音のしなやかな足が絡みつき、腰が密着する。 

薄い肉の貝の中で、童は綾音に抱かれ、果てた。


 ぬるり……ぬるり……

 体を弄る綾音の手の感触が、童を引き戻した。 欲するままに、綾音の胸に唇を這わせ、頬で乳房を感じ、体を綾音に摺り寄せる。

 「?」

 先ほどまで、綾音の足の間にあった腰の物、それが綾音の下腹を感じている。 それに、心なしか綾音の腕が太い。 童は薄く目を

開け、上目遣いに綾音を見た。

 「気がつきましたね……体がいっそう縮んだのがお分かりか?」

 童子は、綾音の言葉を理解せぬままうなづいた。 気だるいぬくもりの中、意識が緩んでいるようにも感じる。

 「そなたの魂を包みしもの、人の体、人の思い、それを磨き落として差し上げます……」

 ぬるり……

 真珠色の乳に滑る綾音の手が、童の背中を愛撫し、二つの乳房が童の頭を包み込む。

 あぁ……

 真珠色の霞が頭の中に染みとおり、童は綾音に溺れていく。


 ぬるり……ぬるり……

 綾音の言うとおり、果てるほどに童の体は縮み、いまや綾音の乳の間に収まるほど。 それでも綾音は、その両の乳房で童を

磨き続ける。

 あぁ……あぁぁ……

 両手で体を抱きしめ、少女の様に童は悶える。 綾音の言では、真珠色の乳は彼の肉を快楽のうちに蕩けさせ、その魂を顕にしていく

とのこと。 

 (美しい魂のひとよ、さぁ我が掌に収まるがいい)

 あぁ……綾音様……

 不意に体が回った。 ころころと転がっているような気もする。

 綾音様……?

 綾音の手を感じる、かぐわしい綾音の息も、そして。

 「我が真珠……あなたは私の物……」

 綾音の唇を感じる。 そして彼は綾音のものになった。

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 あぁ……

 少年が喘ぐ。 白い蛇の様な手が、彼の首筋に絡みついて胸を弄っているのだ。 そして、少年の姿が徐々に霞んでいく。

 ゴクリ……

 滝はつばを呑み込んだ。 いつの間に入れ替わったのか、話していたのは、少年の背後に居た白い着物の娘だったのだ。

 「その、珠にされた男は……お前……」

 聞くまでもなかったかもしれない。 少年は珠を残して姿を消し、珠は娘の手に戻る。 娘はその珠に口付けし、胸元に収める。

 あぁ…… 

 珠が安堵のため息をついた、滝にはそう聞こえた。

 「これに語らせしは、人の思いの全てをはきださせる為。 人となる前の無垢なる魂に戻し、我に愛され、我を飾りし美しき玉とするため」

 ロウソクの明かりに照らし出された娘の顔は美しい。 しかし、その漆黒の瞳に光は映らず、その微笑みはどこか冷たかった。

 「……」

 絶句する滝の目前で、娘の姿が幻の様に霞んでいく。

 シジミ衆……火を……

 霞を抜け、絣の着物の女の子がペタペタと駆けてきた。 ぺこりとお辞儀をし、小さな釣鐘形のロウソク消しをロウソクに被せた。

 ……

 火が消えると、女の子は再びお辞儀をし、ペタペタと霞の向こうに駆けて行った。

 滝は、霞の先に微かな輝きを見た気がした、その儚い真珠の輝きを。

<第七話 珠 終>

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