第七話 珠

4.白真珠


 童(わらべ)に変わった男は、綾音の前に平伏する。

 「綾音様……おいらは、誰でしたっけ?」

 綾音は整った口の端に笑みをのせ、傍らの三宝をしめす。 そこには、老爺であった男が磨いた石玉が鎮座していた。

 「それは……ああ、そうだ……なにか、遠い昔のことの様な」

 「貴方がそう感じるも無理なきこと」

 控えていたシジミ衆が綾音の帯を緩めると、艶やかな光沢を湛えた着物が、綾音の裸身から滑り落ちる。

 「お浜、お蝶は、貴方の肉より『年』を磨き取り、貴方の魂より『歴』を磨き落とした」

 綾音は、舞うような仕草で童を招く。 童は誘われるままに、綾音の腕の中に身を委ねる。

 「『歴』とは?」

 童は、今や年上となった綾音に尋ねる。

 「『歴』とは、人に厚く、獣に薄きもの。 若きに浅き、老いに深きもの」

 問いは、謎の如き答えで返された。 首をかしげる童を、綾音は微かに膨らむ胸に抱きしめる。

 「おいらが覚えている『昔の事』でございますか?」

 綾音は軽く頷き、童の額に自分の額を重ねる。 人ではない娘の、深い闇を湛えた瞳が童の顔を映している。

 「『歴』は魂を巻き、その輝きを隠す。 されど貴方の魂は、厚き『歴』を貫く程に輝き美しい」

 綾音は両手で童の顔をはさみ、その顔に口付ける。 童の体が小さく震えた。

 「さて、最後の頼み。 聞いてくださいます?」

 童は頬を赤らめ、綾音を見返した。

 「我が胸より、玉を磨きだすのです」


 御簾に囲まれた綾音の寝所。 御簾に映る童と綾音の影は、艶やかに絡み合い、淫靡な絵の様であった。

 は……は……

 綾音の喘ぎが、灯明の明かりを揺らすほど静まり返った部屋。 肌が擦れ合う音すら、聞き分けられる。

 しゅ……しゅ……

 童の手は、年上の少女の薄い胸を円を描いて撫でている。 きめの細かい白い肌は童の手に吸い付き、ともすれば

その心地良さに手が止まりそうになる。

 くっ……

 童は唇を噛み、律儀に愛撫を続ける。

 はぁ……は……

 綾音の呼気は甘く香り、童は頭がくらくらするのを感じた。 幼い体相応に縮こまった男自身、それが解けて固くなろうと

している。

 (なんねぇだ。 玉さ、磨きだすまでは)


 綾音は告げた。 『我が胸より玉が磨きだされ、私が果てるまで、手を休めてはなりません。 私と交わることも。 宜しいですか?』


 (玉さ、磨きだすとは?) 意味が判らなかったが、なんとなく聞くのも憚られたので尋ねなかった。

 は……おぉ……

 ヒク、ヒク……

 (お?)

 童の手の下で綾音が震えた。 心なしか胸が丸みを増したようだ。

 (こういうことだか)

 童は、綾音の様子を見ながら、注意深く胸を揉む動作を加えた。 僅かなふくらみだと言うのに、指が沈み込むほど柔らかい。

 お……おぉぉ……

 綾音が喘ぐ。 逝ってしまった男でも、跳ね起きそうな艶のある声だ。 当然の様に童の股間は、固くしこってくる。

 「まだだ、まだだ……」

 童は呪文の様に呟き、綾音の『玉』に注意を集める。 桜色の小さな乳首がまぶしい。

 ああ……なめて……吸って……それは……かまいません……

 童は、綾音の乳首に唇を這わせ、舌先で転がしつつ、お囃子の様に調子をとって吸う。

 ちゅぅちゅぅ、ころころ、ちゅう、ころころ……

 あ……

 一際高く綾音が喘ぐ。 ずもっという感じで、胸がせり出してきた。

 むわっぷ……

 童の顔が半球状の胸にうずまり、白い肌から女の香りがいっそう濃くなり、気が遠くなっていく。

 (このまま……いや、だめだ)

 渾身の力で顔を上げると、童の顔の形に凹んでいた乳房が膨らんでいく。

 「綾音様」 

 呟いて、童は綾音の胸を愛撫し、舐め、軽く噛む。 女との交わりとしてではなく、ただひたすら胸の形を整えることだけに専念する。

 ああ……ああぁぁぁ……

 綾音は年下の童に弄ばれる年上の女となり、妖しく悶える。 白蛇の様に腕が蠢き、童の着物を剥ぎ取り、裸の体に絡みつく。

 (うっ)

 綾音の足が腰に絡みついてきた。 『貝』がふぐりを咥え、すするよう呑み込む。 屹立する男自身が、行き場を失って暴れている。

 (綾音様、殺生な)

 腹の中で文句を言いつつも、童の口と手は別の生き物の様に綾音の胸を磨き続けた。 綾音の胸は緩やかに脈打ちながら、徐々に

膨らんでいく。  


 ヒクリ、ヒクヒクヒク……

 綾音の胸が童の頭ほどに膨れあがった時、突如として綾音の胸が震え始めた。 童は、綾音が果てようとしていることに気がつく。 

 ああ……ぁぁぁぁ……

 童は、乳首を円を描くように攻め続け、綾音が心地よく果てられるように気を配った。

 あ……

 一際高く息を漏らし、綾音は強く童を抱きしめた。

 はぁ……

 ひと息ついて、綾音は童を放す。 童は、綾音から離れ、その前に座りなおして息を呑んだ。

 「綾音様……」

 綾音の胸には立派な『玉』が二並び、其れに見合うように体つきが女らしくなっていた。 輝くような白い裸身は、神々しくすらあった。

 「お綺麗になられたですだ……」

 呟く童に、綾音は妖艶に笑って見せる。

 「貴方のおかげです。 では、今度は私が貴方に……さ、そばに」

 綾音に促されるまま、童はその前にいざり出た。 目の前に彼の磨きだした、女体の宝玉が並んでいる。

 「さぁ……」

 薄紅色の乳首が、彼のほうを向いた。 と、真珠の輝きの乳が迸る。 よける間もなく、童の顔にその乳が降り注ぐ。

 「あ……あったけぇ……」

 女体の温もりのまま、真珠色の乳が彼の体を黒から白に染め替えていく。 不思議なことに、乳が流れた肌から体に重く快い痺れが走る。 

童は次第に動くことが出来なくなっていった。

 「たまんねぇ……」

 だが童の心に恐れは生まれない。 法悦の表情を浮かべたまま、童は真珠の色に染められていった。


 「美しき魂の人よ。 その魂に無垢な輝きを蘇らせましょう……」

 綾音は、体の周りに白い肉の幕を広げ、半人半貝の化生のものに姿を変え、真珠色の乳にまみれてまどろむ童を、優しく咥えこんだ。

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