第七話 珠

3.黒真珠


 その夜、お浜に磨かれた男は若者の姿で、再び『貝姫』達の部屋に通された。

 「男、お蝶よりの頼みは、これなる珠を磨くこと」

 そう言って、黒い着物のお蝶は、三宝の上の黒真珠を見せた。 手毬より二周りほど小さい。

 「……お、お蝶様」 若者の目が今にもこぼれ落ちそうだ。 「こ、これは……」

 「我らが、代を重ね、体を張って磨き上げし宝玉なり。 されど……見よ」

 シジミ衆の一人が、明り取りの障子を開ける。 黒真珠に青白い月光がこぼれ、妖しい陰影を浮かび上がらせる。

 「光にムラがあるであろう。 珠に瑕が出来ておる。 このままでは、我が磨いても瑕が深くなるだけ。 が、そなたならば直せようぞ」

 「は、微力をつくしましょうぞ……ときに、お尋ねしたいことが」

 若者はそっと『貝姫』達を見た。

 「申せ」

 「私は……誰だったでしょうか?」

 鈴を振るような声で、『貝姫』達が笑う。

 「此処にいるが気に入らぬか?」

 「と、とんでもございませぬ」

 「ならば、気にすることもなかろう。 そなたの力にて、我らを助けておくれ」

 若者は、平伏しお蝶に従って屋敷の奥に行く。


 若者は、お蝶の寝所に通された。 そこで、お蝶は帯を緩めて着物をはだけると、若者に乳を舐めよと命じた。 

 「お、お蝶様」

 「さぁ……われをお舐め、我の乳にて珠を磨くがよい」

 黒真珠は、お蝶の乳で磨きだすのだと言う。 躊躇う若者を、お蝶は胸元に引き寄せた。 漆黒の着物の間から覗く白々とした胸元から、

お蝶の女の香が匂い立つ。

 「あぁ……」

 半ば陶然としながら、若者はお蝶の胸元に舌を這わせ、襟に潜るようにしつつ、お蝶の乳房を吸った。

 あ……はぁん……

 お蝶は、妖気の様な喘ぎを漏らす。 甘く生ぬるいお蝶の香りが、若者をゆるゆると包み込み、官能の世界に若者を引きずり込もうとする。

 「うぉ……」

 「これ、耐えるのじゃぞ……珠を磨くことに……専念するがよい」

 (それはあまりなお言葉……)

 も…… ももっ…… 

 若者の舌の刺激で、お蝶の乳房は音もなく膨らみ、着物を押し上げる。 膨れ揺れる乳は、別の生き物の様だ。

 はむ……はむ……

 丁寧に優しく、お蝶の乳を舐める若者。 その愛撫に、お蝶は妖しくよがり、若者を引き寄せる。 ふっくらとした乳房は若者を受け止め、

中に埋めようとするかのようだ。

 「ち、乳首を……もっと……」

 お蝶の求めに応じ、乳首を攻める。 乳首はふるふる振るえ、やがて鋼色に輝く乳を流し始めた。

 「それ、その乳で……あぁ……」

 若者は乳房に半ば埋もれつつ、手に鋼色の乳を絡め、黒真珠を素手で磨き始めた。

 (溺れちゃ何ネェ、珠を、珠を磨くだ)

 手中の珠の感覚に意識を集中し、手全体を使って珠を磨く、磨く、磨く。

 「おお……おぉぉ……」

 お蝶の声が高くなり、乳房が蠕動する。 たぷたぷと音を立て乳が流れ出し、二人を鋼色に染めていく。 すると、お蝶の着物の裾がするすると

伸び始めた。 びらびら蠢きながら伸び広がり、お蝶と若者を包み込んでいく。

 「お蝶様……」

 「案ずるには及びませぬ……着物も我が体。 ああ、たまらぬ……もっと、もっと磨いておくれ」

 (ご無体な……)

 黒真珠を磨くと、お蝶も感じるていめようだ。 興奮したお蝶は半ば貝の本姓を表し、女体で若者を捕まえ二枚の肉の布団の間で愛撫し始めた。 

そして女体の乳房からは、鋼色の乳が絶え間なく流れ出し、若者を鋼の色に染め上げている。

 「うぅ……あぁ……」

 お蝶の愛撫は、若者の全身を余すことなく包み込み、その魂を奪い取ろうとするかのようだ。 ただ若者の手だけが、無意識の内に珠を磨き続け

ていた。

 「こぅ……」

 一際高い声を上げ、お蝶が果てた。 黒い肉の貝と化したお蝶、その貝の隙間から黒真珠が転がり落ちる。

 「……」

 シジミ衆が黒真珠を拾い上げ、丁寧に拭き清めて三宝に奉じた。 それを月光に晒す。

 ……

 黒真珠は地に落ちた月の様に輝く。 その光には毛ほどのムラもなかった。


 「見事」

 『貝』の中で、お蝶が呟いた。 

 「礼として、私がそなたを磨いて進ぜよう」

  肉の貝が、ゆるゆると蠢き始めた。

 「あ……」

 若者の股間に、お蝶の手が絡みつき鋼色の乳を絡め、優しい温もりと粘り気で『男』を磨く。

 「じっとしておれ、よくしやろうぞ……」

 ぞぶり……

 さらに乳房が膨れ上がり、若者の頭から肩を包み込んだ。 その外側から、お蝶と若者を肉の貝が包み込んでいる。

 ヌッチャ、ヌッチャ……

 淫猥な響きと優しい快感が若者の全身を包み込む。 体をゆだねていると、自分がお蝶の一部になったかのようだ。

 「そのまま、浸っているが良い」

 「はい……」

 優しいぬくもりの中で至福に浸る若者は、お蝶の愛撫で磨かれていった。 やがて、不思議な高ぶりが体を走り、若者の一部が熱い物を

吐き出した。

 「はてたか……善哉」

 黒い肉の貝が開き、一人の子供を吐き出した。

 「……?」 

 真っ黒に日焼けした子供は、目をしばたかせて辺りを見回す。

 「おいら……なんだっけ?」

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