第七話 珠

2.白玉


 男は、貝姫たちの住まいに部屋を与えられ、そこで蛤の細工に取り掛かることになった。

 「ふんむ……厚みあるだども、これで『玉』磨くと、ちっちぇのが山ほどできるだけだなぁ。 どう細工

したもんか」

 男は、三宝に積まれた蛤の殻を手にとり、何度も表と裏を見比べた。 そのまま何か考えていたが、

ぽんと手を打つ。

 「昔、かわらけで碁石さ作ったことがあったべ」 

 男は、持ち込んだ石工の道具を手に取り、意外な器用さで、蛤の殻を細工し始めた。

 
 数日後、男は『貝姫』達の前に三宝を捧げた。

 「……これは、何かの飾り石ですか?」

 「は、『玉』にするほど厚みがねぇで、『碁石』に磨いてみただ。 いかがでがんしょ」

 三宝に盛られた白い『碁石』は、男が精魂込めて磨き上げたためか、キラキラと美しく光を放っていた。 

お浜は『碁石』を手にすくい、胸元で抱きしめる。

 「有難うございます、我が子達の魂も喜んでいるのが判ります」 お浜は、にっこりと微笑んだ。

 「はぁ、それは何よりで」 男は照れたように頭を叩き、無作法だったかと思い直して頭を下げる。

 ころころと声を上げ、『貝姫』たちが笑った。


 「そなたに礼を、これシジミ衆。 これなる男を磨いてしんぜよ」

 『あーいー』

 五人の稚児たちが現れ、案内、というより甘えるように男の手をとり、奥へと導いていった。

 男が連れてこられたのは、立派な湯殿だった。 稚児たちは男の着物を脱がせ、湯殿から桶で湯を

すくい、男にかけ流す。

 (あんれまぁ。 網元様でもこげな扱いうけるじゃろうか)

 などと考えていると、稚児たちは桶の中でぶくぶくと泡を立てている。 噂に聞いたシャボンらしく、それを

男にかけると、綿か油揚げのような面妖な布で男を洗い始めた。

 「これは、何でごさんしょう」

 「これは、海綿の干した物にございまーす」

 
 しばらくシジミ衆に『磨かれ』、男はさっぱりした気分になった。 シジミ衆は彼に新しい着物を着せると、

彼が寝泊りしていたのと別の部屋に連れて行く。

 (はて?)

 からりと襖が開くと、そこは座敷で床が延べられており、床の上にお浜座っていた。 男をと視線が合うと、

お浜が手を突いてお辞儀をした。

 「へ?」

 呆然とする男の背後で、襖がするりと閉じられた。

 「お、お浜様?」

 お浜は音も無く立ち上がり、するりと帯を解いた。 はらりと着物がはだけ、胸元から茂み辺りが男の

視線に晒され、束縛より介抱された両の胸が、ふわりと着物を押し開き、男は慌てて目を閉じた。

 「お、お浜様。 からかわんでくだせぇ」

 「からかうなど、とんでもございません。 さ、目を開けられよ。 私に恥をかかせるつもりですか?」

 言われるままに目を開けると、お浜が両手を差し伸べていた。 ゆるく着崩れた着物の奥から、白々と

したお浜が誘っている。 ゆるゆると女の芳香が漂いだし、男の鼻腔をくすぐった。

 「あぁ……」

 男は、夢をみているような足取りで、お浜にの腕の中に誘われた。 さらりと男の着物が脱げ落ち、

露になった肉体にお浜の肉体が絡みつく。 そのまま二人は、床へ崩れ落ちる。 男は、潮の香を感じ

ていた。


 おお……おおお……

 はだけたお浜の胸は、男の顔を挟んで余りあるほどで、およそ着物が着れるような大きさでは

なかった。 

これこそ『貝姫』達が妖しである証……等と、お浜の乳に弄ばれる男が気にする余裕があるはずも

無かった。

 「おは、おはまさま……」

 「いかがでしょう、極楽にまいるような心地でしょう?」

 「も、もそっと手加減を。 このままでは、ほんものの極楽へまいりそうで……」

 右の乳が男の左頬にネットリとへばりつき、そちらを向かせる。 すると左の乳がうなじに吸い付き、

やわやわと滑らかな愛撫で男をえびそらせる。 久しく女体を忘れていた男の肉体が、久々の戦に

奮い立とうとするが、悲しいかな年には勝てず、ただ々々お浜に翻弄され、息も絶え絶えになってしまう。

 「おや、これは申し訳なき事を……」

 乳の束縛が緩み、男はようよう一息ついた。

 「では、ゆるりと参りましょうぞ」

 ふわふわと乳が蠢き、男の頭を挟み込む。 こんどはゆっくりと乳が動き、男の両頬から顔を、嘗め

回すように愛撫する。

 「おお……」

 乳の香りが男を酔わせ、なかば夢見心地で乳の愛撫を堪能する。 心に余裕が生まれて、縮こまって

いた男根はが伸び、そして春を迎えようとしている。

 「まぁ」

 「こ、これは申しわけごせぇ……」

 「何をおっしゃてます。 絶えて久しき男を、奮い立たせるは女の誉れ。 さぁ、錆を落として進ぜ

ましょう」

 お浜は男を上に抱えたまま、器用に腰をくねらせる。 お浜の『貝』が、力を振り絞って起立する男根を、

優しく挟み込みんでヌメヌメとした陰襞を伸ばし始めた、蛤が砂地を這うように。

 「あぁ……」

 お浜の『貝』は、中から粘つく愛液を噴出し、男根を絡めとって奥へ引きずり込む。 そして、男根全体を

ヌルヌルと陰唇で磨き始めた。 枯れ果てていたはずの『男性』が、たちまち赤銅色の輝きを取り戻す。 

 「お、お浜様ぁ……」

 「ああ、固くて熱い……私も慰めてくださいまし」

 男は、感じるままにお浜を愛する。 頭を挟み込む乳を吸って、軽く歯を立ててみた。 するとお浜の体が

振るえ、『貝』がより強く男根を吸いたてる。

 「おぅ……」

 若い男なら当に果てていたろうが、彼の年が幸いし男根はなかなか逝かない。 むしろお浜の喘ぎが

熱くなっていく。

 「あっ……あっ……あーっ」
 甘い声で鳴いたお浜の乳首から、ドロリとした白い乳が激しく噴出し男を白く染める。 いや、これは乳

なのだろうか?

 「お、お浜さま……」

 「あぁ……良い心地になってきたでしょう」

 「ああ、頭がぼーっとして……馬鹿になっていくようすだ……」

 「心配なさらないで……さぁ、もっと磨いてあげましょう」

 お浜の来ている白い着物、その端がウネウネと蠢きながら広がり始めた。 そして、男の背と床の間に

滑り込んでくる。

 「こ、これは……」

 「『貝姫』の着物は体の一部、ただを変えているだけですの。 さぁ、私の乳で磨いて差し上げましょう」

 『着物』は男を包み込み、お浜と男を一つに包み込んでしまう。 お浜は、甘い喘ぎを漏らしつつ、乳を

吐き出して男を濡らす。 そして乳に濡れた体を、ヌメヌメした感触の『着物』、いや『お浜』の一部が絶え

間なく愛撫する。

 「おおおおぉ……おぉぉぉ……」

 言葉も意思も失ったカの様に、喘ぎを漏らすことしか出来ない男。 それを、お浜は丁寧に、しかし

容赦なく磨き上げつづけた。 たまらず男はいってしまう。

 「あ!」

 トクリ……

 ひとかけの精が、お浜の中に漏れる。 しかし、お浜は愛撫をやめない。 

 「は……あ? あぁ……」

 お浜の愛撫には、男を奮い立たせる力があるのか、前にも増して男根が張り詰める。 二人は時も

忘れてまぐわい続けた。


 ヒクヒクヒクヒク……ジュブリ……

 座敷の真ん中に、でんと座った大きな蛤、そのの中から一人の男が吐き出された。 蛤は煙に

包まれたかと思うと、着物姿のお浜に変わる。

 「これ、シジミ衆」

 『あーいー』

 とてとてと五人の稚児がやってきて、白い乳でびしょ濡れの男を抱え、湯殿に運んだ。 そして、男に

湯をかけて洗い流す。

 そこにお浜がやってきて、気を失った男の顔を覗き込む。

 「ほんに、磨きがいのあるお方」

 初老だった男の顔からは、皺やしみがきれいに消え、二十かそこらの溌剌とした若者の顔に変わって

いた。

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