電子妖精セイレーン

フェスティバル(5)


 「地獄へ落ちろ!!」

 ”メイドン・ミッソール!!”

 お約束地蔵とメイドンガーは、戦いを続けながら学内の方に移動していった。 おかげで、校門から少し入った所までゾンビ学生がいなくなり、そこまでは

エミたちが侵入できた。 しかし、戦闘が校舎向こう側まで行ってしまうと、別の方角からゾンビ学生が現れて迫ってくる。

 「仕方ないわね。 ここからは、飛べる奴が他のメンバを抱えて、実験棟を目指しましょう」

 そう言って、エミがミスティとスーチャン、『赤い羽根の死天使』スティッキーが麻美を抱え、『羽衣』のクラゲ娘がヤシガニ姫を抱えた。 するとヤシガニ姫

直属のヤシガニ・シークレットサービスが、ハサミを鳴らして騒ぎだした。 自分たちも同行するという意思表示らしい。 仕方なくクラゲ娘がヤシガニ達を

拾い上げる。 はた目から見ると、でっかいクラゲがヤシガニを捕食しているように見えた。

 「待ってください。 僕も連れてってください」

 太鼓腹が小太りの体を揺らしながら走って来た。 でっかいヘッドホンをつけており、これで『セイレーン』の歌が聞こえない様にしているらしい。

 「貴方が付いてきても、出来ることはないわ。 むしろ貴方の護衛に回す分、手が足りなくなるわ」

 身もふたもないエミの言葉だが、太鼓腹はあきらめない。

 「『セイレーン』がこうなったのも、僕の責任です。 それに『セイレーン』の事を知っている人が不可欠でしょう」

 必死な様子の太鼓腹に、エミは少し表情を和らげる。

 「貴方の言うことも一理あるわ……けどあなたを連れていける人がいないわ」

 「ワタシが、ハコボウ」

 そう言ったのは『牙』の虎娘。 太鼓腹の体を肩に担ぎあげる。

 「コレデ、ハネテイコウ」

 「お手数をおかけします」

 肩の上から、太鼓腹が手を合わせて虎娘に礼を言う。

 「よし。 準備よろし? 私が先導するから、飛べる娘はついてきて。 虎娘と猫娘はジャンプでゾンビ学生のいないところを選んで来て。 クラリス(『窓辺』

のクモ娘)はと届きそうな校舎に糸を張ってきて」

 『残りはどう動けばいいの?』

 ほかの人外部隊が手を上げる。

 「スライム系は、クラリスの糸を辿ってきて。 残ったものは者は、徒歩でゾンビ学生の手薄なところを突破! 以上、行動開始」

 掛け声とともに、エミが翼を全開にして走り出す。 二人も抱えているので、勢いをつけないと飛べないのだ。

 「それ〜♪ 行け〜♪」 エミに抱えられたミスティが応援する。

 「やかーしぃ」

 一声上げ、エミはわずか地面すれすれに飛びたった。 翼をはためかせ、なんとかゾンビ学生の群れの上に出る。

 「じゃ行こう」 軽いノリでスティッキーが続く。

 「……」 無言でクラゲ娘が地面を離れ、ふよふよと宙に浮かび上がった。

 「デハ、マイル」

 ズンと鈍い音を立てて、虎娘が飛び上がった。 人ひとりを抱えたまま、校舎の三階辺りまで飛び上がっている。

 「ではまいるにゃ」

 猫娘が飛び上り……校舎の壁に激突した。 『大』の字の形に壁に張り付き、ずるずると落ちてくる。

 「んじゃ、あたしらは貴方についてくから」 スライム系を代表する形で、『ランプのせい』のジーニーズがクラリスの肩を叩いた。 クラリスは、校舎の三階の

ひさしに糸を放ち、するすると登っていった。

 
 「さーて、私らはどうしたもんか」 と蛇女将(『骨喰いの宿』)が呟いた。

 残ったの空が飛べず、ジャンプもできない者ばかり。 岩女(『珠』回娘)や、赤河童(『骨喰いの宿』)辺りはそこそこに力もあるから、ゾンビ学生の一人や

二人は突破できるが。

 「また、ゾロゾロと出てきべ、百人はおろうかよ」 赤河童が、うっとうしいと言わんばかりの顔で言った。

 『……しかし見事に揃ったゾンビダンスですねぇ』

 『ほんとほんと』

 声を揃えて感心しているのは、学生たち(シェア)と水商売っぽいお姉さんたち(ゆうわく)だ。 精神や肉体が一度、同化しているためか、全員同じような

思考になるらしい。

 『あのダンスを真似たら、仲間だと思ってくれないかな?』

 残った全員が顔を見合わせた。

 『試してみよう』

 シェア学生たちが、一斉にゾンビダンスを始めた。 マスゲームと見まごうほど見事な動きで、踊りながらゾンビ学生の群れに近づいていく。

 ウガ? ウガー?

 ゾンビ学生たちは、戸惑ったように動きを止めた。 それを見たシェア学生たちも動きを止める。 しばしの後、ゾンビ学生たちがダンスを再開し、続いて

シェア学生たちもダンスを再開する。 そのまま両者はまじりあい、そして分かれていった。

 「あら、上手くいった」 と蛇女将。

 「では、我らも続こう」 と雲水(死人茸)が錫杖を鳴らす。

 かくして、残りの全員がウガーウガーと言いながら、ゾンビ学生の間をすり抜けていく。 一部、踊りの下手な者が(猫娘)が襲われたりしたが、大半はゾンビ

学生の突破に成功した。
 

 一方、エミたちは実験棟にたどり着いていた。 スティッキーの言った通り防火扉が開いていた。 しかし辺りには、ゾンビ学生が集まり始めていた。 中に

入ってしまったものもいるようだ。

 「ちっ!」 エミは舌打ちした。

 「どーするの〜♪」 能天気に尋ねるミスティ。

 「降下して出入口を確保、内部に突入する! スティッキーと麻美さん、ミスティは出入り口を守って。 後から来るメンバを誘導! 残りは内部に突入して、

中のゾンビ学生を排除!」

 「ほーい」 スティッキーが片手をあげる。

 「……」 クラゲ娘がふよふよと体を揺らした。

 「必殺、ミスティ・ダイブ!」

 「ヒェェェェ」

 エミは急降下しながらミスティを投げ落とす。 狙いははずれず、入り口前に群がるゾンビ学生が、ミスティに巻き込まれる形で跳ね飛ばされた。 それに

続く形で、スティッキーが麻美を投げ落とし、こちらは顔面からゾンビ学生たちに突っ込んだ。

 「あたしらは爆弾じゃないわよ!」

 地面に座り込んだ麻美が文句を言う。 その間に、クラゲ娘はゾンビ学生たちの頭上からヤシガニ達を投げ落とす。 ガンガンと音を立て、ヤシガニが

ゾンビ学生の頭にぶつかる。

 ウゲー! グワー!

 たまらずひっくり返るゾンビ学生たち。 空いたスペースにエミとクラゲ娘が降り立ち、スーチャンとヤシガニ姫が地面に下ろされた。

 「ありがとう」

 「ありがとうございます」

 頭を下げるスーチャンとヤシガニ姫を急き立てて、エミは実験棟の地下入り口に入った。

 ウガー!!

 案の定、なかからゾンビ学生が掴みかかってくる。

 「無礼な!」

 ヤシガニ姫がそこらにあったモップを振りかざし、ゾンビ学生をなぎ倒した。 続いてエミが、ゾンビ学生を抱え上げて外に放り出す。

 「ふんぎゃあ」 入り口に立っていたスティキーがゾンビ学生とぶつかり、悲鳴を上げた。

 「あら、ごめんなさい」 エミが誠意のこもらない言葉で謝った。

 「気をつけてよ、もぅ……きゃぁ!」

 文句を言っている間に、スティッキーに起き上がったゾンビ学生が掴みかかって来た。 抵抗しているが、ゾンビ学生の方が優勢だ。

 ウガー……ギャァァァァ!!

 悲鳴を上げて、ゾンビ学生が飛び上がった。 よく見ると、股間の辺りにヤシガニがぶらさがっている。

 「うっわー……」

 エミが顔をしかめた。 ヤシガニたちが、低い位置からゾンビ学生たちの『急所』を攻撃しているのだ。 ヤシの殻すに穴を開けるヤシガニのハサミ。 

これで急所を挟まれたのでは、いかなゾンビ学生と言えどもたまったものではない。

 「おお、逃げていく」

 潮が引く様にゾンビ学生たちが逃げ去り、空白地帯ができた。 そこに太鼓腹を担いだ虎娘が着地する。

 「ツイタゾ」

 返事がない。 太鼓腹は完全に目を回していた。 虎娘は太鼓腹をその場に下ろし、活を入れた。

 「うーん……はっ!」

 太鼓腹は何度か瞬きし、這いつくばったままあたりを見渡す。

 「つ、ついたんですね」

 よろよろと立ち上がり、地下の入り口に入ろうとする。

 「大丈夫なの? 無理しない方がいいわよ」

 麻美が心配そうに言ったが、他の面々は関心がない様子だ。

 「行きます。 僕が行かないと……」

 よろめきながら実験棟に入っていく太鼓腹を、麻美は感心した様子で見送った。

 「けっこう、かっこいいじゃない」

 
 そのころエミたちは、地下に突入していた。 いくつかの研究室の扉が開き、中からゾンビ学生が現れる。

 ウガー!!

 「うっとーしぃ」

 迫ってくるゾンビ学生ののど輪を掴み、地面に押し倒すエミ。 じたばたとゾンビ学生はもがいている。

 「えい」

 スーチャンがバケツで学生を叩いた。 音は大きいが、効果はないようだ。

 「スーチャン、ヒモを探してきて。 縛っちゃおう」

 「はーい」

 スーチャンがヤシガニ姫と研究室に入る。 それと入れ替わる様に、別の研究室からもゾンビ学生が現れた。

 「思ったより数がいる。 まずいわね」

 エミは一つ息を吐くと、押し倒したゾンビ学生を踏みつけ、迫ってくるゾンビ学生に対峙した。
   
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