電子妖精セイレーン

フェスティバル(4)


 麻美が『骨喰いの宿』の女将を連れてきた。 その後ろに赤河童や、水飴娘、綿あめ娘が続いている。 彼女らは大学正門近くにTVとビデオを設置し、

携帯発電気へ繋いで、ビデオを再生する。

 ザザッ……

 一瞬の砂嵐の後、TB画面の真ん中に井戸が映り、そのななから白無垢を来たザンバラ髪の女が……

 「遅い!」

 エミはいきなりTV画面に手を突っ込み、井戸の女ののど輪を掴んで引きずり出した。

 「いい? いまからあんたをあの大学の警備室に送るから、防火扉を……えーと、扉の開閉はどうなってます?」

 エミはふり向いて、電気科部長に尋ねた。 茫然自失の体で事の成り行きを見ていた電気科部長は、いきなり質問され、面食う。

 「あ、ああ。 火災報知器を解除し、防火扉とかかれたスイッチを全て、閉から開に切り替えればいい」

 「了解。 いいわかった?」

 井戸の女はエミの勢いに呑まれ、コクコクと首を縦に振る。 エミは彼女をTVの中に押し戻し、TVのスイッチを切った。 その間に、麻美が校門の上の

監視カメラからケーブルを外し、エミの処まで戻ってきていた。

 「つながらないみたい」

 「屋外向けの防水端子加工してあるわね。 だれかもこれをビデオに繋げられる?」

 辺りにいた学生の一人が手を上げた。 太鼓腹だ。 かれは、リュックからカッターとビニールテープを取り出し、あっという間にビデオとケーブルをつない

でしまう。 エミはすぐにビデオの再生ボタンを押した。

 …………辺りが静まり返る。

 「これで、本当に監視室に井戸の女が出てくるの?」 麻美が独り言のように尋ねた。

 「多分」 エミが自信なさそうに答えた。

 「どーれ」

 ミスティが前に進み出てケーブルを手に取り、耳をあてる。

 「おお、動いている♪」

 「え?」

 エミがミスティからケーブルを受け取り、耳をあてた。

 ズリッ、ズリッ、ズリッ…… 何かが這いずるような音が、ケーブルから聞こえてくる。

 「……急げ!!」 エミがケーブルに怒鳴った。

 
 「よし、私たちは彼女が防火扉を開く直前に構内に突入、飛べる者は何人か抱えて私についてきて、残りは校門から突入、ゾンビ学生を排除して実験

棟まで来て」

 エミが言うと、その場にいる『人外部隊』の何人かが手を上げた。

 「全員いかなきゃだめ?」 と小柄な女の子、『雪童』が尋ねた。

 「人手が多い方がいいからできるだけ来て欲しいの。 『セイレーン』のスイッチにたどり着くまで、どんな障害があるかわからないから」

 「障害の数を減らしてもいいか?」

 岩女(貝娘)が尋ねたが、エミは首を横に振った。

 「減らすのも、捕食するのもダメ」

 「お持ち帰りは……」

 「もっとダメ」

 『えー』

 あちこちから不満の声が上がる。

 「……後で学校の方から報酬がてるようにしますから。 いいですね学長」

 「ええっ?」

 いきなり振られた学園長が動揺する。

 「同意しないと、騒ぎが収まりませんよ」

 「……しかたない。 なにがしかのお礼が出るよう『善処』しよう」

 「『確約』してください」

 「……わかった」 学長はしぶしぶ頷いた。


 「門が開いたよ」

 上から偵察していた『赤い羽根の死天使』スティッキーが知らせてきた。 エミは『人外部隊』を引き連れて、大学の正門前に移動する。 その時エミは、

スーチャンが混じっているのに気が付いた。

 「スーチャン、今回はお留守番しててね」

 エミがそう言い、ミスティも同意した。 しかし、スーチャンは首をぶんぶんと横に振る。

 「スーチャンも行く! 『セイレーン』ちゃんはお友達だもの!」

 「うーん……でもねぇ。 これから先は危ないし……」

 『え?』

 何人かが足を止め、エミは慌ててフォローする。

 「いや、使い魔は『セイレーン』の歌に抵抗しきれないからって意味で」

 「耳栓、していくもん!!」

 「でも、力がないでしょ? 中には変になったお兄さんだらけだし……」

 「……そーだ、あれ! 前に乗ったロボット! あれ使おう!」

 「ロボット? そんなのあったっけ……」

 エミが首をひねっていると、麻美が助け舟を出す。

 「学園祭の時に展示していた『メイドンガー』の事じゃないの? 緑川教授の研究室で作っている」

 「ああ、そう言えば……」

 『メイドンガー』とは、麻美の言う様に緑川教授が作ったメイド用ロボットの試作機である。 もっとも、身長が5m以上もあり、家の中に入らないので、今の

ところは屋外の作業しかできない。 学園祭の時にはドーザーブレードを装備し、土木作業のデモンストレーションを行っていた。 後でスーチャンがそれに

乗り込み、暴走させてしまったという経緯があった。

 「あれをまた無断借用するの? でも今どこに押してあるか……」

 ドドンガー!! ドドンガー!! メイドンガー!!!

 突然、正門の方が騒がしくなってた。 驚いてそちらを見ると、今話題になっていた『メイドンガー』の上半身が、塀の上に見えたいた。

 「な、なに? どうしたの」 驚くエミ。

 ドドンガー!! ドドンガー!! メイドンガー!!!

 『メイドンガー』が正門のすぐ向こうに現れ、ゾンビ学生に交じさてゾンビダンスを踊り始めた。

 「……緑川教授! どうしてあれが動いているんですの?」

 大河内生徒会長が、教授連の中にいた緑川教授を詰問する。

 「どうやら『セイレーン』とやらに乗っ取られたようだ……うむ、さすがにわしの作ったロボット、人間並みに操られるとは」

 「自画自賛しないでください! 止められないんですか?」

 「無理じゃな」

 言い放った緑川教授の横で、エミが頭を抱えた。

 「これじゃ、正門から入るのは無理ね」

 「徒歩組は、他の門にまわる?」 

 麻美の質問に、エミは考え込む。

 「他の門に回っても、あのロボットが先回りするかも……しかし、あれを突破するのは……」

 ドドンガー!! ドドンガー!! メイドンガー!!!

 名前こそメイドロボだが、『メイドンガー』は直立したパワーショベルのようなゴツイ機械で、それが鉄製のドーザブレードを振り回している。 はっきり

言って下手な兵器よりよほど危ない。

 「正面からぶつかっても勝ち目はないか……」

 「この地蔵にまかせるがよい。 あの人形に道理を説いて見せようぞ」

 そう言って、『お約束地蔵』が前に進み出た。

 
 ドドンガー!! ……?

 『お約束地蔵』が大学正門から中に入った。 それを『メイドンガー』のセンサーが捉え、動きを止める。 

 「これ、そこな人形よ。 われらは道を外れた行いを正すために来たのじゃ。 道理を悟り、道を開けるが良いぞ」

 淡々と話す『お約束地蔵』の前で、『メイドンガー』は聞き入るかのように動きを止めている。

 「流石はお地蔵様ね。 ロボットを説き伏せるなんて」

 「どうやらここは無事に……あら?」

 『メイドンガー』のセンサーがチカチカと瞬き、スピーカーから合成音声が響いてきた。

 ”分析……分析……岩石……”

 『メイドンガー』がやおらドーザブレードを振りかぶった。

 ”岩石……排除!!”

 ドーザブレードが唸り歩あげて襲い掛かる! それを『お約束地蔵』は、手にした錫杖でがっしりと受けためた。

 「おのれ!! この地蔵をこともあろうに石くれ扱いするとは、成敗してくれようぞ!! くらえ!地蔵光線!!」

 裂獏の気合と共に、錫杖から輝くビームが放たれた。

 ”ドーザブレード・ブロック!! 対ガンセキ・ミサイル!!”

 『メイドンガー』はドーザブレードでビームを遮り、腹部からミサイルを撃って応戦する。

 「地蔵電撃!!」

 ”メイドン・ファイアー!!”

 「必殺、地蔵落とし!!」

 ”メイドン・ビーム!!”

 正門のすぐ向こうで壮絶な戦闘が始まった。

 「……どうする? エミさん」

 「ここはお地蔵さまに任せましょう」

 肩をすくめたエミは、背後の人外部隊を振り返る。

 「……」

 戦闘に恐れをなし、半数が姿を消していた。
   
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