電子妖精セイレーン

変異(10)


 『あん……ああっ……』

 白い部屋の中に『セイレーン』の嬌声が響く。 エミが『セイレーン』を抱きしめ、敏感な部分を愛撫しているのだ。 ただし、さっきまでと違い、きわめてソフト

に愛撫している。

 『サァ……ヤッテゴラン……』

 エミが『セイレーン』の手を自分の胸に導いた。 赤いナメクジの様な指が、柔らかな丘の中央を目指して這いずり出す。

 『ソウ……ユックリ……ヤサシク……』

 エミは『セイレーン』を抱きしめつつ、自分から下になって『セイレーン』を誘う。 豊満なエミの肉体の上に、赤い少女の体が重なった。

 『ふかふか……』

 『セイレーン』が呟くと、エミが頷く。

 『ソウ……コウヤッテ、体デ受ケテ誘ウノ……』

 しなやかな四肢を『セイレーン』の体に絡みつかせたエミは、背中の翼を広げて、自分ごと『セイレーン』を包み込んだ。

 『うわぁ……』

 体を包み込む絹のような感触に、『セイレーン』が声を上げる。

 『コウスルト、安心デキルデショ?』

 『うん』

 『体ヲ包ンデ、安心サセ……愛撫デ感度ヲ上げ高メテイク……』

 そう言いながら、エミは手で『セイレーン』の秘所を優しく擦る。 さっき絶頂を迎えたそこは、まだ熱く潤っていた。

 『ひゃぅ……』

 『ワタシモ……ネ?』

 エミに求められ、『セイレーン』はエミの秘所を触ってみた。 そこは淫らに濡れた肉の花弁が蠢き、中央から蜜が溢れている。

 『凄い……』

 圧倒されながらも『セイレーン』はエミの秘所をなぞり、宝珠に手を吸いつかせる。 スライム化している『セイレーン』の手は、エミの宝珠に粘りつき、ヌメヌメ

と這いまわった。

 『クウッ』

 エミの秘所が蠢き、『セイレーン』の手を引き込もうとする。 その動きに驚いた『セイレーン』は、手を引きかけた。 しかし気合を入れなおすと、思い切って

エミの胎内に手を突っ込んだ。

 『ウッ……』

 『わぁ……』

 エミのそこは、魔性の生き物の口の様であった。 歯こそないものの、獲物を捕らえ、奥へ引きずり込もうとする。 熱い涎のような愛液が、『セイレーン』の

手を濡らし、痺れさせる。

 『すごぉぃ……』

 『ソウヨ……コレガ男ノ子ヲ虜ニスル、魔性ノ花。 覚エテオイテ』

 『はい! 先生!』

 
 「あー……そろそろ戻ってきて……ってどうすればいいの」

 おろおろする麻美の隣には、サキュバスの正体を見せたエミが座っている。 角と尻尾と羽が生え、目が金色に光っている。

 「せめて羽だけでも引っ込めて……」

 コウモリのな羽は、その先がネットカフェのブースの囲いから大きく飛び出していて、そのうち誰かが気が付くことは間違いなかった。

 「ねぇ、まだ終わらないの」

 耳元で囁いてみたものの、エミの眼は焦点が合っておらず、彼女の意識がここにない事は明らかだった。 

 「えーん、どうしよう……逃げ出す……わけにはいかないわよね。 誰かに連絡……てっ、一番頼りになる人(?)がおかしくなってるのに……」

 頭を抱える麻美だった。 率直に言って、この事態はエミの責任だといえよう。 危険な実験を行うのだから、不測の事態が起こる可能性を考慮し、その

場合の対処方法を教える、または考えさせておくべきだったからだ。

 「……フゥ」

 唐突にエミの意識が戻り、ヘッドセットを外した。 ただ、サキュバスの正体を現したままではあったが。

 「え? ああよかったぁ……ちょっとエミさん! 羽と角と尻尾! 早くしまって!」

 麻美は声を殺し、強い口調でエミに正体を隠すよう言った。 いつものエミだったら彼女の言に従っただろう。

 「エ? アア……フム」

 エミは首を傾けて麻美を見た、金色の瞳で。

 「急いで、他のお客さんが気が付く前に……ってなに」

 エミが身を乗り出し、麻美に迫ってきた。 麻美は距離を取ろうとしたが、狭いブースの中では逃げようがない。

 「ちょ、ちよっと?」

 「イイ機会ネ。 アナタニモ、男ノアシライ方ヲ伝授シテアゲマショウカ……」

 エミの口元に、淫靡で邪な笑みが浮かび、瞳の光が強くなる。

 「ひ!?」

 危険なものを感じ、身を固くする麻美。 同時に彼女の体に赤く光る複雑な文様が浮かび上がった。 麻美が魔女である証、魔法の力を発動させる『呪紋』

である。

 「アラ『呪紋』? ヤル気アルノハイイコトネ」

 「ち、違うわよ! お、落ち着いてよエミさん。 いつもの貴女じゃない!」

 「ウフフ……コレガ本当ノワタシ……アナタニモ、本当ノ自分ヲサラケ出サセテアゲル……」

 エミの口元に赤い舌が覗き、それをみた麻美の背筋に寒気が走る。 麻美は、男性経験はもとより、使い魔たちから精気をもらい受けるための、女性経験

も……ないわけではなかった。 しかし、エミのような真正の魔物と経験は皆無だった。 麻美は身を守ろうと、エミのハンドバックを両手でかざした。 ハンド

バックの口が開き、中身が床にこぼれ落ちる。

 キラリ

 「アッ!?」

 床に落ちたモノの一つが光を放ち、エミが手で顔を覆う。 その隙に、麻美は身をひるがえして反対の隅に身を寄せる。

 「……エミさん?」

 手を下ろしたエミの瞳が、人のそれに戻っている。 気が付けば、角、尻尾、翼も消え失せていた。

 「戻ったの? よかった……でもどうして?」

 エミは返事をせず、床に散らばったものを集める。 その手が光を放ったモノ、『鏡のカケラ』のところで一瞬止まる。

 「……」

 エミは『鏡のカケラ』を拾い上げて、ハンドバッグにしまった。 それから、髪をかき上げて麻美に向き直る。

 「ごめんなさい」

 「あー。 うん、いいわ。 でも、何があったの?」

 「どうも、自分を見失って……いえ、サキュバス化への制限が掛からなくなったような……」

 エミは顎に手を当てて呟いた。 麻美に説明していると言うより、自問自答しているようだ。

 「あの白い部屋……あそこにいた『セイレーン』って子は、いったいなんなの? いえ、私に何が起こっていたのか……」

 「あ、あのー……考えるのは後にして、ここから出ませんか?」

 麻美は、またしても別の世界に行ってしまいそうなエミを引き留め、撤退を提案した。

 「……そうね」

 エミは同意し、パソコンを操作して履歴を消去すると、ブースの扉を開いた。

 『……』

 扉の向こうには、店員と店の客全員が立っていた。 ついでにアソコも立っているところから、エミと麻美のドタバタを聞いて集まって来たものと推測された。

 ゴホン!!

 エミが咳ばらいをすると、頭を掻きながら全員が散る。

 「さ、帰るわよ……どうしたの」

 真っ赤になった麻美が、泣きそうな声で言った。

 「私……もうここには二度と来ない」

 
 『……ふむ』

 『尻尾に角に羽……』

 『おっぱいが大きくて……』

 『ボッ、キュン、ボン……』

 『……』

 『……できたぁ!!』

 『セイレーン』は新しい技を覚えた。
  
【<<】【>>】


【電子妖精セイレーン:目次】

【小説の部屋:トップ】