電子妖精セイレーン

変異(8)


 ”〜♪〜♪”

 エミのヘッドセットから、『セイレーン』の歌声が微かに漏れ聞こえる。

 「……」   麻美は自分の腕を握りしめ、眉を寄せている。

 「……面白いわね」 エミが呟いた。

 「え? エミさん、大丈夫なの?」 麻美が驚いたように言った。

 「ええ。 何かが入ってこようとしているみたいだけど、気を強く持っていれば入ってこれないみたい」

 エミは、ヘッドセットをつけた腕組みをした。

 「なんだ……それを聞いたら、心を支配される『催眠音波』みたいなモノかと思っていたけど、その程度なんだ」

 麻美が言うと、エミが首を横に振った。

 「さてどうかしら。 私は男を誘惑する力、いわば『攻撃力』があるわ。 ひょっとすると、同じように私を『誘惑』してくる力に対して『防御力』が備わっているのかもね」

 麻美は、改めてエミの顔を見て、そっと唇をかんだ。 普段は友人のように接してくれるエミだったが、今日の様な時には自分が頼りない後輩のように見られている、そう感じる

麻美だった。

 ”ねえ……遊びに来ないの?”

 『セイレーン』の声がパソコンから聞こえてきた。 エミに自分の『歌』の効果が発揮されないことを、不審に思ったようだ。

 「ごめんなさい。 ヘッドセットの調子がおかしくて、よく聞こえないの。 少し待ってくれる?」

 エミはPC画面の『セイレーン』に笑いかけると、ヘッドセットを被りなおした。

 「今度は大丈夫と思うわ」

 ”うん! 〜♪”

 再びヘッドセットから『セイレーン』の声が聞こえ始め、エミがビクリと身を震わせた。

 (……強引に突っ込まれる時みたいね。 無理に拒まず、力を抜いて受け入れ、誘導してあげれば……)

 エミは抗うのをやめ、『セイレーン』の歌を受け入れる。 歌に引き込まれる、意識がブラックアウトしていく。

 (さて、鬼が出るか、蛇が出るか……)

 
 ……?

 エミは、自分が真っ白い小部屋にいることに気が付いた。 白い床に座り込んでいて、体にぴったりした黒いワンピースを着ている。

 (スーチャンから聞いていたのと同じね……)

 『やぁ、お姉ちゃん!』

 元気のいい声が聞こえた。 そちらを見ると、PC画面に映っていたのと同じ姿の少女妖精『セイレーン』が窓からこちらを覗いている。

 『こんにちわお嬢さん。 入ってきなさい』

 エミがそう言うと窓が音もなく開き、そこから『セイレーン』が中に入って来た。

 『えへへ……』

 『セイレーン』は照れたように笑うと、エミの傍に座り、甘えるように身を寄せる。

 『あら、甘えん坊さんね』

 エミは微笑むと、『セイレーン』をそっと抱きしめた。 『セイレーン』はピクリと震えたが、そのまま大人しくしている。

 『初めまして、お嬢ちゃん。 私はエミよ』

 エミが自己紹介すると、『セイレーン』は、クリッとした目をエミに向け、戸惑ったような顔になった。

 『あなたのお名前は? 『セイレーン』で良いのかしら?』

 『うん、『セイレーン』がボクの名前……っと、『ボク』で良いのかな?』

 『あら? どうして?』

 『うん、『ボク』って言うと、嫌がる人もいるんだ。 『ボクッ娘』は趣味じゃない!……とか言って』

 『まぁ? そんな人がいるんだ。 エミは『セイレーン』が自分を『ボク』って呼んでも嫌じゃないわよ』

 そう言って、エミはにっこり笑う。 すると『セイレーン』も嬉しそうに笑った。

 『えへへへ……』

 (スーチャンより幼いような感じがするのは気のせいかしら? それとも姿が少女だから……)

 エミは『セイレーン』の反応に予想外のモノを感じ、疑問をぶつけてみることにした。

 『ね、あなたは何者でどこから来たの?』

 『? ボクは『セイレーン』だよ、みんなそう呼ぶもの。 どこから来たのって……ボクはどこにも行っていない。 動いていないもの』

 『ふーん? そうなんだ』

 『セイレーン』の答えはエミが望んだものとは違ったが、あえて彼女はそこを指摘せず、その回答の意味を考えた。

 (『みんなが』ということは、彼女の周りに誰かがいるということ……では『動いていない』とは……)

 『んー、ねぇ』

 『セイレーン』がエミの腕を引っ張り、エミは彼女を見る。

 『つまんない、楽しいことして遊ぼうよ』

 『あ、ごめん。 楽しい事って、どんなことしようか』

 『うん、アソコの触りっことか、舐めるのとか、入れるの……あ。でも女同士だと無理なんだっけ』

 いきなり過激になった少女『セイレーン』に、さすがのエミも引きつった。 しかしエミはサキュバスで、人外との遭遇経験も豊富だ。 少女の姿をしていても、中身は女の魔物と

言う存在には何度も出会っている。

 『出会っていきなりそう言うのは……さすがにお姉さんもびっくりだな』

 『そ、そうなの? いやー、ボクって経験少ないから……そーだ、お姉さん。 どうするのがいいのか教えて』

 『え?……うん……』

 生返事をしたエミだったが、彼女も魔物。 人間のモラルはない。 相手が少女の姿をしていても、いざとなれば躊躇はしない。

 『いいわよ……そうね……女の子同士の場合は、ソフトに始めるのがいいわね』

 『ソフト?』 『セイレーン』が首をかしげた。

 エミは頷くと、纏っていたワンピースをするりと脱いだ。 均整の取れたグラマラスな肢体が露になる。

 『わぁ……』 『セイレーン』が感嘆の眼差しで笑みを見る。

 『あなたも脱いで……』

 囁く様に言うと、『セイレーン』はエミに誘われるままに纏っていた薄物を脱いだ。 こちらは健康的な精少女の肢体が露になる。

 『きれいね……』

 『そ……そう?』

 はにかむ『セイレーン』に、エミは蕩けるような笑顔を向ける。 それを見た『セイレーン』は、吸い込まれるようにエミの腕の中へと入った。 柔らかな乳房が、『セイレーン』を

受け止める。

 『わぁ、大きい……』

 『大きくて柔らかいでしょう……ほら』

 エミは『セイレーン』の顔を自分の胸に迎え入れる。 乳房が自在に形を変え、『セイレーン』を受け止める。 『セイレーン』はうっとりした様子で、乳房に顔を埋める。

 『すごく……安心する』

 『そうよ……女の子だけでなく、男の子でも、こうされるとすごく安心するのよ』

 『そうなんだ……』

 半ば夢心地で『セイレーン』は応えた。

 『こうやって安心させるの……それから体を優しく撫でるの……こんなふうに』

 そう言ってエミは『セイレーン』の背中を撫ででやった。 彼女の背には、カゲロウのような羽が生えているが、エミはそれを触らないように注意しながら、背を優しく撫で続ける。

 『ふわぁ……』

 猫のように喉を鳴らす『セイレーン』に微笑みかけ、エミは彼女の唇をついばむ。 軽く触れ、離れ、また軽く触れる。 そうやって、何度も何度も唇を重ねる。

 『……ん……』

 じれったくなったのか、『セイレーン』の方から唇を求めてきた。 エミはそれに逆らわず、彼女のさせたいようにする。 そうしながら彼女の体を弄り、反応を確かめていく。

 『お姉ちゃん……上手……』

 『セイレーン』の言葉にエミが笑う。

 『難しいテクニックじゃないのよ。 こうやって触れて、嫌がるところさけて、感じる所を探していくの……感じる所が判ったら、そこを撫でて、その周り、そしてまたそこ。 優しく、

軽く、何度も、何度も……』

 『あ……』

 『セイレーン』はため息のような喘ぎを漏らし、エミにしがみついて震えた。

 『ふ……よかったみたいね』

 『うん……』

 トロンとた目つきで『セイレーン』はエミを見た。

 『判る? こうやって相手の人を気持ちよくさせて行くの……』

 『うん……判った……やってみる』

 『セイレーン』はそう言うと、見よう見まねでエミの体を弄り始めた。 素人の手つきではなく、それなりの経験を積んでいることが判る……が、女向けの愛撫ではない。

 『ずっと男の子が相手だったんだ』 エミが言った。

 『判るの?』 『セイレーン』が尋ねる。

 『ええ……女の子相手の時は……ここが感じるの……』

 エミはそう言うと、『セイレーン』の青い蕾に手を伸ばした。 軽く触れるか否かのギリギリのところで、指先を秘裂に這わせていく。

 『そこは……あ……』

 『こうやってゆっくり触られると……ほら……ね』

 エミは指先に湿り気を感じた、それに伴い『セイレーン』が足をすり合わせ始めた。

 『こんなの……初めて……』

 『ふふ……もっとよくしてあげる……』

 エミが妖艶に笑う。 獲物を狙う魔性の女の笑みだった。
  
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