電子妖精セイレーン

変異(5)


 乳房を掴んだてのひらに、ドロリとした感触が纏わりついた。 指の間から乳房と同じ肌色の粘体が盛り上がって手を包み込む。

 「う、腕が……さっきと同じたぁ」

 『ウフッ……少し変えてみましょうか?』

 彼女がそう言って笑うと、乳房の表面が破れて真っ赤な半透明の粘体が溢れ出した。

 「ひぇ! 人食いアメーバ!?」

 焦る青年の腕を赤い粘体が伝って上がってきた。

 『くふっ……どう?』

 「ど、どうって……」

 『気持ちよくない?』

 「ば、ばか……」

 慌てて否定したものの、ヒヤリとした感触は女の肌のそれと変わらない。

 「なんだよ、これ……」

 腕の動きを止めると、赤い粘体に包まれた腕は、愛撫されているように心地よい。

 『ね……』

 微笑む『セイレーン』の皮膚があちこちで裂け、その下から赤い粘体のような体が姿を現す。

 「……やっぱ化け物!」

 『これは夢……そう言ったでしょう? だから、お好みの姿になってあげたんじゃない』

 「それは……じゃあその姿が本性じゃないんだよね?」

 『ええ……でも……』

 ニマリと『セイレーン』は笑い、手で青年の胸を撫で、真っ赤な粘体を塗り付ける。

 『今は、これが私……』

 胸に塗り付けられた赤い粘体がヒクヒクと蠢きながら、青年の胸を覆っていく。

 「ふぁぁ」

 ヌルヌル、ヌメヌメとした感触は、大きな舌で舐められているかのようだ。

 『ね? いい気持ちでしょう?』

 「あ……」

 返答に詰まった青年に、『セイレーン』は妖しい笑みを浮かべその体を重ねていった。

 
 「ああ……ああっ……」

 『セイレーン』は粘体条の体を、青年の体に摺り寄せる。 ヌルヌルした女体が若々しい体に粘りつき、そのからだをまだらに赤く染めていく。

 「ヌルヌルしてる……」

 喘ぎながら『セイレーン』を抱きしめる青年。 右手は半ばまでが『セイレーン』の中に潜り込み、左手は彼女の背中に深々と食い込んでいる。 『セイレーン』

のほっそりした両足は青年の足に巻き付き、二人の下半身が密着したまま蠢いている。

 『素敵でしょう、この交わり方』

 「ああ……さっきのと違う……」

 半ば夢心地で青年が答えると、『セイレーン』はその頭を胸に抱きしめた。 ぽっちゃりとした半透明の乳房の谷間に、青年の頭がめり込み、そこを中心に

して『セイレーン』の体にさざ波が立つ。

 ムゥップ……ズチャズチャ……

 『セイレーン』の胸元を青年が吸う音が響いた。

 『やん……』

 ビクリと彼女が身を震わし、ズブッと青年の体が彼女に沈む。

 「んぁ……」

 今度は青年が身を震わせた。 わきの下にヌルヌルしたものが張り付き、それがじわじわと背中の方に広がっていく。

 「こ、こんなの……ああ……」

 彼は確かに『セイレーン』を抱きしめ、両腕に彼女の体を感じている。 その一方で、彼の体は『セイレーン』の包み込まれようとしている。

 『んあ……』

 時折『セイレーン』が喘ぎを漏らしているから、彼女も感じているのだろう。 青年は彼女の反応を確かめながら、唇で『セイレーン』の体を愛し、指先で

敏感な箇所らしきものを刺激する。

 『あん……ああん……』

 身をくねらせる『セイレーン』。 それと共に青年の体を覆うヌルヌルの範囲が広がってきた。 青年は頭のなかで、赤い粘体が興奮しながら彼の体を包も

うとしているさまを思い描いた。

 (……気持ちいいけしど……大丈夫だよな?……夢だし……ああっ……)

 湧き上がる不安を、『セイレーン』の愛撫が拭い去っていく。 すでに彼自身は『セイレーン』の中に深々と突き刺さり、マドラーのように粘体をかき回して

いた。 『セイレーン』の中は一様ではなく、半固体の箇所もあればさらりとした油の様な箇所もあった。 その様々な刺激に、彼自身はかたく反り返っていた。

 『ふにぁ……おおきい……』

 本当にそこが彼女の秘所なのか、彼は判断しかねたが、もはや考えている余裕はなかった。

 「うう……で、でるぅ……」

 『いいの……きてぇ……』

 『セイレーン』がそう言うと同時に、彼自身が急っと締め上げられた。 その刺激に、灼熱の解放感が続く。

 「うぁぁぁ……」

 ビクビクビクビクッ

 『セイレーン』の赤い粘体を白く汚し、彼自身が快感に震える。 半拍遅れ、『セイレーン』が歓喜の声を上げた。

 『ああん……熱い……熱いよぉ……』

 ビクビクビクビクッ……

 熱い精を漏らす快感に青年は酔いしれた。

 
 ヒクッ……クタリ……

 「ふう……」

 彼自身が力を失い、その体を気だるい心地良さが満たす。 青年は『セイレーン』に包まれたまま、快感の余韻に浸っていた。

 『……ん……』

 ヌルリと『セイレーン』が身じろぎした。 いったばかりで敏感な体に冷たい肌が心地よい。

 『ん……あ……』

 ヌルリ……ヌル……

 『セイレーン』の動きが次第に大きくなってきた。 単に身じろぎしたわけではなさそうだ。

 「ちょ、ちよっと?……少し休んで……え?」

 フワリとした不思議な感触が青年の体を包んだ。

 「これ…なに?」

 『さっきの、蕩けるやつ……』

 「え……あれ?一回目のあの君の中に蕩けていったような……」

 『そ。あれを今やってあげる……』

 『セイレーン』はそう答え、自分の秘所に手を伸ばした。

 『さ……感じて……』

 ヒクン

 青年の体が震えた。 ピリッとした刺激が股間に走ったのだ。

 「い、今のは?」

 『……伝わった?……『セイレーン』の気持ちいいの……あん……』

 再び体が震えた。 これまで感じたことのない快感に。

 「う……あ……」

 『溶け合いながら……感じさせてあげる……ほら……』

 青年の体を、蕩けるような心地よさが体を包みこんだ。 自分の境界があいまいになっていくようだ。 そこに『セイレーン』の快感が流れ込んでくる。

 「な……あ……」

 『う……はぁ……』

 『セイレーン』は自分自身を慰め、女の子の快感ので青年を蕩かそうとしていた。

 「あ……ぁ……」

 その甘く優しく、そして危険な快感に、体が、そして心が蕩けていく。 いつしか二つの喘ぎは一つになり、密やかに、ためらいがちに白い部屋を満たし……

 『ああっ!』

 長椅子の上で『セイレーン』は赤い肢体をのけぞらせて、絶頂に酔いしれる。 そして青年の姿はもうどこにも見当たらない。

 『……ふぅ……気持ちよかった?』

 ……うん……

 微かな、本当に微かな声がどこからともなく聞こえてきた。

 『よかった……喜んでもらえて『セイレーン』もうれしい……じゃ、またね』

 すうっと部屋が暗くり、全てが闇に消えた。

 
 キィ……

 椅子が軋んだ。 パソコンの前に座った青年は口の端から涎をたらし、焦点の合わない眼で宙を見つめでブツブツと何かつぶやいている。 彼が意識を

回復したのは、それから1時間後の事だった。

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