電子妖精セイレーン

変異(4)


 「カエシテー!!」

 「いけません! こんなもの!」

 珍しくスーチャンがミスティに怒られていた。 スーチャンが人事不省に陥いり、大いに慌てたミスティとエミだったが、幸いすぐにスーチャンが目を覚まし、

ひとまず安どした。 しかしスーチャンから詳しい話を聞き、原因がスマホで妙なサイトにアクセスして『セイレーン』なる少女に会たためらしいと判ると、

ミスティがスーチャンからスマホを取り上げてしまったのだ。

 「こんな危ないモノ、持っていちゃいけません!」

 エミは、ミスティの意外な一面をみつけたなと思いつつ、ここはどうすべきかと考えた。

 (スーチャンの安全を一番に考えればミスティが正しいけど……意識がない間にスーチャンが会った少女が『セイレーン』……そした鉦先生の研究していた

『電気頭脳』も『セイレーン』……偶然かしら?)

 「ウー……エーンエンエンエン!!」

 とうとうスーチャンが泣き出した。 大粒の緑色の涙をぽろぽろとこぼして、大きな声で泣いている。

 「泣いたってダメ……んーダメ……ダメだって」

 ミスティの声のトーンが落ちてきた。 ミスティはスーチャンの身を案じてスマホを取り上げたわけで、彼女をいじめたいわけではない。

 (小悪魔ミスティも、泣く子に弱いか……あら?)

 スーチャンがこぼした涙は、床に落ちるとひょこひょこと足を出してスーチャンの後ろに回り、そこで彼女の体に戻っている。 どうやら本物の涙ではなく、

涙に似せて『分身』しているだけらしい。

 (スーチャンの方が一枚上手ね)

 エミがおかしささを噛み殺していると、とうとうミスティが音を上げた。

 「わーかった、わーかったから泣き止みなさい」

 憮然とした様子で、スマホをスーチャンに渡す。

 「でもいい? そのおかしなサイトにアクセスしたら駄目よ?」

 「ンー……ジャア、他ノオカシナサイトハ?」

 「他のサイトならいいわ」

 「こら、ミスティ。 どこだろうと、おかしなサイトへのアクセスを許可しちゃダメでしょう」

 「……あ、そーか」

 「そーかじゃない。 たよりないわねぇ……いいことスーチャン……」

 説教役がエミに引き継がれ、スーチャンへのお小言ははもうしばらく続くことになった。

 
 ”♪♪♪♪♪♪……”

 『……おおっ!?』

 白い部屋の長椅子の上で、一人の青年が目を覚ました。 グラマラスな美女が彼の横に座り、彼の顔を覗き込んでいる。

 『き、君が『セイレーン』?』

 『うん……違ったわね。 ええ、そうよ』

 美女は長い黒髪を手でかき揚げながら、彼にしなだれかかる。

 『黒髪の巨乳お姉さん……ご希望通りかしら?』

 『セイレーン』は、青年の方に顎を乗せ、甘えるように体をすり寄せる。

 『う、うん……』

 なんとなく気のない返事に、巨乳美女『セイレーン』が首をかしげる。

 『何かご不満?』

 『い、いや違うっ!……ただ、そう、なんか風俗か何かに来たみたいで』

 『風俗?……習慣やしきたりや習わしがどうかしたの?』

 きょとんとする『セイレーン』に、青年は苦笑いする。

 『そうじゃないよ。 その性的サービスをしてくれる店を『風俗』っていうのさ』

 『……ああ……』

 急に『セイレーン』が動かなくなった。 青年は不安になり、彼女の前で手をふってみる。

 『……何?』

 『セイレーン』が瞬きし、青年は愛想笑いでごまかした。

 『い、いや。 急に黙ったから、気分を害したのかなって』

 『いいえ。 気分は害していないわ』 妙な口調で応える『セイレーン』。

 『それで? 他に希望があるの?』

 『んーと……ロマンチックなムードから盛り上がっいって、予想外の展開になだれ込むような』

 『……良く判らないけど……』

 『例えば……そう二人が椅子に腰かけていて、女の方が眠ったふりして誘いをかけて、男がそっと胸元に手を伸ばしていって……』 『ふんふん。 それ

から?』

 『そこから予想外の展開が……』

 『予想外……あら、これかしら?』 あさっての方を見ながら首をかしげる『セイレーン』。

 『???』

 『いいわよ、ご希望通りにしましょう』

 『セイレーン』はそう言って胸元を少しはだけ、ソファに体を預けて目を閉じた。

 『……いいの? いいよね?』

 青年はちょっとまごついたが、すぐに鼻の下を伸ばし、彼女の胸元にそろそろと手を伸ばしていく。 当人はロマンチックなつもりかもしれないが、はた

から見るとただの痴漢行為にしか見えない。

 『か、風邪ひくといけないからね……と、手が滑ったっと』

 胸元に手を差し入れと、じっとりと汗ばんだ肌が手に絡みつく。

 『おおっとゴメン、悪気はないから……いっ!?』

 ズブリ……

 手が『セイレーン』の胸元に潜り込み、グイと引っぱられた。 反射的に反対の手で『セイレーン』の肩を掴む……がそちらの手も彼女の方にズブリと沈んだ。

 『ひええっ!?』

 予想外の展開が予想外過ぎ、青年はじたばたと暴れる。 いかにもホラー映画にありそうなシュチエーションに、一つの古い映画のシーンが頭に浮かぶ。

 『ブ『ブロブ』ッ!?』

 『正解ーい』

 『セイレーン』がパチッと目を開け、青年が仰天した。 瞳がない。 塗装していないフィギュアモデルのようだ。

 ズブズブッ……

 両手がさらに『セイレーン』に潜り込んみ、揺れる乳房にシャツが触れそうになる。

 『ひぇぇぇ!?』

 『あら、まだそんなものを着ていたの?』

 『セイレーン』は、口元に笑みを浮かべ、器用に青年の服をはぎとった。 なまっちろく、鍛えていない胸板があらわになる。

 『や、やめれ……ぞわぁぁぁ』

 胸板が、『セイレーン』の乳房に触れた。 その瞬間、彼女の乳首が吸盤のように吸い付き、ベタベタと胸に広がっていく。

 『うわぁ?』

 ズブズブッと奇妙な感じがし、胸の辺りが『セイレーン』の中に沈み込んだ。 いや、逆に『セイレーン』の乳房が青年の胸に沈み込んできたのだろうか。

 『さぁ……溶け合いましょう……』

 ヌルヌル、ヌメヌメと奇妙な感覚が、胸から腹に広がり……そして青年の下半身が『セイレーン』の下半身に密着した。

 『く……ぁぁ……』

 彼のモノは興奮に高ぶっており、それが『セイレーン』の白い肌に突き刺さり、一拍置いて溶けるような感覚がモノを襲う。

 『と、溶ける……』

 『んふ……』

 『セイレーン』がグニグニと腰を揺り動かすと、彼の下半身に異様な快感が走った。 モノが無数の舌で舐められている、それも外からだけでなく、内側

からもだ。

 『うぁ……ぁぁぁ……』

 ビクビクとモノが震えて、熱い絶頂感が脳天を叩く。 しかし、本当に達したのだろうか。 彼の下半身は『セイレーン』に密着して溶け合ってしまっている

のだから。

 『ああ……これが男の人の……凄いわぁ……』

 『あああ……蕩ける……』

 達した後も青年は解放される事無かった。 重なったところから、じわじわと『セイレーン』の中へと沈み込んでいく。

 『ああ……』

 しかし逆らうことができない。 『セイレーン』と溶け合ったところから、想像できない快感が沸き起こり、冷静な思考ができない。

 『もっと……もっと……』

 『ああ……きて……』

 『セイレーン』の両腕が、青年の背中に回された。 へばり付いた二の腕が背中と溶け合い、新たな快感が沸き起こる。

 『はぁ……はむぅ』

 『んふぅ……』

 互いの唇を求めあう。 そこも溶け合い、舌が絡み合って一つになる。

 (……あ……)

 (……い……)

 体を動かすだけで、新たな快感が沸き起こる。 自分たちは快楽を貪り合うだけの肉の塊になってしまったのか……そんな考えが頭の隅をかすめたが、

すぐにどうでもよくなった。 欲望のままに快感を貪り、その悪夢の様な交わりに身を委ね……

 
 …

 ……

 ………?

 青年は目を開けた。 長椅子に横になった彼を、巨乳美女の『セイレーン』が介抱していた。

 『……いまのは、夢か?』

 『ええ、夢よ』

 あっさり言われ、ちょっと面食らう青年。

 『そーか、夢かぁ』

 『ええ夢……だから』

 『セイレーン』が彼の手を取り、自分の胸へと誘う。

 『?』

 『何度でも、繰り返せるわ』

 ズブズブズブ……

 乳房に張り付いた手が、『セイレーン』の中に引きずり込まれていく。

 『ひぇぇ!?』

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