白い人魚
7:私のリトル・マーメイド
−そして今・マジステール大学・UMA講座−
教授は講義を締めくくる。
「これが私の体験した事だ…笑っているね…この話に証拠は一つも無い…単なるおとぎ話ととってくれてもかまわん」
教授は続ける。
「私は、自身の体験を報告する義務があると考える…だからこの話をした…」
教授は、確かに3か月の間行方不明であった。生還した後、記憶をなくしたとしか言わなかった。
その時、この話をしたら、人騒がせな奴と扱われたか、正気を疑われたかの何れであったであろう。
そして今日、只一度だけこの話をした。
以後、教授が人前でこの話をすることはなかった…
教授は、郊外の一軒屋に帰宅した。
玄関をくぐり、明かりのついたままに居間に入る。
金魚鉢から声がする…
金魚鉢にいたのは、10cmほどの人魚だった。
小さな人魚、リトル・マーメイドが声を掛けてくる。「パパ、お帰りなさい」
通りがかりの漁船に救助され帰る途中で、この子がポケットにいたことに気づいた。
すぐ海に戻そうかと思ったが、無事帰れるかわからなかったので連れて帰る事にした。
帰り着いて、この子の事を公表するかどうか迷い、結局発表しない事にした。
話だけで信じてくれる者だけ信じてくれればよい、そう考えた。
それに、人の心がわかる生き物を、研究資料のように取り扱うべきではない。
”まして、この子は私の娘ではないか…”
コットン助手にだけには話し、彼に謝った。死ぬような目に合わせていながら、名誉を分かち合うどころか、成果なしとしなければならないのだから。
しかし、コットン助手は、それでこそ教授ですと全面的に賛成してくれた。
…大きくなったら、もう一度『光る海』に行って帰してやらねば…
「ただいま、シーラ」…”ただいま、私のリトル・マーメイド(人魚姫)”教授は心のなかで付け加える。
「パパ、だーい好き」チュッ
<ランデル教授・1 終>
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